第5話 鍛造師レイナルド
——渋谷センター街拠点、災害対策支部一階、会議室
拠点へと戻った俺は、如月隊長に出迎えられた。
『お帰りなさい。ハウンドドッグの攻略、ご苦労様でした』
「ああ、聖女様もお疲れ様」
『ここでは聖女様は恥ずかしいからやめてください。今はこの支部の隊長なのですから、せめて隊長って呼んでください!』
「そっか、分かったよ氷華隊長」
『なっ、名前呼びって……まあいいでしょう。本日はもう夜遅いですのでしっかりと休息を取って明日のダンジョン攻略に備えて下さい。高校への通学は明後日の月曜日と聞いておりますので、その日はしっかり登校するようにお願いします』
『面倒くさいな……ああ、分かった』
正式なダンジョン冒険者となった俺は、週に一回の登校が決まっている。
課外授業という名目で、高校に在籍しつつダンジョン攻略をメインに活動するよう、既に校長や担任へと話が通っている。
ちなみに実家にも話は通っており、親の同意を得て支部へと身を置いている状態だ。
日本ではダンジョン冒険者は結構稼げる。
隊長のような迷宮教会所属の役職者でなければ報酬は出ないが、ダンジョンで手に入れた魔石やドロップアイテムは全て自分の【冒険者バッグ】に納めることが出来るので、上手くいけばガッポリと稼ぐことが可能だ。
加えて配信によって得た収益やその他諸々は、完全に俺の懐へと舞い込んでくる。
『地下二階の居住エリアを使って構いませんので、お好きなお部屋をご利用下さい』
「氷華はどこで寝るの?」
『えっ、氷華って……馴れ馴れし……コホン。私は二六〇号室に泊まる予定ですが、それがどうかなされたのですか?』
「いや、何でもない」
『それでは私はこれで失礼しますね』
「おやすみ」
<まさかとは思うが部屋に行く気じゃねぇよな、なぁ!!!>
<ふざけんな糞がっ!!>
<お前は東京都内を救ってりゃいいんだよ>
<聖女様に手出すつもりなんかお前……>
<やめとけって、敵増やすだけだぞ>
<氷華たんのパジャマ姿ペロペロ♪>
学校に登校する前に話しておきたいことがある。
会議室では話し辛い内容だからな。
……お前らが考えてるようなことは起きない。
手を出そうもんなら氷漬けにされて返り討ちに遭うのがオチだからな。
ま、ワンチャンあるかもしれないから、部屋に話に行く時は配信切っとくけど。
◆
さて、エンペラードラゴンから得た戦利品を改めて確認してみよう。
冒険者バッグ。
四次元ポケット並みの収納力を誇る。
あらゆるアイテムを保管、保護する機能を備えつつ、人差し指のサイズまでコンパクトに折りたたむ事も可能であり、ダンジョン探索には欠かせない道具の一つだ。
【帝王炎竜の逆鱗】の鮮度は保たれている。
この貴重な素材を使用して強力な装備を鍛造してもらうつもりだ。
……正直あまり気乗りはしないがな。
——レイナルド・ダ・ヴィンチの工房。
知る人ぞ知る、ある意味有名な鍛造技師の女性が経営する装備品製造工房だ。
会議室の隣の部屋を自分専用の工房に造り変え、毎日の様に金のハンマーを両手に持ちながら、せっせと装備を叩きまくっている。
店主のレイナルドはちょっとばかし変わり者ではあるが、彼女の鍛造の腕前は超一流である。
青い髪の毛に作業用ゴーグルを取り付けた長身の女、独身、二十五歳のお姉さんだ。
「失礼します」
『やぁやぁ長門君、既に君の噂は耳にしている、すごい活躍ぶりじゃないか。で、ここに来たということは何か素晴らしい素材でも手に入れたのかな? アタシの好奇心を満たせるだけの代物じゃなければ早々に帰ってもらうことになるのだが……』
彼女は鍛造技師でありながら大の素材コレクター、言ってしまえばオタクである。
そこらの適当な素材では相手にしてもらえない、彼女のお眼鏡に叶うにはそれ相応の素材を持ち込まないと話にならないのだ。
「はい、エンペラードラゴンの逆鱗ですよ」
『…………げ、げ、げき、逆鱗だとぉぉ?!』
「そんなに凄い素材なんですか?」
『伝説級、プレミア! 鱗の中でも最上級の価値を誇る部位で大変貴重で滅多にお目にかかることができない代物だぞ! 滑らかな肌触りでありながらクリスタルよりも硬度な質感を持ち合わせていて、長期間熱され続けたことにより未だに赤黒く脈動するかのような顎下の逆鱗……いいからさっさとアタシに寄越しやがれ!』
腕を強く掴まれて引っ張られる俺。
負けじと逆鱗を守ろうとするが、十キロを超えるハンマーを毎日使用しているレイナルドの腕力は想像以上に強く、呆気なく取られた。
「はぁ……落ち着いて下さい!」
『……コホン。済まない、お姉さんちょっとだけ興奮して取り乱しちゃったよ。で、この素材を使って装備を鍛造して欲しいってことでいい?』
「お願いします」
『百万』
「へっ?!」
『鍛造料として百万円』
「いや、高すぎ……」
『馬鹿、最上級の装備を造ろうってんだから、このくらいの代金は支払ってもらわなきゃ割に合わないわよ。それに君、スパチャと広告収入で相当稼いでる上に、売却用の魔石も大量に持ってるんだから安いもんでしょ、腹括りなさい!』
俺は言いくるめられた。
当たり前だが手元に百万とかいうアホみたいな大金はないので、借用書を交わして強力な装備を鍛造してもらうことにした。
『少し待ってなさいね』
『カンカンカン……カンカン……カン……』
一時間後。
品が完成した。
【炎竜帝弓カイザーアロー】
火属性の膨大な魔力が込められた弓。
帝王炎竜の貴重な鱗から造られた矢は、神をも討ち滅ぼすと伝えられる程の破壊力と魔力量を有する。
俺は遠距離系の武器を手に入れた。
赤黒い光を放っていてカッコ良くて厳つい。
小っちゃい男の子が欲しがりそうな装備だ。
『どうかねこの神クラスの装備品は。今まで見繕った中でも、まさに最上級の業物の一つだ。さあ、受け取りたまえ若者よ』
「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」
俺は明日に備えて自室で睡眠を取った。
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コミュ障と馬鹿にされていた俺〜魔物と会話する能力でダンジョンの凶悪な魔物を手懐けてたら段々と平和になってバズりまくってるんだが〜 微風 @0wc2k
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