第4話 言霊使い



冒険者として登録をした段階で自動的に決められるのが【ジョブ】という職業システムだ。

ジョブの種類は千を超える膨大な数が存在し、ジョブによって扱えるスキルや魔法が異なる。

ジョブの決定は完全なるランダムという教会からの通達があったのだが、これには疑問が残る。

何の因果か、コミュ力に一切自信のない俺が、よりにもよって言霊ことだま使いというジョブに選ばれたのだからな。

しかもこの言霊使いは大変貴重なジョブらしく、全ての冒険者の中で選ばれた人間は俺しかいないのだ。

あの如月さんが支部に呼んでくれなければ、この力を得ることは出来なかった、感謝である。


俺の取得しているパッシブスキル【会話】は、言霊使いが初期の段階から取得しているスキルだ。

便利ではあるが、魔物と会話をすることしか出来ないため、自分の話術に委ねられているので決して万能ではないのだ。

エンペラードラゴンを手懐けることが出来たのは、言わば奇跡に近い。


そして、エンペラードラゴンから得た経験値により、冒険者レベルが57まで急上昇している。

このレベルの上昇に伴って、俺は新たなスキルを習得していた。

それが【翻訳】だ。

翻訳とはリスナー達が聞くことの出来ない魔物の言葉を文字通り翻訳して、画面上に文字として出力する能力だ。

これも言霊使い特有のパッシブスキルである。





相対するはハウンドドッグ。

危険度Aの犬型の魔獣だ。

ドーベルマンに似通った見た目で三倍くらいの大きさ、迷宮渋谷ステーションの門番と呼ばれている。


『ガルル……グガァァァァ!!!』


……とりあえず会話してみるか。


『人間、ここは俺たちの縄張りだ。噛まれたくなかったら大人しく帰りな』


「その前に一つ聞かせてくれ。魔犬ハチはお前の友達か?」


『ああ、俺の親友だ』


「親友だったのか、だったら連れ戻してやるからここを通してくれ」


『ふんっ、それは無理な要求だ。アイツは十年間も主人をひたすらに待ち続けた可哀想な犬っころさ。結局その人間はいつまで経っても迎えに来ることはなく、不特定多数の行き交う人々のおもちゃにされた人間を憎む忠犬なんだ。だから手出し無用、もう自由にしてやれ』


コイツの言い分は理解した。

だが渋谷の平和のためにも、ここで大人しく引くわけにはいかないんだ。


<ハチは渋谷のシンボルだぞ>

<おもちゃにしたとか出鱈目だ>

<すまん、一ヶ月前ハチに落書きしたのはワイ>

<罰当たりにも程がある>

<絶対通してくれないぜ>

<もう戦うしかねぇよ>


これは中々攻略が難しいな。

ハウンドドッグの意思は固い。


……試しにアレを使ってみるか。


俺は泣き脅しを仕掛けるため、もう一つ、新たに習得していたスキル【説得】を試みる。


感情移入を促す必要がある。

涙はスキルでは流せないので、自力で何とかしなければならない。


「主人はハチを愛していたんだ、間違いなくな。だけど……志半ばで死んじまったんだ。迎えに来たくても来れなかったんだよぉぉぉぉ……!」


危険度Aランクの魔獣はそれなりの強さなので、今の俺のレベル帯で説得できるかは五分の五分。


……さあ、どうだ番犬。


『そ、そ、そうだったのか……くっ、泣ける話だぜ、うぉーんうぉーん…………仕方ない、ハチのことはお前に任せる。くれぐれも気をつけて進めよ、人間』


案外チョロい犬だ。


ハウンドドッグから得た経験値によって【冒険者レベル】が67まで上昇した。

ハウンドドッグは大人しく説得されて道を開放してくれた。


<お前、泣き方下手すぎwww>

<ウォーン……(失笑 >

<戦わずして勝つスタイルか>

<武器に関しては、あのイカれ鍛造師に製造してもらえよ>

<さすがにそろそろ武器無しはキツいからな>

<逆鱗持ってって鍛造してもらえ>





渋谷ステーション一階、通称ゴブリンの巣窟。


渋谷ステーションは非常に広い大型ダンジョンとなっている。

広さだけで言えば、あの六本木ビルズの二倍の敷地面積を有するのだ。

一階、二階、地下一階、地下二階に分かれており、ハチの捜索には広域探知系の結界魔法を有する魔術師の存在が必要不可能と言われている。


「片っ端から探すのも有りだが骨が折れそうだ」


更に言うなら、地下への通路はゴブリンによって閉ざされている。

奴らの親玉の駆逐が肝要だ。


一階では一部の電車は動いているが、ゴブリンに制圧されてしまった駅のホームには巣が建造されてしまい、電車を動かすことが出来ない。

ゴブリンの巣には、ゴブリンの親玉であるゴブリンクイーンが幅を利かせている。


要するに、ゴブリンクイーンの討伐は一石二鳥。

渋谷駅一階を開放することで、更に知名度と人気度を上昇させるチャンスなのだ。


まずはワープポイントを出入り口付近にセッティングする。

ダンジョン攻略には欠かせないアイテムの一つだ。

ただし、かなり高価な代物なので、そう易々と使用はできない。

渋谷ステーションの分岐とも言える一階にセットしておけば、ここぞというときに便利だろう。

出入り口も近いから緊急退避としても機能する。




「ん、支部から通信?」


『如月です。一旦支部へと帰還して下さい』


「了解」


よく分からないが帰還命令だ。

戻ったついでに鍛造もしてもらおう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る