とある殺人鬼の告白

戯 一樹

第1話



 どうして女子高生ばかり誘拐して殺したのか、ですか。ずいぶんとおかしな事を訊きますね貴方も。殺人鬼に何故人を殺めたのかだなんて。喩えるなら犬にどうして犬なのかと訊ねるくらいの愚問ですよ、それ。


 ま、いいでしょう。僕も来週には刑を執行されてこの世からいなくなってるわけですし、最後くらい僕の崇高な行いを文字として残すのも一興かもしれませんね。こうして目の前に週刊誌の記者さんがおられるわけですし。え、どうして急に話す気になったかですか? まあいいじゃないですかそんな事は。面会時間も少ないですし、早く話を進めましょう。


 そうですね。まず何故女子高生ばかり狙ったかという点ですが、女子高生の苦痛に歪んだ顔が何よりも好きだったから、と言ったところでしょうか。きっかけはとある動画サイトからだったんですが、興味本位で観ていたはずがいつの間にかのめり込んでいる自分がいましてね。いつしか女性に……とりわけ女子高生に乱暴を加える妄想ばかりするようになりまして、気が付いたらこの有り様だったというわけです。


 初めに殺した女子高生との関係ですか? いえ、お互い面識はありませんでした。たまたま真夜中に一人で歩いていた所を強引に誘拐してきたんです。ええ、決して計画的なものなんかでなく、完全にその場の衝動だけでした。でもまあ、心のどこかで常に女子高生を誘拐できるよう目を光らせていたのかもしれません。


 被害者の名前なら何となく覚えてますよ。初めて殺した子は直美さんとか言いましたか。とても良い死に顔でしたよ彼女は。髪の毛を毟った時の顔、歯を折った時の顔、骨を砕いた時の顔……今思い出しても愉悦に身が震えそうです。


 いえ、他の三人も無計画に誘拐してはいませんよ。最初の殺人でいかに死体の処理が面倒か痛感させられましたからね。それ以降はちゃんと事前準備して殺すようにしましたよ。持ち運びが楽になるようボストンバックを買ったり、死体を分断する為の鉈を買ったり。


 何も殺す必要は無かった? はは、何を言ってるんですか記者さん。人はね、死ぬ時が一番輝いた顔をしているんですよ。だから僕はこの手で何人もの女子高生を殺したんです。その素晴らしい瞬間をこの瞳に焼き付ける為にね。


 ああでも、最後の件に関しては僕が殺したとは言い難いですね。なんせ彼女、人気の無い真夜中の道中で轢き逃げにあったのをそのまま誘拐しただけでしたから。とても良い表情をして倒れていたので、あまり気にしませんでしたが。


 そうそう。轢き逃げで思い出したんですが、あの時現場近くで名刺入れを拾いましてね。それで中を見てみたら、これが貴方と同じ出版社の物だったんですよ。多分轢き逃げした犯人が落とした物なんでしょうけれど、今頃その犯人、一体どこで何をしているんでしょうね。


 おや、顔色が真っ青ですよ。気分でも悪いんですか?


 おっと、もう面会時間も終わりみたいですね。それでは、僕はこれで。


 あ、そうそう。どうして貴方にこれを話すつもりになったかという問いの答えですけど、それはね、記者さんから僕と同じ臭いがしたからなんですよ。


 僕と同じ、人殺しの臭いが、ね……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

とある殺人鬼の告白 戯 一樹 @1603

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画