追放されたフェアリードラゴン使いの農家が勇者として拾われる件(ボツ案2)

@gi-ru777

ボツ案2 短編小説用

「被告人フェーンリック・レーン。本件につき、貴公に落ち度なしと認め、無罪を言い渡す」

 俺は軽く笑った。当たり前だ。俺に落ち度なんてない。

「逆に原告ルーデンドルフ伯爵。貴方のご子息は被告の家畜を傷つけただけでなく、ローゼンリッヒ侯爵の財産にも損害を与えた。よって、罰金の刑に処す」

 伯爵は抗議するも、裁判官は冷静に対応する。「この裁判に身分の差は関係ない」と言い切った裁判官に、ルーデンドルフは黙るしかなかった。悪魔の角を生やした牛型の魔物のモーモンを傷付けて農場を破壊した罰だ。大人しく受け入れてくれると良いが。

 ルーデンドルフの子供のジョンショーン二世は、グルグル巻きの右腕の包帯をさすりながら俺を睨みつける。

 裁判後、お得意先の侯爵が俺に声をかけた。

「大変だったな、フェーン。君に落ち度はない。代わりのモーモンを用意してくれると助かるが、それも君の状況次第で構わない」

 俺は感謝を述べ、彼との関係を大切にしようと思った。

「ギャーオ!」

 裁判所を出ると、オレンジ色のフェアリードラゴンが、夕焼けを映すように輝きながらばっさばっさと翼をはためかせてきた。ドラゴンは地面に降り立ち、俺の頬にスリスリして甘える。

「おぉ。心配してくれたのか? 無罪だよ、リデル。俺たちは何も悪くないからね」

「ギャオス」

 俺がフェアリードラゴンのリデルの頭を優しく撫でると、嬉しそうに鳴いた。

「リデル、行こう。今日はこのまま農場に帰る。もう一仕事しなきゃな」

「ギャオス!」

 リデルは嬉しそうに翼を広げ、一気に空高く舞い上がる。俺もその後を追い、農場へと向かう足を早めた。


 さて、ここからが大変だ。農場へ辿り着くと、荒れていた農場が少しずつ修復されていた。ジョンショーン二世が放った攻撃魔法によって破壊された柵には、仮止めの木の柵が設置されていた。

「よう、フェーン。裁判お疲れ」

 農場に戻ると、ドワーフの大工が迎えてくれた。

「裁判、お疲れさん。こっちはぼちぼち修理してる」

 農場は一部が攻撃魔法で荒らされていたが、修復作業が進んでいた。

「ところで、今回の裁判であの貴族は謝ったのか?」

 大工は破壊された農場を指す。

「いや、謝るどころか睨みつけてたよ。また何かやらかしそうだな」

 俺が呆れた顔と手振りで表現すると、彼は苦笑する。

「そいつは災難だったな。そういや、さっき俺の村の呪いの解除が終わったよ。しばらくは魔物料理の出番はまだあるが、外国から買った穀物と家畜が順調に育ったらどうなるのやら」

「そうか。俺たち魔物農家はもう少しで需要がなくなるのか」

「七五年前、勇者シエロ様が魔王を討伐してくださったおかげで、国は呪いから解放された。けれど、今じゃその功績も忘れられがちだな」

 彼は寂しい顔をして修理の続きをする。

 魔王の危機もなくなって「家畜や穀物が育たない呪い」の呪いが少しずつ解けたことで、魔物農家が廃れる危機に直面している。親父から受け継いだこの魔物産業も、俺の代で廃業になるかもしれない。

「魔物料理の需要は減ってきたが、お前さんの作る乳製品はまだ人気だよ」

 大工は俺の肩を叩いて励ましてくれた。リデルも俺の寂しい顔を察してか、俺の頬をスリスリと頭で撫でまわす。

 俺はモーモンの傷の具合を確認するために、リデルを呼び寄せた。

「リデル、頼む。この子の様子を見ててくれ」

「ギャオス!」

 元気よく答えたリデルは、モーモンのそばに寄り添い、優しく頭を撫でた。その仕草に安心したのか、モーモンが落ち着きを取り戻す。

「これで安心だな」

 俺は言いながら、次の仕事に取り掛かる。

「土地と金をよこせ!」

 突然、叫び声と共に火の矢と魔法による光線が俺たちの方へ飛んでくる。目の前にいる敵は、オークの群と人間の盗賊襲撃で、だいたい五十人くらいか。

 この後、農場の修理の他に異国の使者と会う約束があるのに、コイツらに構っている暇はない!俺はリデルに攻撃の指示をして、ダンケルクに退避の指示を出す。

 リデルのファイアブレスで半数の盗賊を蹴散らす事ができたが、何人かは突撃してくる。

 これじゃ、キリがない。俺は農場の地下にいるゴーレムを呼び出す魔法を唱える。唱えた直後に魔法陣が出現し、三体のゴーレムが召喚される。召喚されたゴーレムは俺の呼びかけに応じ、左右、後方に分散して盗賊集団と戦闘する。

 俺は腰にある剣を引き抜き、散り散りになっている盗賊集団に突っ込む。盗賊集団は剣や斧を持っているが質が悪いのか、俺が剣を振り回すと割れていく。怯んだ盗賊達は血相を変えて逃げようとする。しかし、彼らの背後から高火力魔法が飛んできて次々に餌食となる。

「勇者崩れのフェーン! ここが貴様の墓場だぁ!」

 突然、ジョンショーン二世が馬に乗って俺の方へ猛スピードで突っ込んで来た。

 彼は馬で突撃しながら高火力魔法を俺にめがけて連発しているが、一発も俺に命中しなかった。むしろ、逃げ惑う盗賊集団に次々と命中して自分の味方の被害を拡大している。

俺のところまで後数メートルの所で彼は馬から飛び降りて、俺に斬りかかろうとする。

しかし、俺がひょいと避けると、貴族の息子はバランスを崩して盛大に転んだ。

「わ、わが攻撃を全て避け切るとは……」

 ジョンショーン二世は必死に涙を堪えて俺を睨みつける。いや、全部外れただけだろ。

彼はよろめきながら立ち上がり、剣を振り回すが届いていない。俺が奴の額にデコピンしたら大げさに倒れ込んだ。

「こいつ、攻撃が何倍になる代わりに防御がその分ダウンする魔法と回復魔法を自分にかけたな。だが、この魔法の術式はノームでもエルフでも人間でもない?」

 俺が独り言で呟くと、遠くの方から俺の農場を囲むように貴族の騎士団が攻めてきた。

 こいつと盗賊集団は俺たちを消耗する囮か!

 よく見ると、貴族軍の一人一人にレシュテ王の息子でドワーフハーフのシュトルツェ王子の勲章をつけている。

「はは……勝ったな! シュトルツェ王子こそが次の王になるお方だ。あのお方が王となれば、貴族と不当な裁判を下した裁判官もまとめて処刑してやる!」

 全身痣だらけで大ケガを負っているジョンショーン二世は、倒れたまま吠え面をかく。

 俺は奴の言葉を無視して剣を構え直し周囲を確認する。シュトルツェ派の軍隊はだいたい五十人規模か。……流石に厳しいか。

「フェーン、助けにきた」

 頼もしい男の声が聞こえたと思ったら、次々と攻撃魔法の弾幕がシュトルツェ派の軍隊に降り注ぎ撃退していく。

 見えたのは、こちらに向かっていく集団だ。人間やホビット、オーク、エルフ、ドワーフと多種多様な種族が同じ鎧を身にまとい、洗練された動きでこちらに向かっている。盾の輝きには異国の紋章であるカーガプラウトン王国のキメラが刻まれていた。

「カーガプラウトンの使者……助けに来てくれたのか」

 彼らの先頭を馬で走るのは、屈強なオークの男だ。銀色の軽装鎧に身を包み、腰には短剣、背中には大振りな戦斧を背負っている。彼の動きは威圧感に満ちているが、同時に理性的な判断力を持つ者の慎重さを感じさせた。彼こそが、カーガプラウトン王国の使者の隊長、ラドーだ。

 その横で敵の軍隊を蹴散らすのは、赤毛のホビットの少女のジェーン。彼女は両手で小型のボーガンを抱え、警戒を解かない表情を浮かべている。ホビットとはいえ、その動きには訓練を積んだ者特有の無駄がない。異国の使者は一個小隊規模で、シュトルツェ派の軍隊よりも数は少ない。

 それでも彼らにとっては大した敵ではなく、他のメンバーが一斉に敵を圧倒する。

「この寄せ集めの軍隊風情が!」

 騎士団長らしき男が叫びながらラドーへ向けて突っ込む。しかし、ラドーの元へたどり着く前にジェーンが横からボーガンを発射した。ボーガンの矢は騎士団長の右肩に当たった。その拍子に持っていた剣は持ち主から放り投げられ、逃げている味方の人間の背中の鎧に突き刺さる刺された男はよろめき倒れていく。

 この一瞬で起きた彼らの連携の取れた攻撃に、俺とリデルは思わず見惚れていた。

「シュトルツェ閣下、このままでは我が部隊が全滅しかねません。まだ計画があります。ここは」

「ク……! まさか、あの寄せ集めの国の軍隊が絡むとは」

 声のする方へ視線を向けると、苦虫を嚙み潰したような表情をしたシュトルツェ王子と側近の男がいた。筋骨隆々とした体格、鋭い目、金髪の若いハーフドワーフ王子。

「貴方は七十五歳とまだお若い。ここで未知の敵と戦って命を落とすよりも大切な大儀があるでしょう」

 七十五歳と聞けば人間からは高齢に見えるが、ドワーフの寿命を引き継いでいるため、人間換算で三十代の青年期にあたる。彼はその長命さゆえ、未だ王位を継承できずに苛立ち、執念深く権力を狙っている。側近の男から、わずかに魔族の魔力が混じっている。

「全軍撤退! 体制を立て直す。フェーン。次に会うときは覚えとけ」

 こうして、シュトルツェ派の軍隊は負傷した兵士を急いで担いで退散していく。

「そ、そんな……シュトルツェ閣下。私を置いていかないでください。……まだ、戦えます」

 今にも泣きそうなか細い声でジョンショーン二世が王子に助けを求めるも、無視していった。まぁ、このガキは利用されてるとは思っていたが、ここまでくると哀れに思えてきた。

「フェーン、久しぶりだね」

ジェーンが微笑みながら歩み寄る。

「……やっときた。フェーン。話は聞いた。酷いやられようだ」

 カタコトで低いが抑揚のある声が、ラドーの印象的な威厳を伝えてくる。俺はすぐに頭を下げた。

「お久しぶりです。お越しいただきありがとうございます……ただ、こんな状況で迎えるのは不甲斐ない限りです」

「お前。悪くない。大丈夫」

ラドーは俺に目を向けると、ポンポンと肩を叩いた。

「フェーン。隊長は『今回、我が王であるライアンが注文したモーモンが死傷した件はとても残念に思っている。だが、貴方の事を気に入っているから全力で守る』と言っています」

 向こうの言葉でラドーが話しかけているのを、ジェーンが翻訳する。

「ところで、王がフェーンさんに会いたいとおっしゃっていました」

ジェーンの言葉に俺は目を丸くした。「ライアン王が……俺に?」

「はい。フェーンさんの魔物研究と、この農場の噂を聞いて、興味を持っておられるようです」

「それは光栄です!」

 あの大工の言った通り、俺には助けてくれる人がいるみたいだ。

「それと、前々からシュトルツェ王子の動向を探っていたのですが、密かに魔族と密会している様子が見られます。最悪の場合、王の暗殺と魔王復活の可能性があります」

 やはり、そうか。あの側近の顔は見えないが、貴族の子供に魔族の魔法がかかっている点や戦場に残る微かな魔族の気配が漂っていた。恐らく、あの王子は野心を魔族に漬け込まれて利用されているのだろう。

 俺たちは、ラドー隊の協力で牧場を修復しつつ明日レシュテ王に報告する事にした。

「そうか、フェーンよ。いよいよ恐れていた事が起きたか」

 翌日、俺はレシュテ王に呼び出されて謁見室で今回の事件の報告をした。王は皺と白髪まみれの百二歳と高齢であり、玉座に座っているのがやっとの状態だ。

「勇者シエロ様がこの国を魔王から救ってくださってから七十五年経過したが、まさか息子の失態と野心で滅ぶ事になるとは……」

 レシュテ王は頭を抱えて苦しそうに項垂れる。

 レシュテ王の息子のシュトルツェ王は王位継承第一位である。他の后が生んだ王子や王女たちは、周辺国へ嫁ぐか、戦争や病で命を落とした。結果、長命種のハーフであるシュトルツェは継承順位第一位となった。しかし老王レシュテの長寿と慎重さゆえ、いまだ王位を譲られずにいる。この停滞が彼の野心をさらに煽っている。

「ご子息が、貴族の子供を使って私の農場を襲撃し、カーガプラウトンの王への献上品を失ってしまいました。それだけではなく、使者の情報によって魔族が絡んでいる事が分かりました。外交問題だけでなく、魔王復活の危険性があります」

「あの息子が、五年も前から経歴の怪しい商人を側近にしたから様子がおかしいと思ったが……」

 ちょうど魔物農家や勇者制度が毛嫌いされ始めた時期と重なる。

 どうやら、レシュテ王も怪しいと思っていたみたいで探りを入れたが掴めなかったそうだ。商人は人当たりはよく、魔法書を販売していたそうだ。

「あの商人は明るい好青年で、貴族や商人から人気があったのじゃが……。そういえば、顔と名前を思い出そうとすると黒いモヤがかかって思い出せんかった」

「レシュテ王。恐らく、魔族の魔法で顔を思い出せなくなる魔法を使っていると考えられます」

 普通の魔族なら、人間に擬態しても魔法を使った時の痕跡でバレるはずだ。

 俺の農場を襲撃するまで魔族の魔力の痕跡を隠し続けたということは、よほど擬態の上手い魔族なのだろう。

「恐らく、王子は魔族の側近に魅入られています。早急に商人を逮捕して調べる必要があります」

「その必要はない」

 突然、謁見室から謎の男の声が聞こえたのと同時に火炎魔法がレシュテ王の身体を貫く。

 俺は咄嗟にレシュテ王に襲いかかる炎を基本的な水魔法で消火した。

「き、貴様。我が……父に」

 レシュテ王の絞り出す言葉に俺は驚きながらも、レシュテ王の目線をたどる。

 そこにいたのは、シュトルツェ王子と側近の男だ。確かに顔の整った青年の顔立ちだが、よく見ると黒いモヤがかかっていて特徴がよく分からない。多分、人に好かれやすくなる魔法だろう。

「老いたな父君。大人しく王位を吾輩に渡しておけば、平穏な隠居生活が望めたものを」

 シュトルツェが合図すると、配下の宮廷魔法使いや騎士団が俺と王を囲む。

「貴様! レシュテ王の暗殺を企ててタダで済むと思うなよ」

 俺がシュトルツェ王子に剣を向けると、奴は鼻で笑う。

「フェーン。貴様は『レシュテ王の暗殺した首謀者』としてこの国を追放する。そして、吾輩が貴様を討ち取りこの国の王となる。それが、神が決めた事だ」

 このバカ王子の言葉で全て察した。わざわざ火炎魔法で王を攻撃したのは、俺とリデルを嵌める為だ。レシュテ王をフェアリードラゴンの炎で焼き殺した事にすれば、残りの勇者制度とドラゴン使い必要論の勢力を排除する事が出来る。

「あんな異種族の寄せ集めの使者が絡むとは想定外だが、戦争となっても我が騎士団は勇者候補生に頼らずとも十分勝てる。安心して逝くがいい」

 シュトルツェの命令を受けた配下は俺とレシュテ王に襲いかかる。俺は昨日ラドーの使者から貰った煙玉を投げつけると、爆発した。煙玉の煙によって怯んだ隙に、火傷を負った王を抱えてる。俺は王をリデルの背中に乗せて一緒に逃げる。

「待て! 逃がすな。聞け! 貴族、民衆に告ぐ! 勇者候補生でドラゴン使いのフェーンが、我が父で王のレシュテ王を暗殺した! 奴は他国の王と手を組み、この国を乗っ取ろうとしている!」

 シュトルツェは、宮廷魔法が用意した拡声魔法で国民に下らない演説をし始める。俺たちはそれを無視して農場へ向かう。あそこなら、治療薬もあるし俺が用意した魔物が守ってくれる。

「やっと、逃げ切りましたね。レシュテ王」

 ひとまずホッとした俺は項垂れる王へ話しかける。

「すまない……フェーン。お前を、王殺しの汚名を着せる事になって」

「王、まだ貴方は死んでません」

「ワシはもう長くない……息子を……見捨てていれば……」

レシュテ王は静かに息を引き取った。

 俺は鼻の奥がツーンと痛み、目の縁から涙が染み出てくる農場へたどり着くと、既に戦闘が終わっていた。どうやら、シュトルツェ派の兵士たちが俺の農場へ攻撃しにいったが、ラドーが手配した部隊が撃退してくれたようだ。

「フェーン! 無事で良かった」

 通訳のジェーンが俺を出迎えてくれた。どうやら、俺が王と謁見している間にラドー隊が他の部隊を引き連れて魔王復活を阻止しに城へ向かっているようだ。

「俺の事はいい。レシュテ王がシュトルツェと魔族の側近らに暗殺された」

 ジェーンは、俺が抱えている王の遺体をみて全てを察する。

「じゃあ、あなたの王国は彼らに乗っ取られたわけね……。フェーン。辛いとは思うけど、 この問題が解決したら丁寧に埋葬しましょう」

 俺とジェーンは、王の遺体を毛布で包んで農場の地下の方へ安置した。

「フェーン。先ほど、ライアン王からの通達があるんだけど」

「なんだ急に」

 ジェーンはかしこまった表情で話しかける。

「実は、貴方をカーガプラウトンの勇者として雇い、今回の魔王復活阻止の作戦に参加して欲しいの」

「え? 俺を勇者に?」

 突然の異国の王からの通達に、俺は驚いた。

「私達は、貴方のドラゴン使いとしての実力を買っているし、勇者としての素質があると思っているの。貴方とリデルとは短い付き合いだけど、私達もライアン王も貴方の事を信じているの」

「勇者としての素質か」

 俺は俯き、考え込む。

 二十代の頃勇者を夢見て、勇者試験を受けた事があるが、最終試験で落選した過去がある。

俺は幼かったリデルを拾い、実家の魔王農業を引き継いでも、勇者としての訓練を毎日欠かさなかった。

 まさか、こんな形でチャンスが来るとは思わなかった。だが、俺は答えに躊躇していた。

「フェーン。『自国の王を守れずノコノコ逃げ帰った俺に勇者なんて務まるのか』みたいな顔をしてるけど、貴方に選択肢なんてないんじゃない?さっき、うちの隊員がこんなものを見つけたの」

 ジェーンが俺に手渡したのは、俺の手配書だった。ものすごく人相の悪い似顔絵に『王殺しのドラゴン使い』という肩書と多額の懸賞金がかけられていた。

 もうこんなの用意してたのかよ!あのクソ王子。

「どうする? このまま王殺しの汚名を着て相棒と共に国を追われるか。うちの国民の勇者としてうちらのリーダーになるか。ふたつにひとつよ」

 ジェーンは俺用に用意した特注の鎧と契約書を持って選択肢を迫る。すると、カーガプラウトンの使者が血相を変えてジェーンに何かを伝える。

「たった今、フェーンの農場に大量の賞金稼ぎや村人が武装して攻めてきたよ!」

 もう考え込む暇はないじゃねぇか、これ。

「全く……。ライアン王って奴は。俺が勇者パーティーのリーダーでいいんだな」

「えぇ!そうこなくっちゃ」

 ジェーンはとびっきり可愛い笑顔で返事をする。


 シュトルツェ派の貴族や騎士団の猛攻を蹴散らして中へ入ると、レシュテ王が玉座に座って愉悦に浸っていた。長年願っていた王位がそんなに良かったのかよ。正直気持ち悪い。奴は俺の姿に気付き、見下した表情で近づいてきた。

「ふん、来るとは思ってた。まぁいい。王の最初の偉業として、王殺しのお前をこの手に打ち取ってみせる」

 奴は斧を片手で構えて近づく。俺は嫌な予感がしたので、リデルから飛び降りて防御魔法を展開する。同時に奴は、もう片方の手で光線を放つ攻撃魔法を唱えて攻撃してきた。俺は間一髪で防ぐ事ができたが、奴の意外な攻撃に驚きを隠せなかった。

「うそでしょ……。なんでこいつが、エルフの魔法を使えるの?」

 ジェーンはリデルから降りてシュトルツェにボウガンを構えているが、かなり動揺している。

「ハーフドワーフの吾輩が魔法を使えることがそんなに驚く事かね?」

 そもそも、ドワーフの体質的に魔法との相性が悪い。人間の血が半分入っているとはいえ、三半規管が鋭く感覚に優れているドワーフが魔力酔いせずに使えるとは思えない。だが、なんとなく見当はついている。

 奴はお構いなしに俺に向けて多種多様な攻撃魔法を放ちまくる。俺は奴の魔法を避け続け、よけきれないものは防御魔法ではじき返す。どこかの貴族の子供とは違って、正確に俺を捉えている。

「ははは! どうした、フェーン! 勇者候補生の貴様の肩書は金で買ったものか? それとも吾輩が強すぎるのかな?」

 傲慢な王子は高笑いしながらゆっくりと近づく。

「そろそろ、頃合いか」

「なんだ? 死ぬ覚悟が出来たか?……うぅ」

 シュトルツェは口を手で押さえて吐きそうになっていた。当然だ。魔力管理せずに攻撃魔法を乱発したら魔力酔いを引き起こすに決まってる。

 奴は苦しみながら膝を地面につけて頭を手で押さえる。

「き、気持ち悪い……。な、何をした」

「それよりも、お前の隣にいた商人の側近はどこにいる」

「お前を処刑してから、始末する」

 諦めの悪い王子は斧を取り出して切りつける。斧の扱いはドワーフの得意分野といったところか、捌き切るのが精一杯で正直真っ向勝負してたら負けると思った。だがそれは最初のうちで、時間が経つにつれて勢いがなくなっていき膝をついて咳き込む。

「わ、吾輩の身体が……」

 シュトルツェの身体はみるみるうちに老化し始めていく。腕はやせ細り、金髪で整った髪型と両端がカールしたカイゼル髭がしおれていく

「ねぇ、一体奴の身に何が起きているの……。まるで、爺さんみたい」

 ジェーンは、あまりの奴の変貌ぶりに開いた口が塞がらない。

 七十五歳でドワーフ基準の青年くらいだったシュトルツェ王子の見た目が、人間基準の老人へと変貌していく。

「恐らく、魔族の魔法で魔力増幅した反動で老化したんだろうな。じゃなきゃ単なる魔力切れで老化するなんてあり得ない」

 俺は王子を憐れんだ目でみて分析する。思えば、農場であの貴族の子供が高火力の攻撃魔法を連発してる時点で気付くべきだった。

「意外と使えなかったな、シュトルツェ王」

 玉座の方から低い声が聞こえたので見てみると、例の商人が魔族の気配を漂わせてやってきた。そのせいか、顔が整っていて人当たりは良さそうだがモヤで詳細が読み取れない。

「貴様……吾輩を裏切ったな!」

「裏切る?お前も王位についたら我ら魔族を始末するつもりだったのだろう。最初から」

老いたシュトルツェ王は魔族の側近に吠えるが、声がしゃがれて王としての威厳が感じられない。それに対して、魔族の側近の声は抑揚がなく、ただ文書を読んだだけみたいだ。

「ク……、我が騎士団で……」

「ご自慢の精鋭の騎士団は、我ら魔王軍と異国の軍隊で板挟みになって全滅しましたよ」

「な……」

レシュテ王は魔族の言葉に愕然としており、額から冷や汗が滴り落ちる。

「そもそも、魔族や魔物との戦闘経験が浅く、せいぜい隣国との小競り合いで勝った程度の実力で精鋭中の精鋭とは」

魔族の側近は、これまで擬態の為に抑え込んでいた魔力を一気に解放した。解放された魔力のオーラはこの城全体をすっぽりと覆う程に強力で、肌にピリつく感覚が襲いかかる。魔族というより、大魔族クラスだ。

「むしろ我らが警戒すべきは、フェーン。お前たちのような勇者とドラゴン使いだ」

魔族の側近が剣を召喚し、俺に向けて飛ぶ斬撃を飛ばす。

俺は咄嗟に剣で弾き飛ばすが、弾き飛ばした斬撃が謁見室の壁を貫通する。その拍子で天井や壁にヒビが入り始める。さっき、シュトルツェが無闇矢鱈に放った魔法で所々、城に穴が空いていたからいつ崩れてもおかしくはなかった。

「流石は勇者試験で最終選考に残っただけはある。王や騎士団と比べて驕りも油断もない。お前こそが本物の勇者だ。だが……」

大魔族が一瞬で姿を消した。

「大勇者フェーン。お前の目の前にいる魔族は五千年魔王に仕える者。カリゴだ」

ここで俺の意識が飛んだ。


目が覚めると牧場のベッドの上にいた。ラドー隊が俺たちを囲んで事の顛末を教えてくれた。

 どうやら、俺はカリゴの一撃で腹を裂かれた上に崩壊した城の下敷きになって死にかけていたらしい。

俺が一週間目を覚まさない間、王国の情勢が一変したようだ。簡単にまとめると、大魔族カリゴが王国を乗っ取り魔王を復活させてしまい、滅んでしまった。今では魔王を復活させた重罪で貴族や騎士団と共に裁判にかけられている。

 俺の農場と国の半分の領土はカーガプラウトンに編入された。ジョンショーン二世は更生する為の教育を施しているらしい。

「私達はここを拠点に勇者パーティーを結成して魔王を討伐することになったの」

「俺の農場を拠点に?急な話だな」

「あ、勇者パーティーのリーダーは貴方のままで、うちらがサポートする事になったから、よろしく」

 ジェーンは穏やかな表情でラドーの言葉を翻訳する。

 俺がリデルの頭を撫でるとリデルが力強く吠えた。

「ギャオス!」

俺は決意を固める。

「全く、ライアン王って奴は。……よし、やるか!」


こうして俺達は農場を運営しながら、魔王討伐の勇者パーティーとして活動することとなった。





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