*7 エピローグ

 翌日の朝。

「おはよう」

 そう言いながら教室に入る。窓際のいつもの席でひかりがラケットにガットを編んでいる、ように見えた。見えただけ。彼女の席は空いていた。今日はガット編まないのかな。私はいつもの場所にいないひかりの姿を求めてぼーっと突っ立っていた。そんな私に背後から声をかけられた。

「おーす、さなえ」

「ひかり! おはよ。今日は暇なんだね」

「いや……」

 そう言うひかりの肩には誰かのラケットが2本ぶら下がっていた。

「さっき校舎の入り口で渡された」

「誰に?」

「青木と畠田」

「え!? もしかして男バドの1年の?」

「うん」

 なんとついに男子バドの子まで頼んできたか!

「放課後までに頼むって。釣りはいらねーよって言って600円置いて行った」

 気前がいいって言っていいのか微妙な金額だな。

「もう、断ればいいのに!」

「いやいや、休み時間の暇つぶしにちょうどいいから」

「テンションは?」

「男だし『ガチガチ』でいいんじゃない?」

 そう言いながらいそいそとカバンから道具を取り出すひかり。いつも持ち歩いてるんだね。

「横糸張ろうか?」

「今日は2本だけだし大丈夫。ありがとう」

 そう言いながら手早く縦糸の長さを計って新品のガットを切る。中央から左右へとテンションをかけながら編んでいく。窓から差し込む朝の光がひかりを包む。今日も彼女は鼻歌を口ずさみながら上機嫌でガットを編む。

 





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