第6話 大聖女になった平民聖女
ラウリス様に捕らえたカルミア様は、国王陛下主導の尋問の場で『カレイド王国に訪れた理由は、最初から大聖女を殺すだった』と自白した。
というのも、幼い頃から聖女に憧れていたカルミア様には、残念ながら神聖力は宿られなかった。
しかし、当時平民だった私に膨大な神聖力が宿っているのを知ったカルミア様の実家であるミーコック家が、娘の夢を叶え、更なる名声を得ようと、裏ルートで禁忌の魔道具である『他者から魔力や神聖力を吸う魔道具』を入手した。
それが、彼女が常に身につけているルビーのペンダントだった。
そして、神殿に莫大な賄賂を渡してカルミア様を聖女にした後、魔道具を使い私の神聖力を吸わせ、彼女を大聖女という地位に就かせたのだ。
つまり私は、最初からカルミア様を聖女に仕立て上げるための聖女だった。
ちなみに、私を追放した後、カルミア様は神殿にいた聖女達の神聖力を吸い、自分の美のために使っていた。
「お父様に言われた通りにしただけ! だから、私は何も悪くない!」
尋問の場で陛下に対してしきりに無実を訴えるカルミア様。
そんな彼女に頭を痛めた陛下は、アガリテ神聖国に『『大聖女』を名乗る者が自国民を傷つけたので、強制帰国の後、厳正な処罰を求める』と抗議した。
それに対し、アガリテ神聖国は『女神に愛されている我が国に、『大聖女』を名乗る罪人など存在しない。従って、その罪人は貴国の法律に則り処罰してくれ』と返した。
要は、神聖国は大聖女様を見限ったのだ。
その上、『もしかすると、そちらで大聖女と名乗っている者が本物の大聖女に違いないから、我が国に引き渡してくれ』と厚かましいお願いをしてきたのだ。
これに怒ったカレイド王国並びにその周辺諸国はアガリテ神聖国との国交を断絶。
同時に、今まで聖女に頼ってきた回復や結界や浄化の分野を、魔法や魔道具などで補完する研究が急速に進められていった。
そして、肝心のカルミア様はというと、『我が国の大聖女』……つまり、私を傷つけた罪で、凶悪犯罪者達が働く鉱山近くの娼館に一生、無償で働くことになった。
そう、私は知らなかったのだけど、私がカレイド王国に来た時には既に、私はカレイド王国から大聖女に認定されていた。
そのことをカルミア様の一件が落ち着いた頃、団長室の応接用ソファーに隣り合って座っていたラウリス様から聞いた時は、言葉が出ない程に驚いた。
「そ、それでは、どうして私は騎士団で下働きとして働けたのですか? 普通なら、神殿に保護されるのでは?」
「それは、君の話を聞いたあの偽大聖女が我が国に来ると思ったからだ。そうなったら場合、他国とはいえ、女神に愛されている大聖女様相手に、神殿が逆らえるはずがないからあっさり引き渡す可能性があった。もちろん、国王陛下と大神官様には許可を得ている」
「つまり、カルミア様が来るのを分かっていたから、騎士団が保護していたということですか?」
「ま、まぁ、それもあるが……」
「ん?」
急に照れくさそうに頬を掻いたラウリス様は、小さく息を吐くと真剣な表情で私を見た。
「実は俺、メリアに一目惚れしたんだ」
「えっ?」
――ラウリス様が私に一目惚れ?
驚いて言葉を失う私を見て、ラウリス様が優しく微笑んだ。
「海上での魔物討伐の時、健気に働く君を見て好きになった。だから、どうにか口実を付けて陛下に直談判して君を我が国に……俺がいる騎士団に迎え入れたんだ」
「では、わざわざ私を迎えに来たのは?」
「君をあの地獄から一刻も早く救いたかった。ただ、それだけだ」
「っ!」
――ラウリス様は、本当に私のことが……
自覚した途端、頬に熱を感じるのと同時に今まで味わってきた辛さや苦しさが涙となって溢れ出た。
そんな私をラウリス様が優しく抱き締めた。
「君は近いうち、大聖女として神殿に身柄を保護される。だけど俺は絶対君を迎えに行く。だから、待っていてくれないか?」
「……はい、もちろんです!」
「とは言っても、誰にも奪われたくないから毎日会いに来るが」
「えっ!?」
その後、実は王弟殿下だったラウリス様が、私を迎えにきたのは、そう遠くないことだった。
大聖女様に神聖力を全て奪われた平民聖女は、隣国の騎士団長様に拾われる 温故知新 @wenold-wisdomnew
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