異世界へ召喚(?)されると彼氏が騎士になっていた。【私が聖女って何事!?】

桜の一夜

第1話 零はどこへ?

「あなたが消えて、一回目の夏が来ました。」


ミンミンとしつこく鳴るセミの音を聞きながら、

照り返す地面からの熱と熱風を感じながら、

シャクシャクと音を立てて甘いけどさっぱりしたアイスを食べながら、

あの人のことを思い出す。


私、音井 莉音(おとい りのん)は昔から耳が良くて最近は幻聴まで聞こえだしたので、そろそろ病院に行かなきゃと思っている。ただし、内容は私を助けるものばかりでこのままでもいいのかな?とも思っている。

そして、あの人というのは、小鳥遊 零(たかなし れい)という私の彼氏だ。彼は心が強くて口数は少ないが大好きだ。


そんな零はある日まるで最初から居なかったかのように消えてしまった。なんと、クラスの子も覚えないし、零の家は跡形もなく無くなっていた。


【リノン!リノン!】


最近よく聞こえる幼い女の子の声。この子はいいことしか言わないから耳を傾ける。


「なあに?」


【森!神社!】


この子は片言しか喋らないので理解まで時間がかかったが、近くの山奥にある神社だと気づいた。


「神社?何の用?」


【……。】


詳しい説明は一切無いがとりあえず向かう。



「久しぶりに来たらいいね!」


よく零と来ていた森に入ると澄んだ空気を深呼吸する。太陽の光もちょうどいいし、ピチピチという鳥の鳴き声も聞こえる。


【右!左!】


「はいはい。」


声の言う通りに進むと来たことがない道に出会う。


「ここは?」


少し広がってる場所に立派で何百年かかったのかと言う木が生えている。辺りは草でふわふわ。


「……これ、」


木を見ていると、木と同じ色をしているボタンが付いてる。押すと大きなレバーが出てくる。


『俺、右が好きなんだよね。』


どっちに回すか考えていると零のよく迷った時に言ってた言葉を思い出して右に回してみると、中から目が痛いほど光っている。興味本位で触ると、


「きゃ!」


【愛しの聖女様。待ってました。】


眩しくて目を開けられない。聖女様って何?!


【あなたに会えるのを楽しみにしてました。】


いつも片言なのに今はしっかり喋っている声が気になるけどそれより今はどうにかしないと!私は手で遮ろうとするが空間ごと光っているみたい。


【王と世界を救ってください。】



「!」


さらに一瞬強く光ったので目を強く閉じた。光がおさまった気がして目を開ける。


「どこ?」


そこはさっき居た森と似てるけど、木の種類が変わっていて、鳥の鳴き声も聞いたことがない鳥の声もする。



「どうしよう。」


ガサガサとポケットや辺りを見渡す。スマホどころか鞄も無い。とりあえず人のいる所へ行こう。私は座っていたため、立ち上がって歩き出す。


ここに来てからあの子の声がしなくてシーンとしている。どうしたんだろう。



「え!どこ、ここ?」


体感は何時間も歩いた気がしたが時計が無いので分からない。それよりも、日本では見たことの無い高い石壁と鎧を着た人が立っている。まるで、漫画で見た異世界みたい。


【そうだよ!】


あの子の声が聞こえて、抜けた。


「きゃ!」


目の前に光の粒を纏って飛んでいる小人、多分妖精らしき人が現れる。


【あー!やっと喋れた!】


その妖精からいつも聞こえてる女の子の声がする。


「あなたって、」


【私はアーシャ!リノンを守る妖精よ!】


アーシャと言うのか。ってことは今まで聞こえてたのは幻聴じゃないのか。よかった。


【リノンにはこの世界を守ってもらいたくて呼んできたの。】


世界を守る?日本ってそんなに危険なの?私が目を何度も瞬きする。


【急に言われても困るよね!大丈夫!まずはこの世界のことを教えるね!

まず、この世界はリノンが居た日本からすると異世界!魔法やモンスターがいるの!そして、】


聞く暇もなくペラペラ話し始める。何とか理解できるように聞くけど、半分は理解できなかった。


【あ、ごめんね。急すぎたね。まずはこの門を通って!これを見せてね!あとは、時が来たら言うね!】


アーシャはきらんと光って消えてしまった。私は何をしたらいいか困りながらもとりあえず言われた通りに貰ったカードを持って進む。


門の下にいた鎧を着た人に話しかけるとカードを見てすぐに通してくれた。そのカードの字は読めて『リノン』と書いてあった。そして門が開くと見たことがない服を着た人とビルでは無い建物に衝撃を受けた。


「いらっしゃいませ!」


話してる言葉は日本語で分かる。でも、ここはどこ?もしかしてもう二度と家族や友達に会えないの?ここでどうやって生きていけばいいの?


歩いていると建物の普通に通っていたら気づけない影に人が横になっていて寝てるのかと思ったら伸ばした手をピクピクと動かしている。


「あ!大丈夫ですか?」


私は今の自分の状況よりこの人が優先だと思い走って近寄り様子を見る。


「うう、…。」


反応が少ない。それに顔が真っ青で震えている。今すぐ救急車!


そこでハッとなる。ここが日本では無いのを忘れていた。1人で運べないし、今、町を見た感じだと日本にあるお店がなくて病院があるかも分からない。


「少し待っててください!」


私は不安だが倒れてる人を置いて走って病院を探す。


「食べ物屋、洋服屋、武器屋、教会、」


探しても全然見つからない。あの人があんなに危険なのに!辺りは見たことがない店ばかりで、どうしたらいいか分からない。


「はあ、はあ、」


「嬢ちゃん大丈夫か?何か探してるのか?」


息が切れて膝に手をついて呼吸をしてると心配したおじさんが話しかけてくる。


「あ!あの、」


病院と言おうとしたが伝わるか分からないため言い方を考える。


「…

体調が悪い人がいるんです!助けるところは?」


おじさんは顔をかいて、うーん、と言っている。早くしないとあの人が!


「薬屋のことか?それなら、あっちに、「ありがとうございます!」」


ここでは助けるのは薬屋と言うのか。私は感謝を早口で告げて走って向かう。


「がちゃ!」


「いらっしゃいませ。どうなさいました「すみません!助けて欲しい人がいるんです!」」


思いっきり扉を開けると身長が高くて、安堵の微笑みをしている男の人が迎えてくれた。

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異世界へ召喚(?)されると彼氏が騎士になっていた。【私が聖女って何事!?】 桜の一夜 @sakura_itiyo

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