第21話 序列


 BAR『PEIKOH』に到着するにしま、みなみ、ハクの3人。




にしま「良い名前のBARだなぁ・・・。」




みなみ「だろう?・・なんか俺もやけに気に入ってんだ・・・。名前が良い・・・。」



ハク「扉が可愛いね!」




 この古い雑居ビルは4階建てでしたが、このお店しかテナントで入っておりませんでした。かなりの老舗と思われるこの雰囲気・・・。




マスター「あら、みなみ君。ようこそようこそ。今日はお連れさんが居るね。」




 白髪で髭面のマスターが私達を出迎えてくれました。ハクが働いていた喫茶オセローとはまた少し違った雰囲気のマスターでした。




ハク「少し暗いけど、おしゃれなお店!!」




にしま「なんとなく・・・居心地良いかも。第一印象がいい!!」




 かなりレトロにこだわった内装で、壁紙がレンガでした。この端っこに飾ってある古めかしい女性の上半身のオブジェ・・・そしてアンティーク調の棚・・・・一体いくらするのでしょうか・・・・。




にしま「・・・これは何??・・・骨董品???・・・・」





みなみ「マスター今日はね、俺の会社の同僚を連れて来た。」




にしま・ハク「マスター、はじめまして!!」





マスター「そうかね。まぁお酒以外何も無いけど、色んなお酒を飲んで楽しんでいってよ。せっかくだからマスターのコレクションをご馳走しようか」





ハク「マスター!!あの樽ってワイン?テキーラ?ちょっと飲んでみたいんだけど!!」




マスター「どうぞどうぞ。」




 カウンターの隅に座る3人。




 焼酎、ワイン、ウイスキーが運ばれてきました。



マスター「ごゆっくり・・・・・。」



 3人で本日二度目の乾杯しました。




みなみ「あーそういえば、きたののとこがまだ揉めてるな・・・。」



にしま「・・・そうなのか、まだ収拾ついてないんだな。」



ハク「大変だよねぇ、あの会社も!!組織が大きいからね!纏めるの大変だろうなぁ!!・・・・あっこのワイン滅茶苦茶美味しい!!」



にしま(そういえば・・・・)



 リュー、ポンと共に営業活動をしている時に、いきなり声をかけて来たスーツ姿の人間が居ました。リューはその青年と親しげに話していましたが、その相手はきたのの会社の人間でした。



にしま「そういえばさ、最近よくオカが昼夜問わず若い奴を連れて動き回ってるのを見かけるけど、その関係かもしれないな。」



みなみ「・・・詳しくは聞いてないがバキョウがつるんでいたのはマンダだけかと思ったら、そうでもないらしい。下部組織で信頼のおける者、口利きが効く他社やその先のアルバイトを使って金の動きや社長のきたのの動きを調べていたらしい」



ハク「へぇー・・・じゃあ先頭に立っていたバキョウは所詮氷山の一角にすぎないって事ね!バキョウは優秀だったんだね!!」



にしま「しかし・・バキョウもきたのの会社の人間なのにな。自分の親に噛み付くなんて相当な話だよな。自分が幹部で目立つからやられるのわかってんだろうに・・・・。」



ハク「仕組みがよく分かんないよね!!ようは会社を潰そうとしたわけでしょう??」


 幕末では幕府を倒そうとする動きが盛んだったようですが、きたのの会社でも倒幕に近い動きがあったということが分かりました。



みなみ「そうか・・・そこから話さないといけないか・・・・。きたのの会社には、各地に無数に散らばっている小さなグループがあるんだ。・・・こっちで言ったらオーラス興業の子会社にオーラス金融があるような感じ?そういう小さなグループが沢山あるんだ。そのグループの下にも子会社が山ほどある」


にしま「その小さなグループを纏めているのが、こっちで言うとチュンさんとかハツモトさんみたいな感じか。2人の下に俺達がついてるような感じだな。」



みなみ「簡単に言えばそう言うことだ。その複数のグループを纏めている幹部が居る。さっきにしまが言ってたオカ。それから俺達の地元を仕切ってるソウマ。あとリューとかバキョウもそうだし、色々他にも大勢居る。・・・グループの大きい小さいはそれぞれ当然あるけど、全員必ずどこかのセクションを仕切ってる。そのポジションのトップが幹部。カンは各地に散らばっている幹部を纏め上げる役割をしてる。幹部以上になるとそれぞれが持つ派閥のような組織が出来て、きたのに任された場所を守りながら、自分がやりたいように動かすことが出来る人間を周りに従える事が許される。」



ハク「みなみ、でもさ会社としては向かう方向は1つなわけでしょ?・・・・・営利法人であれば、利益と社会貢献?ってことになるとは思う。普段は散らばってるけど、大きく見ると1つの会社なわけだから・・・。」



 ハクは酔ってはいますが結構まともな事を言っています。外勤係の仕事で会社の成り立ちについてかなり分かっているような様子でした。



みなみ「そこが俺達と唯一違う部分。きたのの言う事聞くのは幹部の仕事。幹部の言う事を聞くのはその小さなグループの連中の仕事。きたのの言う事はその小さなグループの連中は極論聞かなくてもいい。直接きたのから幹部を飛び越えて話が来る時は信用問題で隠密にしないといけなくなった時や、何か裏がある時だ。自分のグループのトップの言う事だけ聞いてれば最低限飯は食える。金には困らない。というか街で見かけて挨拶する事はあっても・・・というか挨拶しないと後でエライ目に遭わされるんだけど・・・・・基本的には会えない仕組みになってるから。そういう事も誰か間を通さないと出来ないだろうけどな」



にしま・ハク「はぁ??・・・・どういうこと・・。」



みなみ「それが俺達と違うんだ。不思議だろう?・・・。俺がさ、昔オーラス金融に居た時には、オーラス興業に所属してたチュンさんやハツモトさんからよくアドバイスを貰ったもんだよ。・・・要は・・・バキョウはその自分の会社の変わった風習を利用したんだ。逆手に取ってきたのの手が届かない人間を陰で複数動かしてたって事よ。」



 みなみはウイスキーをグイっと思い切り飲みました。会社が違えばそれぞれルールも異なります。しかし、こんなにも大きく違うのでしょうか。会社を良くしたいという気持ちはサラリーマンである以上少しはあると思っていたのですが、中にはそうは思わない人間が居るということが分かりました。



にしま「・・・あーなんとなく俺は分かったぞ。きたのの下で育てた人間を、出先に出して何かのセクションを任せる。その出先では誰を社員に雇おうが、信用があって売り上げさえ纏まっていれば、社長のきたのからしたら関係ないって事か。」




ハク「あーそう言う事ね!にしま分かりやすい!!」




 みなみが今日はやけにノッています。



みなみ「おう、それに近いな。酔った勢いで、もっと言うぜ?・・・・リューは実際にロンっていう相棒と一緒に店をやってる。ロンはきたのの事務所にリューを迎えに行くから何回も会って顔は分かってるだろうけど、きたのからしたら自分と繋がってるリューはともかく、ロンのことはどうでもいい。言い過ぎではなく、ロンが死のうが生きようが、きたのにとってはなんの意味も持たない。もしロンに何かあればリューがケツ持つから」




にしま「・・・それがあの会社の厳しい序列ってやつだな。うちの親は子ども以上に孫を可愛がってたけどな(笑)・・・子どもの頃の俺をもっとあのように可愛がってほしかったぜ(笑)」




ハク「そうよね!変なの!チュンさんやハツモトさんは困ったら話を聞いてくれるし、まだ優しい方かもね!!」




みなみ「あの大人数の中、異様に序列がしっかりしてる。因みにきたのに直接会って話すのは幹部以上じゃないと認められない。三下だと自分の意見が一切届かない厳しい序列があるからこそ、上に上がろうと思う気持ちが強い人間や、もっと言えば他の側面から上を叩いてやろうとか、シビアで優秀な奴らが産まれて・・・っていうね、本当にそういうしたたかな奴らが社内にゴロゴロ居る。その中には俺達のことを良く思ってない連中が当然居るはずだ。先日会ったカンやバキョウなんていうのはハクの言う通りで、ほんの氷山の一角に過ぎない。単独ならまぁ・・・こっちのやり方でどうにかなるかもしれないが、もしも束になって牙をむいてくるような事があったら、俺達もチュンさんやハツモトさんもポンも・・・もしかしたら会社ごとやられるかもしれない・・・。その位の勢力を持ってる会社だ。」



 ボトルキープしているウイスキーがいよいよ無くなりました。すぐさまマスターを呼んで、新しいボトルを注文するみなみ・・・。



 まだ俺は、きたのの会社の全体が見えていませんでした。通りで話が見えないわけです。リューやカン、その他数人の幹部に会った事がありますが、全員人間のカラーが違い、ただ会う事が出来る連中と会っている、いや会わされているだけで、遠くから美しい会社の表面を眺めているのに過ぎないのでした。



 俺達に会わせても何の問題の無い人間をきたのが選んであてがう。本当に会わせるとお互いにとって不都合や不利益が起きる社員は俺達に会わせない。


 そういう考え方がきたのにあったとしても過言ではありませんでした。



みなみ「表現が難しいが、きたのの下には一度何かの拍子で噛みつかれると、猛毒を盛ってくるような奴が居る。バキョウのように親ですら食おうとして、俺達(派遣業者)のことを獲物としてしか見てない連中が水面下の見えない所で日々動いている。先日、きたののとこのツモリという人間に初めて会った。そいつはあまり表に出てこない。とにかくマンダをどこかに合法的に隔離する事を任されていた。本当に容赦しないシビアな人間だった。まだまだきたのの後ろには社歴が長い俺の知らない、『不可視の敵』が居るってことだ。」




にしま「居るのか?そんな奴が。」



みなみ「居る。・・・絶対に居る。まだどこかで隠れてる。もしそいつらが表に堂々と出てきたら、俺達は最終的にきたのにやられる事になる。きたのが直接手を出して来ることはないが、特に幹部である奴らの前で気を抜くな、やられるぞ、本当の意味で。バキョウは実際に俺が入れた飲み屋のキャストにピンハネがデカすぎるとかなんとか適当に言って、他店に移籍させて紹介料をふんだくってた。」


ハク「えっ・・・あの人そんな事してたの??なんできたのに言わなかったの?」



 みなみは、きたのの陰に隠れて俺達を狙ってくる人間、インビジブルが存在すると言うのです。普通に過ごしていても、気に入らないと思われる。ジッとしていれば気付かぬうちに出し抜かれる。



 俺達は人材を取引先に派遣して給料を貰っています。だからお金が発生するのですが、その派遣元である俺達を食い物にしようと考えている悪い奴も居ると、みなみから話がありました。でも、それは仕方がない事だというのです。



みなみ「食物連鎖のような物だ。そういうヒエラルキーの中で俺達が生きている以上は、もぉ変えられない。俺達が産まれる前、それよりも前、とっくの昔に作られたものだ。今のところはバキョウのように俺達に楯突いてくるやつを一人一人見つけて潰していくしか無い。ヒエラルキー自体を崩さないとこのサイクルは続く。どうにもならない問題なんだ、お前らにそういう知恵があったら教えて欲しい。俺達が先頭に立つやり方を・・・・。」


 きたのは、俺達が生活している食物連鎖のヒエラルキーの真ん中付近に位置する者同士が揉めるのを待っていました。みなみや俺を通して、自分の会社を更に統率する目的、そして揉めたことで発生するなんらかの利益や旨みを食いつくそうとしているのです。


 昔も今も激怒したきたのに逆らうことは許されませんでした。


 昔は俺やみなみ、ひがしくちを従え、今はカンやリュー、ツモリ達・・・様々なセクションの幹部を従えています。そのきたのの新しい仲間達が敵となって私達に牙をむいて日が来るのです。



 幸いオオゴトになる前にカンとオカが動き、バキョウは倒れました。しかし・・・・もしこちらが全く動かなかったら、一体末路はどのようになっていたのでしょうか。



 共に仕事をすることで、ようやくきたのと対等の位置に行けたと、勝手にそう思っていましたが、そんな事はありませんでした・・・・。



 いつも、いつまでも、そのヒエラルキーを覆すことは出来ませんでした。



 たかがきたのの会社の中層幹部、事実そのたった1人でさえも、自分達だけの力で抑え込む事が出来なかったのです。

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サラマンダー・スパイラル 第1章 エイル @eir20241203

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