第20話 団欒



 みなみに乗っかる形で、このオーラス興業に入社し、サラリーマンになり、取引先や会社の同僚と接する時間が多くなってきました。地元に戻る事も無ければ、古い友人や柔道としていた頃に御世話になった仲間達に会おうとする事も無くなりました。




 仕事はやはりみなみの言う通り厳しかったですが、追及していくにつれて自分がやろうとしている事が徐々に当てはまる場面も増えてきました。





 この環境が心地良かったです。私には合っていました。


 給料もOGのアリスさんが言うようにどんどん上がっていきました。車こそまだ購入していませんが、スーツや時計や私服など、本当に欲しいものを徐々にではありますが、買う事が出来るような生活になっていました。



 オーラスに集まる人間達は血の繋がりは無く、間違いなく他人なのです。この集団の一員としている事で自分を高める事が出来ました。仲間達から学ぶ事がとても多かったからです。だからもう俺は心も体もれっきとしたオーラス興業の社員なのでした。






にしま「そういえばチーさん!最近リューと一緒に仕事してるんですが本当に良い奴ですよね。きたののとこの社員は本当に優秀なんだなって心から思いましたよ。あいつは良い人間を揃えてます。・・良く探してくるなぁ、あんな明快な若い青年を。」



 チーさんと仕事の話をしようと思ったのですが、ハクはストップをかけてきました。



ハク「にしま!リューの仕事ぶりじゃないのよ!私はチーさんのコイバナを聞きたいのよ!」



にしま「はい?!それ・・・本当に聞いていいの?・・・」



 少し無言になった後・・チーさんは口を開きました・・・・。





チー「あのねハク、にしまくん・・・・。・・・この歳になって言う事じゃないんだけどね・・・。」




にしま・ハク「はい・・・・」





チー「リューの顔が凄い・・・好きなんだわ。」




にしま・ハク「顔!!!・・・・まさかの顔!!」




アリス「ちょっとアンタ・・・何歳になったのよ(笑)それ中学生くらいの人間の動機じゃない(笑)」




 チーの思わぬコメントに驚く一同・・・・・。なんだったら少しズッコケます・・・。




チー「いやもうね、顔とかどうでもいいかなーって自分では思ってたのよ(笑)」



ハク「えっチーさん!・・・顔ならきたのの方がよくない?!あっもちろん顔だけなら!!」



アリス「私も顔だけならきたのが好きかなぁ。」




 確かにきたのは昔からかっこよくて、産まれてからずっと私の地元では毎秒モテていました。恐らく誰が見てもかっこいいと思うでしょう。



にしま「俺はリューもリューでかっこいい所あると思いますけどね。よく髪結んでるけど、そういう姿も清潔感あるし、そういう可愛らしい個性的な感じもまたよくないですか?・・・幼馴染のきたのの顔は見飽きましたからね俺は(笑)あいつが顔のことで褒められるのももう飽きました(笑)」




アリス「いやにしま、あのね、悪いとは言ってないのよ。なんだろう・・・・・・女の子っぽいのよリューは。」



ハク「そうそう!!アリスさん良い特徴掴んでるね!私もそう思う!!」



 結構言いたい放題です。身内ばかりなので、全く遠慮がありませんでした。




アリス「それでさ・・・・ちょっと私がこんな事聞くのもあれなんだけど・・・・」



チー「はい。」



アリス「・・・そのさ・・・・したの?」



チー「し・・・・・ましたね・・。」




ハク「えっ!じゃあさ・・・」




にしま「そうですか。大人の関係ですから、そりゃあね。・・・・ハク、先輩のそんな話を聞くもんじゃない。他の話をしよう。・・・この前のハクが勤めてる出先の会社の話だけどさ・・・・。」





ハク「うるさいにしまっ!!・・・チーさん!!どうやってしたの?!」



にしま「ハク!!やめとけって!!馬鹿なんかお前は!!(笑)」





 ハクはカウンターの席から完全に身を乗り出していました・・・・。


 この女は子どもです・・・・。




チー「えっとね、向こうから来ないから、なんか・・・・こうやってさ・・・・」



 チーは何かにまたがるような動きをします。




にしま・ハク「あー・・・・。あー・・・・・なるほど・・・・・。」




 アリスさんが横で手を叩いて大声で笑っていました。




 ボーイのパオが慌てて話に入り込んできます。



パオ「はい!!ちょっとチーさんやりすぎ!!その話とその動き、他のお客さんに絶対にしないでくださいね!!(笑)場合によっちゃ、お客さん引いて行っちゃいますよ!!(笑)オーラスファミリー内だけで話して下さい!!(笑)」




 たまたま他のお客さんが居なかったのでそういう話をしていましたが、かなり下世話な展開になっていました。



 チーさんは、お店に来るといつも私達を楽しませてくれます。・・・やはりこのお仕事が合っているのでしょうか?自分に嘘をついて、無理をして天職だと信じてやっているのでしょうか?何もしても恥ずかしがらない雰囲気が素敵な、綺麗な女の先輩でした。


アリス「私はね、全然いいと思うのよ。女性だからそりゃ好きな人と一緒に居たいでしょう。でもさ・・・リューは下っ端だとしても幹部、きたののとこの人間という事には変わりないのよ。・・・それだけは絶対に忘れないでちょうだい。本気にならない方が身のためよ。」



チー「はい、ほどほどにしときます。」



 そうか・・・リューはチーさんと・・・俺がちゃんと2人の為の時間を作ってやらないとなぁ・・・・。ここのところちょっと忙しかったから・・・・。



ハク「だってさチーさんが本気で笑ってる時って、リューが居る時だけだもん!リューもなんだか楽しそうだし、お似合いのカップルだと思うけどな私は!!」


 ハクは自分の恋路が上手く行ってないのか、ウイスキーをグイっと飲み干して、ため息をつきました。



チー「悲しいけどね・・・リューは私の事なんかなんとも思ってないわよきっと。・・・・あっ♪いらっしゃいませー♪」




 チーを目当てにしているお客さんがやってきました。



おじさん「チーちゃん今日も飲みに来たよーー♪」



 お金持ちそうなおじさんと仲良さそうに話しているチーさん。




 ・・・・・・




 ・・・・・・




チー「えっ凄いですねぇ、その帽子とても似合ってますよ♪」




にしま「チーさん・・・さっき悲しそうな顔をしたのに、切り替えがすごいなー・・・。相手のお客さんの事を嘘でも好きになって、話しているのがよく分かる・・・。」



ハク「凄いよねー!!私無理かも!!(笑)」




みなみ「にしま、ハク。これから予約してる団体のお客さん来られるから、ちょっと店変えるか。バー行こう。もっと強いのが飲みたくなった。」



 1人で考え事をしていたみなみがようやく話しかけてきました。



アリス「いってらっしゃい。楽しんできてね。」



 3人で店を出ました。



パオ「皆さん、明日はファイトですよ!♪」


 帰り際にパオが私達に励ましの言葉をかけてくれました。



 ・・・・・・・・・・・・・



 ・・・・・・・・・・・・・



みなみ「明日の午後だな。いよいよ俺にもガチで役職がつくかもしれない(笑)本当はもっと別のやり方で出世したかったんだが・・・・」



にしま「良いんだよそんな事は、おめでとう!!別にいいじゃねぇか、細かい事は。俺達は会社員なんだ、良くも悪くも営利法人なんだよ。」



ハク「明日どうなるの?一応流れは分かっているけどさ!!私とにしまも明日は行かなきゃいけない??」



みなみ「明日はハツモトさんも来る。2人もスーツ着て同行してくれ。5人で行くぞ。」



にしま「よしハク、行こう。」



ハク「じゃあ、みなみの車は目立つから私が車出すね!!ちなみに・・・・この車!!」



 歩いているビル横のパーキングエリアを指さすハク。




 赤の塗装が美しい、ピカピカの真新しいハッチバックの車が停まっていました。



 ・・・・・・・・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・・・・・・




にしま「おい・・・これって・・・ルーテシアじゃないか!!・・・・ハクの車?!結構目立つ!!こっちの方が目立つだろ逆に!!」



ハク「そう!!だいぶ前からお願いしててね!!やっと納車された!!一括で買えたけど結構高かったよ!!」




にしま「ひぇー---・・・・・・オーラス興業のメンバーは本当に外車好きだなぁ・・・。」




みなみ「にしま、お前もそろそろ車買えよ。不便だろ。」



にしま「わかってる。でもなぁ・・・全然こだわりが無いからな・・・あっ・・動きやすいし軽自動車にしようかな。」




ハク「いいじゃん!!スズキのツイン買いなよ!!可愛いから!!」



にしま・みなみ「ツインを?!・・・・・ワゴンRじゃなくて?!」




ハク「だって可愛くない?!車庫もそんなに困らないし!!」



にしま「人生初めての車が2人乗り?!」



 暫く車の話をしながら歩くと、繁華街から離れたみなみ行きつけの寂れたバーに到着しました。



 社会人になってからずっとこのお店に行きたかったのですが、今までずっときたのの部下に阻まれていたせいで、来るのは今日が初めてでした。

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