第4話 真相
紫皇は、すまなさそうな顔で紅貴に向かって頭を下げた。
「うむ。すまなかった……。昼食後に何か甘いものが欲しくなってな。たまたま冷蔵庫を開けたらプリンが入っていたので、俺が皆に分けて食べたんだ」
紅貴が聞き返す。
「皆、とは?」
「俺と花月と夜兎、それに白狐。甘い物があるぞ、と言ったら起きて来たんでな」
夜兎も、紅貴に向かって頭を下げた。
「すみません、紅貴さん。勝手にあなたのプリンを食べてしまって」
続いて、白狐も笑いながら白状する。
「おれも、ごめんね~。でも、美味しかったよ」
花月は、ぴしっと背筋を伸ばして紅貴に向かい、お辞儀した。
「所長から受け取ったとは言え、勝手に食べたことには変わらないからな。悪かった」
最後に琥珀が、慌てて謝罪の言葉を口にする。
「お、オレも……悪かったよ。寝坊した所為で何も食ってなかったんだ。事務所に入る前に、何か腹に入れるものがないかって冷蔵庫を開けたら……」
たまたま見つけたプリンを手に取ってしまった……ということらしい。
ほぼ、紅貴の推理どおりである。
「でも、甘いもんを食った所為で余計に腹が減って、結局近くのコンビニまで飯を買いに行ったんだ。それで戻って来てみたら、なんかヤバそうな空気になってて、言い出せなかった。悪ぃ……」
全員に頭を下げられて、紅貴は満足気に笑みを浮かべた。
「お前ら……まぁ、いいさ。もう食っちまったもんはしょうがない。俺も別に一人でプリンを食べようとしてたわけじゃあないんだ。だから、ちゃんと皆の分のプリンも買って……」
紅貴の言葉に、紫皇が首を傾げる。
「そうなのか? だとすると……おかしいな。俺が冷蔵庫の中を見た時、プリンは全部で五個しかなかったんだ」
「え?」
「俺もてっきり人数分あるのかと思っていたが……これじゃ数が合わない」
すると、夜兎が顎に手を当てて考え込む仕草をする。
「どういうことでしょう? ゴミ箱に捨ててあったプリンの容器もスプーンの数も五つだけだったんですよね。元々六個あったのだとしたら、まだ一つプリンが残っているはずでは?」
夜兎の疑問に、紅貴がきっと睨みをきかせて答える。
「わかりきったこと! 既にプリンを一つ食べたにも関わらず、俺のプリンまで盗って行ったやつがいるということだ!」
紅貴の睨んだ視線の先にいた琥珀が、慌てて両手を挙げる。
「お、オレじゃないっすよ! オレが見た時には、一つしかなかったんだ」
夜兎も首を横に振る。
「僕でもありません。僕は、紫皇さんからプリンを受け取っただけで、冷蔵庫すら開けていないんですから」
紫皇が慌てた様子で立ち上がる。
「お前ら、ちょっと待て! まるで俺が嘘をついているみたいに言うなっ!
俺が見た時には、本当にプリンは五個しかなかったんだ。嘘じゃない!」
慌てる皆を見て、紅貴は微笑んだ。
「ふっ、安心しろ。俺には誰が犯人かはっきり判って……」
トゥルルルルル……
その時、事務所の電話が鳴った。
花月がそれを取る。
「はい。何でも屋、百花繚乱です」
皆は、口を閉ざして、花月が電話の相手とやり取りをするのを聞いていた。
一体誰が犯人なのか……互いに互いの腹を探り合うように視線を泳がせている。
「はい、お世話になっております。……は? それは……大変申し訳ありません。
いえ、こちらの不手際ですので、お代はお気になさらず。……はい、どうも失礼致します」
花月が電話を置いた。
「なんだ、クレーマーか?」
花月の受け答えを気にした紫皇が、声をかけた。
しかし、花月は、どこか楽しそうな表情を浮かべて答える。
「いえ、お得意様です。どうやら、これで全ての謎が解けたようですよ」
「どういうことだ?」
紫皇が眉を寄せる。
他の皆も、花月の言葉の意味が分からず、花月の言葉を待った。
「今の電話は……紅貴、お前が今日請け負った依頼人からだ」
「なんだよ? 俺は、しっかり任務を遂行したぞ」
ふてくされた顔を見せる紅貴に、花月は衝撃的な事実を告げる。
「依頼内容は、マリーアントワネットの限定プリンを五個購入すること。が、依頼主の元に届けられたプリンの数は、全部で六個だったらしい」
「な、なんだと?!」
「つまり、お前は自分用に買っておいた六個入りのプリンの箱と、依頼主に渡す用の五個入りのプリンの箱を間違えて渡してしまっていたということだ」
「じゃ、じゃあ俺のプリンは……」
「そもそもお前のプリンなんてものは、最初から存在していなかったんだ」
「そんなバカな!!!」
愕然とした表情で固まる紅貴を見て、他の四人はそそくさと仕事に戻る。
「あっ、所長。報告書の確認をお願いします」
「おお、メールで送っといてくれ。俺は、これから次のクライアントとの打ち合わせに行くよ」
そう言って紫皇は、鞄を手に事務所の外へ出掛けていく。
「はー……だりぃなぁ」
琥珀は、ぼりぼりと頭をかきながら自分のデスクに座り、PCに届いているメールを確認する。
「おれは、もうひと眠り~」
白狐は、再び机に伏して寝ようとするところを、夜兎に止められる。
「白狐さん、さすがに起きて仕事をしないと、花月さんに叱られますよ」
「大丈夫、だいじょ~ぶ。まだあっちがかかりそうだから」
そう言って白狐が指差した先には、花月に叱られながら茫然自失とする紅貴の姿があった。
「バカはお前だ! 全く、プリンの数が多かっただけで、請求額は五個分だったからまだ良かったものの……これが逆に足りなかったり、余分に請求していたりしたら、クレームものだぞ!」
「そ、そんなぁ~……俺のプリン……」
「おい、聞いているのか? 大体お前はいつも……」
終
消えたプリン 風雅ありす@『宝石獣』カクコン参加中💎 @N-caerulea
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます