第一章 第17話:揺れる心と対抗の一手

ルシアンの店が再び注目を浴びる中、ギルドもさらなる手を打ってきた。彼らは商品の大幅な値下げを行い、質の高い品を格安で売り出すという戦術に出た。大量の供給網を持つギルドならではの力業で、顧客を取り戻そうとしているのが明らかだった。


「ギルドは本気だね。」

情報を聞いたルシアンは、疲れた顔一つ見せず、むしろ冷静に状況を見つめていた。


「安くて良い物を売られたら、みんなそっちに行っちゃうんじゃない?」

マリーアは焦りを隠せず、ルシアンの袖を掴んだ。


「確かに、短期的にはギルドに客が流れるだろうね。」

ルシアンは微笑みながら答えた。

「でも、安くするだけでは、客の心を掴むことはできないよ。安さには限界があるし、彼らのやり方には“心”がない。」


「心?」


「そう、僕たちの店には僕たちだけの物語がある。それをお客さんに届けよう。」




ルシアンはギルドに対抗するため、ただ商品を売るだけではなく、顧客体験そのものを価値に変える戦略を打ち出した。

1. 商品の「物語化」

ルシアンは商品一つひとつに「物語」を紡ぎ始めた。例えば、農家の家族が手塩にかけて育てた素材や、職人が心を込めて作り上げた手工芸品――それぞれに込められた背景や努力を、顧客に直接伝えるようにした。


店内には、職人や農家の紹介を載せた掲示や写真を飾り、手書きのポップや物語の書かれた小冊子を商品に添えるようにした。


「これ、すごく素敵ね……。作った人のことを考えると、もっと大切に使いたくなる。」

客たちは次第に、ただの「商品」ではなく、そこに込められた「思い」に共感し、ルシアンの店に通うようになった。

2. マリーアを中心とした接客

看板娘であるマリーアが積極的に顧客と会話を交わし、商品の背景や魅力を伝えるようにした。彼女の自然な笑顔と素朴な優しさが、多くの客の心を掴んだ。


「マリーアさん、今日も元気だね。」

「君に説明されると、何でも買いたくなっちゃうよ。」


彼女の存在そのものが、店の「顔」として、差別化の大きな武器となった。

3. 体験型サービスの充実

前回のイベントで成功を収めた手作り体験を、定期的に開催するようにした。顧客は店の商品を「自分で作る」という新しい楽しみを見つけ、ギルドでは味わえない付加価値を感じるようになった。




そんな中、マリーアの心は揺れていた。店が成功するほど、自分の存在がどこまで役に立っているのか分からなくなる。


「ルシアンは、すごい人だな……。」

彼の次々と繰り出される策や、顧客との心の繋がりを意識した商売の仕方は、マリーアには理解できない部分も多かった。


ある夜、閉店後の店で、マリーアは静かにルシアンに問いかけた。

「ねぇ、ルシアン。私、本当にこの店の役に立ててるのかな?」


「どうしたんだい、急に。」

ルシアンは手を止め、マリーアを真っ直ぐ見つめた。


「私はただ接客してるだけ。ルシアンみたいに、すごいアイデアもないし……。」


ルシアンは少しだけ考え込み、柔らかく微笑んだ。

「マリーア。君がいなかったら、どれだけ良い物があっても、お客さんは来てくれないよ。」


「……え?」


「君の笑顔や言葉が、この店の“顔”なんだ。君が伝えてくれるからこそ、お客さんは商品の良さや僕たちの思いを感じてくれる。」


「ルシアン……。」


「君がいてくれることが、僕にとっても、この店にとっても一番の支えだよ。」


ルシアンの言葉に、マリーアの頬が熱くなった。少しだけ涙が滲むのをこらえながら、彼女は静かに頷いた。


「……ありがとう。」




数日後、ルシアンの店は再び活気に溢れ、ギルドの大規模な値下げ攻勢にも関わらず、客足は途切れなかった。


「やっぱり、この店の商品は違うわね。」

「マリーアさんの話を聞くと、欲しくなるのよ。」


一方、ギルド側の店舗は値下げの影響で利益が薄くなり、加盟店から不満の声が上がり始めていた。


「ルシアン……。あの男、何者なんだ。」

ギルド幹部は焦りと怒りを隠せず、次なる手を模索し始めていた。

 

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