第一章 第16話:心の隙間と新たな挑戦

マリーアを看板娘とした販促作戦は大成功を収め、店の売り上げはさらに伸びた。しかし、その報告を聞いたギルドも黙ってはいなかった。


ギルドは看板娘を利用した商法を取り入れようと、加盟店の若い女性従業員を集めて類似の販促を開始した。また、ルシアンの店の商品に対抗するため、供給網を駆使して低価格の商品を大量に流通させる戦術に出た。


「彼らは動きが早いね。」

ギルドの動きを聞いたルシアンは、皮肉めいた笑みを浮かべた。


「このままだと、また追い詰められるんじゃないの?」

マリーアが不安げに尋ねる。


「むしろ好都合だよ。」

ルシアンは冷静だった。

「ギルドが真似をするということは、僕たちの方法が効果的だという証拠だ。それに、彼らが大規模に動けば動くほど、逆に僕たちの独自性が際立つ。」




ルシアンはギルドの模倣戦術を逆手に取り、さらに差別化を図ることを決めた。目指すのは、「ギルドが真似できない完全オリジナルの商品」だった。

1. 個人職人との直接契約

ルシアンは地元の小規模な職人や農家を訪ね、一対一で契約を結び始めた。ギルドの契約条件に比べ、職人や農家にとって有利な条件を提示し、信頼関係を築く。これにより、希少で独自性の高い商品を確保した。

2. 期間限定商品

季節の素材を活かした商品を開発し、「この時期だけ」の希少性を演出。これにより、観光客や地元客の興味を引きつける狙いがあった。

3. 手作り体験イベント

新たな販促として、店内で商品の手作り体験イベントを開催。例えば、ハーブを使った調味料作りや、地元の素材を使った菓子作りなど。参加者には出来上がった商品を持ち帰ってもらい、口コミでの宣伝効果も狙った。


「これなら、ギルドの流通網に依存せず、僕たちだけの独自の価値を提供できる。」

ルシアンの言葉に、マリーアも力強く頷いた。




一方で、マリーアの心は複雑だった。店が成功することは嬉しいが、ルシアンが次々と新たなアイデアを打ち出す姿を見るたび、自分との距離が広がっていくような気がしていた。


「ルシアンは、どこか違う世界の人みたい……。」

寝室で一人、マリーアは呟いた。


彼の発想や行動力には憧れを抱いていたが、それがどこか自分とは違う存在に思えてしまうのだ。そして、彼が時折見せる遠い目が、何か大きな秘密を抱えているように感じられた。


「私なんて、ただの田舎娘だもの……。」

不安と劣等感が、彼女の胸に渦巻いていた。




数日後、ルシアンが準備を進めていたオリジナル商品の発表イベントが行われた。


店内は、ルシアンとマリーアが手作りした装飾で彩られ、新商品が並べられていた。マリーアは、明るい笑顔で来店客に声をかけていたが、その笑顔の裏には複雑な感情が隠れていた。


「この商品、本当にすごいね!どこで作ってるの?」

「私も作り方を知りたい!」


客たちの熱気に包まれる中、ギルドの一部の関係者も視察に訪れていた。彼らはルシアンの店の活気に驚きつつも、明らかに警戒している様子だった。


「ギルドの真似できない商品か……確かに手強いな。」

視察の一員が、呟く声が聞こえた。




その夜、イベントを終えたマリーアは、ルシアンと二人で片付けをしていた。彼女はふと、思い切って尋ねた。

「ねぇ、ルシアン。どうしてこんなに次々とアイデアが出てくるの?」


ルシアンは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑んだ。

「ただ、少しだけ普通の考え方と違うだけさ。」


その言葉に、マリーアは言いようのない距離を感じた。それでも、彼女は小さく頷いた。

「私も……もっと頑張らないとね。」


「マリーアは十分頑張ってるよ。君がいなかったら、ここまで来れなかった。」

ルシアンの言葉に、彼女の胸が少しだけ温かくなった。


しかし、その温かさと共に、彼女の心にはまだ消えない不安が残っていた。

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