第一章 第15話:差別化と看板娘の力

ルシアンとマリーアの店の成功が続く中、ギルドの動きも激しさを増していた。ギルドは農家や職人との独占契約を進め、高額な条件で商品の供給を押さえ込む戦術に出ていた。さらに、ギルドからの圧力で他店からの注文を断られ、仕入れに苦労する日々が続く。


「どうするの、ルシアン? これじゃ、商品が手に入らないわ……。」

マリーアの声には、不安と焦りが滲んでいた。


ルシアンは机に向かい、何かを考え込んでいる様子だったが、やがてゆっくりと顔を上げた。

「大丈夫だよ、マリーア。僕たちには、ギルドが真似できない強みがある。それを最大限に活かせばいい。」




ルシアンが注目したのは、「マリーア」という店の看板娘の存在だった。彼女は美人で、明るく親しみやすい性格で地元でも評判だった。しかし、これまではその魅力を十分に活かせていなかった。


「マリーア、君の力を貸してほしい。」

「私にできることなら何でもするわ。」


ルシアンは具体的な作戦を提案した。それは以下の内容だった:

1. 店頭での接客強化

マリーアが直接、店の前で客に声をかける。彼女の笑顔と親しみやすさを武器に、通りかかる人々を店内へ引き込む。

2. 商品のプロモーションイベント

店の前で簡単な試食会を行い、商品の魅力を伝える。このとき、マリーアが商品の説明役を務めることで、彼女の親しみやすさが購買意欲を刺激する。

3. 限定商品と特典

マリーアがプロデュースした限定商品を販売。「マリーア特製」と銘打ち、特典として彼女が手書きした小さなメッセージカードを添える。




さらに、ルシアンは「店の個性」を際立たせるため、オリジナル商品の開発に力を入れることを決めた。

• 地元の素材を活かした新商品

ギルドに頼らず、地元で取れる小規模な素材を使った商品を開発。たとえば、ハーブやスパイスを使った独自の調味料や保存食。

• 特別なパッケージデザイン

商品には、美しい手描きのパッケージを採用。地元の文化を取り入れたデザインで、観光客にも地元民にもアピールする。

• 物語性のある商品説明

「どうやって作られたか」「どんな思いが込められているか」といった物語を商品ごとに付け加え、消費者の心に響く仕掛けを施す。




ルシアンの提案通り、マリーアは店頭に立ち、明るい声で人々に呼びかけ始めた。

「こんにちは! 新しい商品を試してみませんか? ここだけの限定品なんです!」


その姿に、通りすがりの人々は自然と足を止め、店内へと吸い込まれていった。試食会で提供した商品も評判がよく、初日の売り上げはこれまでの倍以上を記録した。


「すごい……こんなにたくさんの人が来てくれるなんて。」

マリーアは驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべていた。


「君の力だよ、マリーア。」

ルシアンが微笑みながら言うと、マリーアは少し照れたように笑った。




しかし、その夜。マリーアはベッドの中で一人、考え込んでいた。

「ルシアンがいつも言う通りにすれば、きっとお店はもっと良くなる。でも、私って本当にこれでいいのかな……?」


成功の裏で、彼女の心には戸惑いが芽生え始めていた。自分が「商売の道具」として見られているのではないかという不安と、ルシアンへの信頼や好意の間で揺れ動く思いが彼女を苦しめていた。


一方、ルシアンは次なる戦略を練りながら、ギルドに対抗するさらなるアイデアを模索していた。

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