第33話 ファーマル防衛線5 シルビド出身姉弟の覚悟




「そぉれっ……! メイメイ式打ち上げ花火ー!」


「……大盤振る舞い……着火……」


 


 リューネのドラゴンブレスで数万のオークの軍勢の内、半数を消し去ったが、それでもまだ多量のオークが武器を持ち、ファーマルの街へと押し寄せてくる。


 後ろのほうにいるオークエンペラーが来る前に、手前のオーク、オークキングをSランクパーティー『月下の宴』のメンバーで倒していく。



 メイメイさんがでかい鉄球付きの武器で次々とオークを空へと打ち上げ、狐耳パーカーの女性、アイリーンさんが爆発の効果がある魔宝石を投げつけ、爆破。


 ……なんというか、言い方はアレだが、汚い花火のようだ。



「ソニックブレイド!! とにかくオークエンペラーだ、あれが来る前に片付ける!」


「爆発微塵! 吹き飛べぇ!!」


 ロイドさんが大剣を一閃、複数のオークをまとめて斬り裂き、ルウロウさんがオークキングに剣を突き刺し、内部から爆発を起こし倒していく。


「ウインディアブレード……! でもロイド、オークエンペラーはどうするの……私たちじゃあ……」


 ルナが剣に風の魔法を纏わせ、広範囲のオークたちを倒す。


「黒猫ニョーン! どうするも……私たちでやるしかないでしょう?」


 魔法使いのヴィアンさんが黒猫魔法を放ち、膨れ上がった黒猫から貫通と燃焼の炎が放たれる。



 そう、オークとオークキングはSランクパーティー『月下の宴』のみんなで倒せるのだが、後ろに控えているオークエンペラーは倒せない。


 過去、一匹相手でも『月下の宴』のメンバーが防御に徹して逃げるのが限界だったと聞く。 





「……さて、ついにご対面だね」



 ロイドさんが静かに言葉を発し、見上げるほどの巨体に向かい大剣を構える。


 Sランクパーティー『月下の宴』のメンバー、そして騎士の方々、冒険者のみなさんと共闘し、なんとか数千いたオークとオークキングを倒し切った。


 正直これだけでもとんでもない疲労だったのだが、まだ戦いは終わりではない。


 むしろ、これからが本番といえる。



 俺たちの正面には、巨大な斧を構え高さ十メートルを超える巨体を持つオークエンペラーが三体。


 もう一体いたのだが、北側から攻めてきたオークを任せたリューネが瞬殺&そのままの勢いで森に突入。


 どうやら満足出来なかったようで、森にいるオークをあらかた倒しまわっているようだ。


 だがこれで森から無限に湧いてくることはなくなり、後続は絶たれた。


 つまり、あとはこのオークエンペラー三体を倒せば、目的完了となる。



「一体でもキツイのに、三体同時に相手にしなければならないとはね……正直冷や汗が止まらないよ」


 さすがのロイドさんも一歩引き、オークエンペラーの動きを注視している。



「行くぞルウディー! いまこそ我らソルベット姉弟が彼等の遺言を果たすとき! 今日までのうのうと生きてきたのは、全てこの日のため! あの時救われた命は、この命をもって返す!」


「行こうぜロウ姉! ファーマルの街にいる恩人の息子さんを守る、それを果たすため、俺たちは今日まで生きてきた!」


 ルウロウさんが突如叫び、それに応えるように騎士の集団から一人の男性騎士が飛び出してくる。


「今から十年と四日前、ここより北にある我らが故郷シルビドの街が、オークの集団に襲われた。両親が殺され、避難用臨時馬車に乗り込もうと走っていたが、私たちは恐怖のあまり足がすくみ、転んでしまった」


 今から十年前、北にあるシルビド……?


 それって……


「彼等はご子息を馬車に乗せたあと、転んでしまった俺たちを守るため武器を取り、勝てる見込みのない相手、オークエンペラーに立ち向かった」


 ルウロウさんの横に男性騎士が立ち、二人が全く同じ動きで剣を構える。


「当時の私たちと同じか少し下の年齢の子供がいる彼等も、一緒に逃げたかっただろう。生きて、子供の成長を見たかっただろう。だが彼等は武器を取り、転んでしまった私たちが馬車に乗る時間を稼ぐため、一つしかないその命をかけてくれた……。奮戦するも、男性のほうは握りつぶされ、女性は身体を両断され……あの時の光景は今でも忘れない! 彼等の無念、想い、私たちはそれを引き継ぐ! ファーマルの街には彼等のご子息がいる、私たちは絶対にファーマルを守らねばならないのだ……!」


「逃げた先のファーマルの孤児院は入りきれず、俺たちは王都に回されたが、毎日必死に剣を振り、一日たりとも休まず鍛錬してきた……。やっと帰ってこれたぜ……さあやろうぜ、ロウ姉!」


 ルウロウさんの弟さんがオークエンペラーの頭めがけ魔宝石を投げ、爆発。


「爆発微塵……! くっ……!」


 オークエンペラーの視界を奪い、ルウロウさんが駆け、足を攻撃するが、剣が通らない。



「待つんだ二人とも! 全員でかかっても難しい相手なんだぞ! 二人では無理だ! みんな、加勢だ!」


 ルウロウさんと弟さんが暴走とも思える突撃をし、驚いていたロイドさんが大剣を構え二人の助けに入る。



 今から十年前、俺の故郷であるシルビドの街がオークの軍勢に襲われた。

 

 俺の両親は冒険者で、まだ六歳だった俺を避難馬車に乗せた後、巨大なオークに立ち向かっていき、帰らぬ人となった。


 ……二人の話と、俺の記憶が一部重なる。



 もしかして、ルウロウさんと弟さんもそこにいた……?
















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俺の柱魔法ってハズレ能力かと思ったら実は最強の盾でした ~土木作業魔法で成り上がる~ 影木とふ@「犬」書籍化 @tohutohu472

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