第32話 ファーマル防衛線4 神武七龍リューネフルエクスの世界を焼き払う一撃





「現状を確認させて下さい、騎士、冒険者の方の負傷者、そして街の中の状態はどうなっていますか!」



 Sランクパーティー『月下の宴』のリーダーであるロイドさんが街の東門あたりに固まっている数百人規模の騎士、そして冒険者に向けて叫ぶ。


 


「はっ! 我らリーブル王子直属部隊三百名、全員無事でありますロイド様!」


「冒険者連合、こっちも四十名、全員無事、街へのオーク侵入もゼロだ!」


 ロイドさんの質問に、騎士と冒険者のリーダーと思われる人がそれぞれ答える。



 え、こちらにいらっしゃる騎士軍団って、冒険者センターで会った、あのリーブル王子の直属の方々なんですか……?


 そういえば王都を出るとき、ルナが「今回はリーブル王子も動いてくれている」と言っていたが、これのことか。


 ファーマルを守るため、騎士を三百人も……ありがとうございます、リーブル王子。

 

 ならば、リーブル王子がこれほどのことをしてくれているのなら、俺がやるべきことは、騎士のみなさんを、ここにいる全員を守り抜くこと……!



 

「!? これほどの、数万規模のオークの軍勢を相手に、死傷者ゼロに街が無事……それはすごい……」


 ロイドさんが驚き、チラと俺とリューネを見てくる。


「ロイドさん、皆さん、今すぐ防壁側に下がって、頭を低くしていて下さい!」


 オークたちが再び動き始めた。


 軍勢の後ろに控えているオークエンペラー、あれが街に近付く前に、出来るだけオークとオークキングの数を減らしたい。


「わ、分かった! みんな、今すぐ防壁まで下がって防御姿勢を!」


 ロイドさんが俺の意図を理解してくれたのか、騎士と冒険者のみんなに指示を出す。


 全員がロイドさんの指示に従い、慌てて防壁側へ走る。


 さすがロイドさん。俺じゃあここにいる全員を動かせる指示は出せない。やっぱりすごいな。



「行くよリューネ! 防壁に登って、上から薙ぎ払う『炎の魔法』をお願い出来るかい?」


「魔法? よく分かんねェけど、いいぜェ、いい加減こいつらの顔は見飽きてたんだよ。まとめて焼き払ってやるさ、ヒャハハハ!」


 俺の声にリューネが答えてくれ、軽くジャンプをし、高さ十メートルは超える街の防壁の上に立つ。



「今から彼女の一度きりの大魔法、『炎の魔法』を放ちます! その後、『月下の宴』の皆さんはオークエンペラー以外の討伐をお願いします! リューネ、一度だけだ、全力でやってくれ!」


「ヒャハッ……やったぜ、シアンの全力許可来たぜェェ!! 光栄に思えよ豚ども……このリューネフルエクス様の、世界を焼き払う一撃を見てから死ねるんだからなァ……!」



 俺が手を振ると、リューネの口から太陽のような光量の直視出来ないレベルの赤い光が溢れ、周囲を照らす。


 ちょ、な、なんかとんでもないレベルのことが起きそうなんですが……リューネさん、世界を焼き払う一撃とか言っているけど、俺たち、大丈夫なんだよね?


 俺が不安になるほどの赤い光がリューネの口付近に収束、次の瞬間、赤い帯状の光がオークの軍勢に向かって放たれる。


 薙ぎ払うように放たれた赤い光が、街の防壁付近に迫っていたオークたちを包み、発光。


 今まで聞いたことが無い音量の爆発音が聞こえたと思ったら、爆風と熱風が一気に俺たちを襲う。


 身体を低くしていなければ、壁に叩きつけられていたかもしれないレベルの爆風で、騎士や冒険者のみんなが悲鳴を上げる。


「ぅうわあああああああ! なんだこれ……!」


「熱っ、熱っ……!」


 肌を露出している部分が熱いと感じるぐらいの熱風が来ているが……マジで俺たち、巻き添えで焼かれたりしないよな……!?


ギュォオオオオオ……!


 オークたちの断末魔が聞こえ、赤い光も収まったので見てみると、俺たちの数十メートル前の地面がぼっこりと削り取られていて、そこにいたオークたちが跡形もなく消え去っていた。


「ヒャハハー! どうだシアン、ちょっとは加減したけどよ、半分は削ってやったぜ?」


 リューネが満足気な顔で俺を見てくるが、半分……?


「見ろよシアン、半分だ」


 俺がなんのことかと思っていたら、リューネが地面に着地し、俺を抱え防壁の上へ。


「うわ……マジで半分ぐらい、オークがいなくなってる……」


 上からオークの現状を見てみると、森からファーマルの街まで迫っていたオークの半分が消え去っている。


 数万近くいたオークを半分……すごいどころじゃあないってリューネさん……。



 彼女、リューネの正体は人間ではなく、伝説や絵物語に出てくるドラゴン。


 リューネフルエクスが彼女の本名で、本人曰く、神武七龍の一人『赤き翼のドラゴン』らしい。


 彼女の正体を知っているのは俺とルナだけで、さすがに皆の前でドラゴンの一撃を頼むとも言えないので『炎の魔法』を頼むと言って誤魔化したが、マジでこれ、世界を焼き払う一撃レベルじゃないか……。


 全員がこの威力に驚いているが、魔法使いであるヴィアンさんが一番驚いた顔をしているな……。


 まぁ俺が『魔法』って言ったからなんだろうけど、ごめんなさいヴィアンさん、これ魔法じゃなくて、ドラゴンブレスなんです……。



「よ、よくやってくれた! これでオークの戦力は半減した! 残りをSランクパーティー『月下の宴』で叩く! 行くよみんな!」


 呆けた顔をしていたロイドさんが正気に戻り、すぐにメンバーに指示を出す。


 

 リューネの一撃で街の防壁の手前の地面が広範囲に深く削られたので、オークたちは直進出来ず、北側と南側に別れ迂回ルートを取り出す。


「リューネ! 北側に回り込んだオークを頼む! 俺とみんなは南側を叩く! さっきのはもうダメだからね、拳で頼むよ!」


「ヒャハハ、まぁ一突きで終わんのはつまんねェからな。今夜のシアンの三本の柱の前に、軽く準備運動といっとくかァ!」


 リューネなら、一人でオークの軍勢相手にも余裕だろうし、北側を一人で担当してもらおう。


 俺たちは南側、リューネの一撃で半分が消し飛んだとはいえ、その数はいまだ脅威。


 でも今は彼等、Sランクパーティー『月下の宴』のみんながいる。


 行くぞ、街を、ファーマルのみんなを守るんだ!



「ロイドさん! 俺たちは南側を! 北側はリューネに任せました!」


「分かった! さぁ行くよ、ここからはこちらのターンってやつさ!」

















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