第3話 事件
「たこさんウィンナーだ!可愛い!」
「お母さんがいつも入れてくれる。」
花岡さんはお兄ちゃんを高校最初の友達に選んだらしい。
お兄ちゃんによると花岡さんは最初からこんな感じだったらしく、心配になったのでお昼を一緒に食べることにした。
話し方がぎこちないのはちょっと可愛い。
「私、変だから、その…めい、迷惑…。」
「全然迷惑じゃないよ。」
「で、でも。」
「迷惑だったらお昼誘ってないでしょ。」
「ごめんなさい。」
なんで謝るんだろう。
「なんか趣味とかある?」
「え…あ、その、アニメが好き。」
アニメは私も見ている。
「へぇどんなの見てるの?」
花岡さんが嬉しそうな顔をしてくれた。
「えっと…」
またしばらく固まった。
ふと気づいた。SNSで見たことがある。オタクはアニメについて聞かれたときどこまで答えていいかわからなくなる。らしい?
「あ、遠慮しないでいいからね。好きな声優さんとかは?」
どうやらマジのオタクだったらしく十五分くらいで好きな声優が二十人出てきて、それぞれの好きなところを満遍なく熱弁してくれた。
「ストーップ!ありがとう。十分熱意は伝わった。」
人気アニメしか見ない私にとって未知の領域すぎた。
だけど、いっぱい話している花岡さんを見て少し安心した。
「あ!私、話し過ぎた。ごめんなさい。」
「また謝った。花岡さんは謝るのが癖になってるっぽいよ。」
「だって迷惑…」
「だから迷惑じゃないって。好きなこと話してる花岡さん、すごく楽しそうだったよ。」
「そうだな、ありがとうって言って。話を聞いてくれてありがとう的な?」
「あ、ありがとう。」
「よくできました!よしよし!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日は推しの配信がある。毎回お兄ちゃんに邪魔されるので釘を打っておいた。
「マッジで今日は部屋入ってくんなよ。」
「はいはい。わかった~。」
本当にいつもムカつく奴。
イヤホンを忘れた。下の階だ。
「急げ♪急げ♪」
するとまた邪魔された。
階段の曲がり角でお兄ちゃんとぶつかって大きな音を立てて一階まで転げ落ちた。
いったー。あいつスマホを見ながら上ってきやがった。
「おい!」
そこには痛そうに頭をかかえる自分がいた。
訳が分からない。片手にはお兄ちゃんのスマホがある。
「てめぇ!走ってくんなよ!」
怒号が飛んだが今はそれどころではない。私は洗面へ走った。鏡にはお兄ちゃんが映った。
「は?はぁ?!」
突然寒気が走った。
階段の下の自分に目をやると、自分の胸を触っていた。なんとなくわかった気がする。
「てっめぇ!人の胸いじくりまわすんじゃねぇ!」
「げっ。」
もみ合いになった。決して変な意味ではなく。
「ただの確認だろうがよ!」
「何の確認か言ってみろ!この変態!」
「こら!喧嘩はやめんか!」
遠くからおばぁちゃんの声がした。
「とにかくこっち来い。」
お兄ちゃんに鏡を見せた。これはまずい。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺と花岡さんは屋上に呼び出された。
「は?」
「は?」
そこには激しく泣きじゃくる兄翔太と下を向いた妹ひかりちゃんがいた。
「やややっぱり私のせいで二人もおかしくなっちゃったんだ。」
「いやマジなんだって。」
「双子で同じ幻覚を見るなんて絶対私のせいだぁ。」
「私もう生きていけない。」
このカオスな状況を俺が処理しろと?
「と、とにかく!えっと?翔太がひかりちゃんで、ひかりちゃんが翔太ってこと?」
「ちゃん付けで呼ぶな。×すぞ。」
「マジなんです。」
「花岡ちゃんは俺がなんとかするから、翔太は二組、ひかりちゃんは三組に行って。」
平静を装っていたが頭の中では混乱している。ドッキリ?にしてはリアルすぎないか?
「わた~しの~せいで~!」
ほんと変わった子だなぁ。
「花岡ちゃんのせいじゃないよ。」
「じゃあふたり嘘ついた?」
「それはわからんけど。」
「やっぱり私のせいだよ」
「何かはわからんけど、絶対花岡ちゃんのせいじゃないよ。」
「絶対?」
「絶対。」
全然授業に集中できない。
何なんだ?やっぱりドッキリか?いや出会って二日目でドッキリはさすがに。
なんでよりにもよってあの二人なんだ?
仮に本当だとして、翔太は今ひかりちゃんで声が男で?ひかりちゃんは今翔太で声が女で?
ややこしすぎるぞこれ。
授業の内容何だっけ?いつの間にか終わってた。
声が高くて低い双子の話 白藍そら @soramamenoyume
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