第2話 ひとり

飛び込んできた兄にはとても驚いた。まだ入学式の途中だからだ。


「なんでお兄ちゃんがここにいるの?!」


「なんでお前こそここにいるんだよ!」


「スピーチでペアだったから付き添ってるだけだし。言っとくけどそれブーメランだからね。」


私はお兄ちゃんが嫌い。いつも偉そうに喋る。


「僕は別に花岡さんが心配で来ただけだし。」


「は?」


「あの…えっと…元気!私元気になった!だから三人で体育館行こ!」


私たちは体育館へ戻った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


私は話すのが苦手です。急に大きな声を出したり、文章が拙かったり。

最初はこんなんじゃなかったのに。


桜田君は優しいな。

今日会ったばかりなのに式を飛び出してまで心配してくれた。


変に思われてないかな。大丈夫かな。


ふと前を見ると席の三列先から桜田君が私を見ていた。

式の邪魔にならないように口パクで何か言っている。


「だ・い・じょ・お・ぶ」


今日の入学式までずっと考えていた。高校で一人にならないか、誰かに迷惑をかけないか。

スピーチの直前までずっと考えていた。

でも君はそんな不安を全部吹き飛ばしてくれた。

桜田君


「あ・り・が・と・う」




式が終わってどっと疲れた。


「横の奴誰だっけ?花岡だったか?」

「あいつ緊張して気絶とかマジおもしろすぎ。」

「ありゃ伝説になるわ。」


聞かなきゃよかっ…

頬をつかまれた。


「あんなの聞かない!」


「すくるどぁくん(桜田君)。」


「あいつらの言うこと聞いてもやな思いするだけだよ。」


また頬が熱くなっちゃうじゃんか。

気づいたらまた固まってしまった。


「あ、おい、おーい。やばい。やっちゃった。」


良かった。

これでひとりじゃない。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


翌日、僕たちは最初の授業日を迎えた。

妹は別クラスの1-2だ。本当に助かった。双子で同じクラスなんて最悪だからな。


数学の教師が入ってきた。おじさん先生だな。見た目は優しそう。


「えっと、このクラスは三組か。ってああ、あの気絶した花岡のクラスか。」


前言撤回。


「あれは傑作だったよ入学式の雰囲気ががらっと変わった。

体育館中がざわッとしてさぁ、収めんの大変だったわ。」


「クソジジイ」


「おい誰だ。初対面で。」


「お前こそ初対面で人の気持ち抉るようなこと言うんじゃねぇよ。」


「おう女子か。良かったな俺が耳遠くて。こんな気分悪いクラス初めてだ。」


ほんとに!


チャイムが鳴って授業が終わった。


「べぇ~だ」


「桜田!やっぱりそう思うよな!」


「何が?てか誰?」


「俺早川ね。そんなんどうでもいいからさ。」


よくないだろ。


この後すごい早口で流れるように話されたが要約すると、花岡さんを笑う人が多数派だけど早川君はそれは間違っていると思っているらしい。


「常識で考えたらそうだろ。」


「なぁな、お昼一緒に食べん?絶賛ぼっちなんで。」


見えねぇ。


「いいよ。」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


早川竜二、十五歳、高一なりたてほやほやの『普通』の陽キャ男子。

『普通』の男子高校生。


他人を笑う奴は嫌いだ。そういう奴は俺が盛大に笑ってやる。


やっと昼休みの時間が来た。お腹が空いて死にそうだ。


「なぁ、なんでそんな声高いん?」


「生まれつき。」


「へぇ。なんかその声のせいで困ったことある?俺が清算してやるぜ。」


「ん~そうだなぁ。電話は困るかな。説明すんのに時間かかる。」


「へぇ。」


「へぇだけかよ。これ頂戴。」


「あ!お気にのコロッケ」


「へへ、ちゃんと聞かなかった罰。」


桜田翔太は顔が良くて、声が可愛くて、性格もいい。

俺はそんなこいつに一目惚れした。

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