イケメンには敵わない!

崔 梨遙(再)

1話完結:1000字

 30歳くらいの頃。僕は或る女性と同棲していた。9歳年上だったが、一緒に歩くと僕と同い年くらいに見られる。とても若く見える素敵な女性だった。美人というよりは……かわいい系だったかもしれない。僕はその女性、貴理子に惚れていた。仲も良かった。同棲できて幸せだった。一緒に暮らしていると、自然と互いに結婚も意識するようになっていた。元々、貴理子は博多に住んでいた。それが、不思議なご縁で大阪で同棲することになったのだ。


 貴理子は、僕と同じ会社に勤めていた。と言っても、同じ職場だから知り合ったという社内恋愛ではない。貴理子と付き合うようになり、貴理子が就職先を探していたので、僕が社長に頼んで面接してもらって採用されたのだ。それでも社内恋愛というのだろうか?


 僕は企画営業。カメラマンとライターも兼務していた。貴理子は営業以外の外回り(学校訪問など)をしばらくやっていた。


 貴理子が新しい環境に慣れて落ち着いた頃、貴理子にもルートセールスくらいはやってもらおうと、僕のお客様とのアポに貴理子が同行するようになった。



 それは、或る企業を訪問した時のことだった。その企業の採用責任者は中森さん。30代後半。中森さんは、めちゃくちゃイケメンだった。だから、正直、貴理子と会わせたくなかった。嫌な予感がした。


 案の定、帰りの電車では、貴理子は中森さんの話題ばかりを口にしていた。僕はというと……勿論、愉快なわけがなかった。


 貴理子は定時で帰れる。僕は遅くなる。帰ったら、貴理子は食事を作って待っていてくれる。その日も一緒に貴理子の手料理を食べていたのだが、貴理子はビールをグビグビ飲んで、ビール缶をテーブルに置くと、


「ああ、中森さんかぁ……」


と言った。だから僕は言った。


「貴理子、いつ出て行っても構わないよ」

「どうして? 私、何か気に障ることを言った?」

「たった今、“ああ、中森さんかぁ”って言うたやんか」

「私、そんなこと言った?」

「っていうか、中森さんに会ってから、中森さんの話ばかりしてるで。正直、僕は気分が悪い。中森さんがいいなら、どうぞどうぞ、中森さんのところに行ってください。これ以上、中森さんの話は聞きたくないわ」

「ごめーん! 私、全然気付いてなかった」

「或る程度は仕方ないと思うけど、今日の貴理子は酷すぎる」

「ごめーん! 気を付けるから、許してね」

「……」



 ビール、3杯目。


「ああ、中森さんかぁ……」


 注意しても聞かない貴理子さんだった。







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イケメンには敵わない! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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