フォージ・フロント:ファースト・ショー(下)
アドリア海沿岸の要塞を制圧した数日後、ドラゴビッチの次の動きが判明した。彼は首都ポドゴリツァから西に数百キロ離れた廃工場を拠点に、新たな反撃を準備しているとの情報が入った。その場所は武装勢力が支配しており、厳重な警戒が敷かれている。
レイモンド・カーターと「フォージ」のメンバーは、反政府勢力の依頼を受け、ドラゴビッチの勢力を完全に無力化するため廃工場への突入を決断した。目標は、彼の忠実な精鋭部隊を壊滅させ、残る支配基盤を破壊することだ。
深夜、工場の周辺は静寂に包まれていた。レイと「フォージ」のメンバーは、周囲の見張りを音もなく排除しながら工場の外壁に接近した。月明かりが漏れる中、ソフィア・モレッティが小型ドローンを飛ばし、内部の状況を確認する。
「中には約二十名の武装兵士。中央ホールに重火器が配置されている」
ソフィアが情報を報告すると、レイが短く頷いた。
「エヴァン、狙撃ポジションを確保しろ。アキラ、正面から突入する準備を」
「任せろ」
アキラがナイフを確認し、静かに答える。
突入の合図とともに、エヴァン・デラルヴァが屋上から最初の一発を放った。静寂を切り裂く銃声とともに、入り口付近の警備兵が崩れ落ちる。
その瞬間、アキラが鋼鉄製の扉を蹴り破り、工場内に飛び込んだ。敵兵たちが一斉に銃を構えるが、彼の動きはあまりに速かった。壁際に身を寄せながら、最初の敵を片手で弾き倒し、次の敵の銃口を掴んで弾丸の軌道を逸らす。
背後から撃とうとした兵士に対して、ソフィアが正確な射撃でカバーする。
「気をつけて!」
彼女の声に応じるように、アキラがさらに前進し、敵を次々と打ち倒していく。
中央ホールに到達すると、そこには機関銃を備えた重火器部隊が待ち構えていた。エヴァンが屋上からの狙撃で一人を仕留めるが、残る兵士たちが激しい銃撃を浴びせる。
「ハサン、煙幕を!」
レイが指示を飛ばすと、ハサンが即座に煙幕弾を放ち、視界を遮断する。
「突っ込むぞ!」
アキラが煙の中に飛び込み、敵の背後を取りながら近接戦を展開する。彼のナイフが閃き、一人の兵士が悲鳴を上げて倒れる。残る兵士はパニックに陥り、無差別に銃を乱射するが、その弾丸はすでにアキラを捉えることはできなかった。
「左!」
ソフィアが叫び、壁際から飛び出してきた兵士を一瞬で射抜く。その隣ではレイが手際よく二丁の拳銃を操り、近距離の敵を一人ずつ確実に仕留めていく。
ホール内での銃撃戦が激しさを増す中、敵兵の数は徐々に減っていった。弾薬が尽きた敵兵たちは、近接戦に移行せざるを得なくなり、次々にアキラやレイの餌食となった。
アキラは身軽に動きながら、敵の拳を避けつつ、一瞬で関節を外す精密な格闘技術を披露する。重武装の兵士が彼に襲い掛かるが、逆に投げ飛ばされて床に叩きつけられた。
「手ごたえがないな」
アキラが軽口を叩きながら、最後の一人をナイフで仕留めた。
一方、レイは冷静かつ効率的に動き、敵の急所を狙った一撃で全てを終わらせていく。その様子を見たソフィアが軽く笑う。
「本当に冷酷ね」
「効率的と言え」
レイが短く返した。
最後にチームが向かったのは、廃工場の奥にある司令室だった。そこにはドラゴビッチの側近たちが集まり、残りの部隊を指揮していた。
ドアを蹴破って突入した瞬間、側近たちが銃を構えたが、エヴァンの狙撃がすべてを沈黙させた。レイが室内を見回し、無線を拾い上げる。
「ドラゴビッチはどこだ?」
レイが冷たい声で尋ねるが、返事はない。無線には、ただノイズと断片的な通信が残るだけだった。
チームが工場を完全に制圧した後、ハサンが残された資料を調べた。そこには、ドラゴビッチがさらに北方の秘密施設に移動したという手がかりが記されていた。
「奴はまだ逃げている」
レイが短く言い放つ。
「追い詰めるのは時間の問題ね」
ソフィアが微笑みながら応じる。
廃工場の外に出ると、夜空には満天の星が輝いていた。しかし、その静けさの中、チーム全員がさらなる戦いを覚悟していた。
廃工場を制圧してから数時間後、フォージのメンバーは新たな情報をもとに、北方に位置する秘密施設に向けて移動を開始した。そこは山岳地帯に隠された要塞であり、ドラゴビッチの最終防衛拠点と推測されていた。
要塞は地下にも広がる複雑な構造を持ち、大規模な武装部隊が待ち構えている可能性が高い。レイは作戦会議でチームに語った。
「これは奴の最後の牙城だ。ドラゴビッチを逃がせば、奴は必ず反撃してくる。今回で終わらせるぞ」
夜明け前、フォージのメンバーは要塞近くの林に潜伏していた。ソフィアがドローンで偵察しながら状況を報告する。
「敵の配置は厳重だけど、裏手の換気口が防御が手薄ね。そこから侵入できるわ」
「裏手は俺が行く」
アキラが即座に手を挙げる。
「いいだろう。アキラとハサンで裏手から換気口に侵入。ソフィアとエヴァンは正面の監視塔を制圧。俺は中央に潜り込んで指揮を取る」
レイの指示に全員が頷き、準備を開始する。
最初の銃声が響いたのは、エヴァンの狙撃からだった。正面の監視塔に立つ見張りが次々と崩れ落ち、混乱した敵兵たちが塔内に集結する。
「今よ」
ソフィアが塔の入り口に閃光弾を投げ込み、続けて銃を構えた。目が眩んだ敵兵を一人ずつ正確に仕留めながら、彼女は塔の制圧を完了させる。
「正面はクリア」
ソフィアが無線で報告する。
裏手の換気口では、アキラとハサンが影のように動いていた。換気口の格子を外した瞬間、敵の巡回兵が現れる。
「任せろ」
アキラがナイフを抜き、一瞬で敵の首元に突き刺す。音もなく倒れる兵士を確認し、ハサンが手早く排気システムをハッキングする。
「侵入完了」
ハサンが報告すると、アキラは前方に現れた敵兵の一団を睨むように見据える。彼らは銃を構える間もなく、アキラの凄まじい速度と力に圧倒されて倒されていく。
ナイフが閃き、拳が喉を打ち、膝が敵の関節を砕く。アキラは一瞬たりとも止まることなく動き続け、彼の周囲に敵兵の屍が積み重なる。
「もう終わりか?」
彼が最後の敵兵を投げ飛ばした瞬間、無線でレイの声が入る。
要塞内部は狭い廊下と広大なホールが入り混じる複雑な構造だった。フォージのメンバーは分散しながらも的確に敵兵を排除していく。
レイは二丁拳銃を構え、廊下で待ち伏せていた敵を次々に射抜いて進む。彼の動きは無駄がなく、敵の急所を的確に撃ち抜くその姿に、敵兵は恐怖を隠せなかった。
「左に部隊が集中している」
ハサンが無線で報告すると、レイが短く答える。
「そこは任せた」
ハサンは廊下に小型爆薬を設置し、一気に敵部隊を吹き飛ばす。煙が晴れた後には、瓦礫と倒れた兵士たちだけが残っていた。
一方で、ソフィアはホールの上階から援護射撃を行い、敵兵たちの動きを封じていた。彼女の射撃は正確無比で、一瞬の隙を与えない。
「エヴァン、残りを片付けて」
ソフィアの指示に応じ、エヴァンが狙撃で最後の数人を仕留めた。
要塞の中央司令室に突入したとき、そこにはドラゴビッチ本人の姿はなかった。代わりに、大型モニターに映し出された彼の姿がフォージのメンバーを迎えた。
「フォージか。私の計画をここまで邪魔するとは」
ドラゴビッチの声は冷徹で威圧的だった。
「逃げるだけの独裁者がよく言う」
レイが銃を構えたまま冷たく言い放つ。
「これで終わると思うな。私はただの人間ではない。私が築いたものは、お前たちが破壊できるものではない」
モニターの映像が切れると同時に、警報が鳴り響き、要塞全体に爆発物が仕掛けられていることが判明する。
「撤退しろ!」
レイが叫び、フォージのメンバーは即座に脱出ルートを確保するために動き始めた。
爆発の連鎖が要塞全体を包み込む中、フォージのメンバーは間一髪で脱出に成功した。彼らが山岳地帯を抜けて安全地帯にたどり着いたとき、背後の夜空には崩れ落ちる要塞の炎が広がっていた。
「奴を逃したな」
エヴァンが悔しそうに呟く。
「だが、奴の牙城は全て破壊した」
レイが静かに言葉を返す。
「ドラゴビッチはまだどこかにいる。そして、次の戦いはさらに厳しくなるだろう」
ソフィアが静かに言った。
夜の冷たい風が吹く中、フォージのメンバーは次の戦いに向けて新たな計画を練り始めた。
ドラゴビッチの要塞を崩壊させてから数日後、フォージは彼の居場所を示す新たな情報を掴んだ。それは、彼が秘密裏に運営している軍需工場であり、最も忠実な部下たちが集結している場所だった。工場はドラゴビッチの政権復活の切り札とも言える兵器を製造しており、もし放置すれば世界規模の脅威となり得る。
その工場は広大な敷地に最新鋭の防御システムを備え、周囲には重火器を装備した防衛部隊が展開していた。フォージにとっても、これまでで最も困難な任務となることは明らかだった。
作戦会議室でレイがチームに告げる。
「これが最後の一手だ。ドラゴビッチをここで仕留める。それ以外の選択肢はない」
ハサンが地図を見つめながら補足する。
「工場は三層構造になっている。地上部分は警備兵が多数配置されているが、地下に兵器製造施設と司令室がある。ドラゴビッチもそこにいる可能性が高い」
ソフィアが軽くため息をつきながら言った。
「つまり、全ての階層を制圧しなきゃいけないってことね。派手な夜になりそう」
「時間を無駄にするな」
レイが短く指示を出す。
「全員、準備しろ」
深夜、工場周辺の森の中でフォージのメンバーは潜伏していた。ハサンがセンサーを操作し、工場のセキュリティシステムを逐一確認する。
「防御は完璧じゃないが、突破するには派手な動きが必要だ」
ハサンが苦笑しながら言う。
「それなら得意だ」
アキラがナイフを確認しながら微笑んだ。
「エヴァン、狙撃でサポートしろ。ハサン、入口を爆破する準備を」
レイが指示を飛ばし、作戦が開始される。
ハサンが爆薬を仕掛けた入口が轟音とともに吹き飛ぶと、工場内に警報が鳴り響いた。敵兵が次々と駆けつけるが、フォージのメンバーはすでに行動を開始していた。
エヴァンが高所から正確無比な狙撃を行い、混乱する敵兵たちを次々と撃ち抜いていく。そのカバーの下、アキラが先頭に立って敵陣に突撃した。
「さあ、踊ろうか」
彼は銃弾を避けながら軽快に動き、ナイフと拳で敵を次々と無力化する。敵兵が迫るたびに、一撃で急所を捉え、返り血を浴びながらも前進を続けた。
「右に一隊いる!」
ソフィアが報告しながら射撃を行う。その正確な連射で敵兵たちを怯ませ、アキラがその隙を突いて接近戦で全員を仕留めた。
「地上部分はほぼ制圧した」
ハサンが無線で伝える。
地上部分を制圧したフォージは、地下へのエレベーターシャフトを発見した。しかしその途中、重装備の敵兵部隊が待ち伏せしていた。
「ハサン、煙幕を!」
レイが叫ぶと、ハサンが即座に煙幕を展開する。
「俺が片付ける」
アキラが煙の中に突撃し、重装備の敵兵たちに向かっていった。敵の装甲は厚かったが、彼のナイフは正確に関節や隙間を狙い、短時間で敵を無力化した。
「これで進める」
アキラが息を整えながら言った。
地下施設に到達したフォージを待ち構えていたのは、さらに激しい銃撃戦だった。ドラゴビッチの最精鋭部隊が彼らを迎え撃ち、工場全体が激しい戦火に包まれた。
レイは二丁拳銃を構え、的確な射撃で敵兵を次々に仕留めていく。一方、ソフィアはスナイパーライフルに切り替え、遠距離からカバーを行う。
「敵が多すぎる!」
ハサンが叫びながらも爆薬を次々に設置する。
「それでも前に進む!」
レイが冷静に言い放ち、敵の包囲網を突破していった。
地下施設の最奥にある司令室に突入すると、そこにはドラゴビッチの姿があった。彼は防弾ガラス越しにフォージを見つめ、不敵な笑みを浮かべていた。
「ここまで来るとは見事だ。しかし、これで終わりだ」
彼がスイッチを押すと、施設全体が崩壊する仕掛けが作動した。
「奴を追え!」
レイが叫び、アキラがガラスを破壊して中に突入する。
ドラゴビッチは一瞬で背を向けて逃走を試みたが、アキラがその背後に迫った。激しい格闘戦が繰り広げられ、アキラのナイフがドラゴビッチの腕を切り裂いた。
「これが終わりだ」
アキラがナイフを振り下ろした瞬間、ドラゴビッチは奇襲用の小型爆薬を放つ。
爆発の衝撃でアキラが後退する間に、ドラゴビッチは非常口から逃亡を図った。
施設全体が崩壊する中、フォージのメンバーはドラゴビッチを追うことを一時断念し、脱出を優先した。彼らは瓦礫と炎の中を必死に進み、間一髪で地上へと戻った。
「奴を取り逃がしたが、これで奴の兵器計画は完全に終わった」
レイが息を整えながら言った。
「次は奴自身を仕留めるだけだ」
アキラが血を拭いながら静かに答えた。
フォージはドラゴビッチの居場所を突き止めた。彼は逃亡の末、モンテネグロの北部に位置する廃墟と化した城を拠点に潜伏しているとの情報が入った。ドラゴビッチは少数の精鋭兵士を伴い、最後の抵抗を試みる準備を進めているという。
「奴を逃がすことは許されない」
レイモンド・カーターの声は低く、冷徹だった。
その廃城は、霧に包まれた山中に隠れるように建っていた。中世の遺跡を改造したその場所は、要塞としての機能を残しており、侵入は容易ではなかった。
城の外壁には監視カメラと狙撃兵が配置され、内部はトラップが張り巡らされている。ドラゴビッチは、これが最期の戦いであることを悟り、自らも戦う覚悟を決めていた。
深夜、フォージは廃城の周囲に潜伏していた。ソフィアがドローンを操作し、城内の様子を確認する。
「敵は少数だけど、配置が厄介ね。狙撃兵が四箇所にいるわ」
「まず奴らを片付ける」
レイが短く指示を出す。
エヴァンが静かに狙撃位置に移動し、準備を整えた。森の中、月明かりに照らされた城壁を見据える。
最初の銃声が響くと同時に、城壁の狙撃兵が崩れ落ちた。
「一人目、排除」
エヴァンが冷静に報告する。
敵が動揺する中、フォージの他のメンバーが静かに前進を開始する。アキラが影のように動き、門の警備兵に近づくと、一瞬で首を刈り取った。
「正面の道はクリア」
アキラが報告する。
ハサンが即座に入口のセキュリティシステムを解除し、内部への侵入を可能にする。
廃城の内部は迷路のように入り組んでおり、ドラゴビッチの精鋭兵士たちが待ち構えていた。廊下の曲がり角で激しい銃撃戦が始まる。
「ハサン、爆薬!」
レイが指示を出すと、ハサンが壁際に小型爆薬を設置。爆発が廊下を覆い、敵兵を吹き飛ばす。
その隙にアキラが突進し、煙の中から現れた敵をナイフで一人ずつ仕留めていく。彼の動きは速く、正確で、敵に反撃の隙を与えなかった。
「右にもう一隊いる!」
ソフィアが報告しながら射撃を行い、敵の動きを封じる。レイとエヴァンがその後を追い、的確な射撃で敵を次々と排除した。
城の最上階にある広間に突入したとき、そこにはドラゴビッチが待ち構えていた。彼は重火器を手にし、最後の抵抗を試みる構えを見せる。
「ここまで来るとは思わなかった」
ドラゴビッチの声は冷静だったが、その目には焦りが見えた。
「逃げ場はない」
レイが銃を構えながら言った。
ドラゴビッチは笑みを浮かべると同時に、銃を乱射して応戦した。フォージのメンバーは遮蔽物に隠れつつ反撃を開始する。
「アキラ、近づけ!」
レイが指示を出すと、アキラが素早く動き、銃弾を避けながらドラゴビッチに接近した。
ドラゴビッチが拳銃を構えた瞬間、アキラがその腕を掴み、関節を外す音が響く。ドラゴビッチは痛みに呻きながらもナイフを取り出し、アキラに襲いかかった。
二人の格闘戦は激しさを増し、広間中に打撃音が響き渡る。アキラがドラゴビッチの攻撃を受け流し、カウンターで拳を顔面に叩き込む。その勢いでドラゴビッチは壁に叩きつけられた。
「これで終わりだ」
アキラがナイフを振り下ろそうとした瞬間、ドラゴビッチが懐から小型銃を取り出す。しかし、その引き金が引かれるより早く、レイの銃弾がドラゴビッチの胸を貫いた。
ドラゴビッチは驚愕の表情を浮かべながら膝をつき、最後には崩れ落ちた。
ドラゴビッチの死により、モンテネグロの独裁政権は完全に崩壊した。廃城から脱出したフォージのメンバーは、夜明けの光の中で静かに立ち尽くす。
「終わったのか?」
アキラが息を整えながら呟く。
「とりあえずはな」
レイが答え、遠くに見えるモンテネグロの山々を見つめた。
「だが、俺たちの仕事は終わらない」
彼の言葉に全員が頷き、それぞれの武器を収めた。
数日後、反政府勢力のリーダーであるイリーナは、正式に新政府を設立することを発表した。フォージの存在は決して表に出ることはなかったが、その影響は確実に新たな時代の幕開けをもたらした。
一方、フォージのメンバーは再び「ルミナス・コート」に戻り、新たな依頼を待つ日常に戻っていった。
高級感漂う「ルミナス・コート」のロビーには、穏やかなジャズが流れていた。フロントには、旅行客やビジネスマンたちが行き交い、スタッフたちが笑顔で彼らを迎えている。一見、どこにでもある一流ホテルの風景だった。
しかし、この場所の本質を知る者はごくわずかだ。このホテルの地下では、今日も世界の裏側で繰り広げられる闘争の片隅で生まれる依頼が、次々と分析されていた。
廃城での激闘から数週間が経ち、フォージのメンバーはそれぞれの日常に戻っていた。
レイモンド・カーターは、支配人としてロビーを歩きながら、宿泊客と軽く会話を交わしていた。一見穏やかな笑顔の裏に、彼は常に周囲を観察し、次なる依頼に備えていた。
「お客様、どうぞごゆっくりお過ごしください」
そう言って丁寧に頭を下げた後、彼はエレベーターに乗り込み、地下の作戦司令室へと向かう。
地下のトレーニングルームでは、アキラ・タカシマがサンドバッグを相手に汗を流していた。その正確で力強い動きには、どこか新たな余裕が漂っていた。
「まだ動きが固いな」
エヴァン・デラルヴァが軽口を叩きながら部屋に入ってきた。彼は手にワインのボトルを持ちながら、アキラの動きを眺めている。
「お前こそ、銃ばかりに頼ってると鈍るぞ」
アキラが冗談めかして返すと、エヴァンは笑って肩をすくめた。
一方で、ソフィア・モレッティはラウンジでカクテルを片手に新聞を読んでいた。記事には、モンテネグロの新政権が安定し始めたという内容が記されていた。
「私たちがいなかったら、この記事は違う結末だったかもしれないわね」
彼女は独り言のように呟くと、カクテルを一口飲んだ。
ハサン・アル・ファリードは武器庫で新しいガジェットの調整に没頭していた。爆薬の構造や小型ドローンの動きを微調整しながら、次の作戦に備えている。
「完璧なんてない。改善は常に続くものだ」
彼が自分に言い聞かせるように呟く声が静かに響いていた。
レイが司令室に到着すると、デスクの上には新たな依頼書が置かれていた。それは国連からの極秘指定のミッションで、場所は南米。内容は、麻薬カルテルが国境を越えたテロ活動を計画しているというものだった。
「静かな日は続かないな」
彼はそう呟きながら、依頼書を手に取った。
その時、ソフィアが部屋に入ってきた。
「また新しいお仕事?」
「そのようだ。召集だ」
レイが無線で全員に指示を飛ばすと、メンバーたちは次々に司令室に集まった。彼らの表情には疲れの色はなく、むしろ次の任務への期待が漂っていた。
「次はどこだ?」
アキラが訊ねる。
「南米だ」
レイが短く答えると、エヴァンが口元を歪めた。
「南米か。暑いのは苦手だな」
「暑いより敵の方が厄介よ」
ソフィアが肩をすくめて笑う。
「準備をしろ」
レイが一言告げると、全員が動き出した。
その夜、ルミナス・コートのロビーでは、誰もその裏側で新たな作戦が進行していることに気づくことはなかった。彼らは表向き平凡なホテルのスタッフに過ぎない。しかし、その裏では、世界の闇を切り裂く影の英雄たちとして、今日も次なる戦場に向かう準備を進めていた。
フォージの戦いは終わらない。世界のどこかで火種が生まれる限り、彼らは姿を現し、そして静かに消えていくのだ。
フォージ・フロント:ファースト・ショー @mekurino
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