短い中に技術のすべてが詰まった物語

まずは、この作品のキャッチコピー部分を見て欲しい。

「日本人ならば、誰もが良く知るヒロインについて書きました」

この一言があってからのタイトル部分、テーマ「海」
そして書き出しが「罪の独白」からなのだ。

海に住む「姫」の罪の独白である物語。
読者が何を思い浮かべ、何を予想しながら読むかということをよく理解した物語構成。
これが、この作品の一番の見所ではないだろうか。

言い方が合っているか自信は無いが、物語を読み進めさせる為の「ミスリード」がうまく組み込まれていることによって、いい意味で裏切られるのだ。

次に「行間の作り方」が大変興味深い作品でもある。

たった1000文字の中で、これだけの物語を組み立てられる技術を持つ作者がいったいどれくらいいるだろうと考えてしまうほどの出来の作品だと言っても過言ではないだろう。
実際、長い文章を書くことは短くまとめるより難しい。
余計な情報を書き連ねることで、いくらでも長く書くことは出来るが、必要な情報だけを適切にまとめ、一本の物語として成立させることは困難なのだ。

行間をうまく使い必要最低限の情報だけを読ませることで物語の深みも増している。
「海」という舞台は美しいだけではない。
残酷な世界でもあるということも、たった1000文字の中で表現されている。

更には、すべての登場人物の心の変化までもが1000文字の中で表現されているのだ。

繰り返すが、この物語は「海に住む姫の独白」である。
特別な場面転換やアクションは、ほぼ無い。
心躍らせるようなバトルシーンも無い。
しかし、ただ静かに語られる「独白」の中で確かに心に響くものがあるのだ。

読者である人は楽しんでほしい。
作者である人は学んでほしい。

これが「物語の構成力」というものだ。