後編
「ずいぶんな騒ぎがあったそうじゃないか、
壇上に座して足を組み、美女を侍らしながら
ニヤニヤと見下げる視線は、眼前の
「凶事を呼ぶ家門と縁を結べば、こちらの運まで
大事な話があると
「まあ、どうしてもと縋りついてくるなら、持参金次第で考えなくもないが……」
「婚約破棄で結構です」
「何?」
「
「なっ」
「十数年前、竜帝陛下の宝物殿から"封じ玉"が盗まれたことは有名ですが、その犯人が判明しました」
「急に何の話だ?」
「
「ふざけたことを! 何を証拠に」
「封じ玉の起動に込めた霊力辿れば、誰が使ったかは判ります。竜帝陛下の軍門を
「くっ、生意気な小娘が! 取り押さえろ! たかだか二尾だ!」
不敵に、
「どうして私たちが、あなたの呼び出しに応じたと思ってるんです? ──叩きのめすためよ!」
「は?」
「
言うが早いか、従者の胸倉を引き寄せ、
強い霊力が、放たれた。
「ずっと封じられてたせいで、彼はまだ霊力をうまく扱えないの」
「だから今は私が、彼の二本分を借りて、これまでの屈辱を晴らすわ!」
「なっ、な……っ」
嘉牙が腰を浮かして狼狽える。
「これは霊力……じゃない神力! まさかそんな!」
狐族の四尾は、"天狐"と呼ばれる神位を持つ存在であり、二尾とは格段に霊力が違う。
本来であれば千年を生きて至る位階であるが、一族を守る力として、長く
二尾は地上の力。四尾は天上の力。
天から流れ落ちて地上に根ざした
先ほどまで愉悦に浸っていたはずの顔は、いまや完全に引きつり、頼みの
嘉牙は
「
「フ、ン。女の後ろに隠れて見学する能無しなど、生きていてもどうせ何の役に立たなかったんじゃないか──、ギャアアアアアア!!」
動けぬ彼の尾を、
「どの口が抜け抜けと。その侮辱、己が身でこの先ずっと味わうが良いわ!」
「尾が……! 霊力が……抜けるっ……!!」
「言っておくけど、お前の相手を私に任せてくれた
「ヒ……ッ」
有り得ないことではなかった。過去の四尾の尋常ならざる力を、これまでも狗族は見て来た。
だからこそ、四尾の復活を阻んだのだ。
東家に二尾の男子が生まれたと聞いて、東家に忍び込んだ。
せっかく狗族の時代がやってきたというのに。
狐族の二尾が、同世代で男女であったことは初。ふたりが
治癒を止めるため慌てて"封じ玉"を赤子の傷に
後日、赤子の訃報を聞いて、出血が激しかったのだろうと満足した。
まさか生き延びて、西家に匿われていたなど。東家が息子を従者として扱うことを承服するなど、思いもよらなかった。
名目は従者だが、
油断と傲慢は、愚者の奸計を完遂させなかった。
その後、
かつて東家に男子が誕生した際、
けれども東家の赤子・
いつ
周りの大人たちが、身持ちが固く、節度ある二人を微笑ましく見守りながら、「違う、そうじゃない。早く既成事実を作ってしまえ」と応援していた事を。
"
もはや期限はなくなった。
けれども大人たちはやっぱり、せっかちだった。今だって、彼と彼女をふたりっきりにさせるぐらいに。
ふわふわのしっぽを添わせ合いながら、楼閣の窓際に並んだ
「死に掛けながら告白してくるなんて。ズルイわ、
「あんな時じゃないと、言えないじゃないですか。だって俺は、お嬢の従者だったんですから」
クスッと
「本来の身分に戻ったのに、"お嬢"呼びだなんておかしいわ。"
「──!」
照れたように彷徨った後、しっかりと
「
「素直さが最高ね! 私も好きよ、
二尾のふたりの子が、四尾として誕生するのは、もう数年先の話である。
婚約破棄される予知夢を見たけど、望むところよ! みこと。 @miraca
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