第40話

 私がこれまでの出来事と二代目の居場所を知った経緯を語って聞かせると、二代目は喜んで聞いていた。


「そうか、お主は外出禁止を申し付けられたのか、原因が手前とあっては、申し訳ないことをした」


「全くだ、私はあの後大変だったんだぞ」


「アハハハハハ、終わったことだ許せ許せ」


 二代目は悪びれることもなくあぐらをかいた膝を叩きながら笑う。いい加減さは相変わらずだが、私は少し安心した。


「そういえばお主さっき死神と言ったな」


「あぁ、そのことでちょっと気になったことがある」私は神妙な顔つきになってそう言い、いけ好かない死神が忠告していた禁忌のことを話題に出した。耳を傾けた二代目は「ほう」と眉を寄せ複雑な顔でつぶやいた。「そもそも死神は人間の余った寿命を糧に存在するものなのだ、故に寿命まで人間を生かしてしまってはその恩恵を受けられず消滅する。ましてお主と一緒に天界の禁忌を犯したとなると同情するな」


「なんだよそれ、そんなに天界の禁忌を犯すことがいけないことなのか?」


「ハハハハ、抜かしよるさすが貫徹」


「ふざけるなよ二代目」


「すまんすまん。天界の禁忌なんて今まで何回も犯してきたから心配するな」


 経験者の言い分に胸を撫でおろす。よく考えれば二代目は地獄を無許可で去り浮世に無法滞在している身。そんな鬼が許されているのだから私もお咎めなしの可能性は高い。


「でもますます分からんのが、死神の仕事内容だ。その理屈じゃ人間は寿命をとられ放題じゃないか」


「手前も詳しくは知らないが、寿命をとるには細かい調査があるらしく勝手に行動ができないと聞いた。あくまでもリストに記された人間からしか接点はもてないとな」


「さながら拷問器具を売りにくる地獄の営業マンみたいだ」


「そうだな、しかしただ一つ大きく違うのはその代償だな……だから彼らも必死だ可哀そうに」


 二代目はそう言ったが、特に哀しそうではなかった。


「なぁ二代目、二代目はあの死神とどういう関係なんだ?」


「うん? あぁやつは仕事の仲間で手前の相棒である」


「はい? どういう意味です?」


「そのまんまの意味ぞ、お主はあの死神が浮世でなんの仕事をしているか聞いたのであろう」


「あぁ警備員を……ってさようですか二代目!」


 合点がいき驚く私を二代目は嬉しそうに高笑いする。よもや地獄の鬼神が浮世で警備員とは。


「た、たしかにどうやって生活しているか気になりましたが」


「いい仕事ぞ、お主も一緒に働かんか」


「私は公務があるので御免こうむります」


「そうさなぁ、まったく愉快愉快」


 二代目はそう言って嬉しそうに笑った。


「二代目様は死神さんと友達なんですね、素敵です」


 目をキラキラさせているセラに二代目は呆気に取られて、「アハハハ、それは素敵な解釈だ」と声に出して笑いながら言った。


「ただな天使のお嬢さん、友達なんてものは時の流れと共に変わってしまう悲しき愛玩具なのだよ」


 今度は私が呆気に取られる番だった。はて? 二代目はこんな妙なことを口走る鬼だっただろうか。その意図とするところはさっぱり分からないが、地獄を捨て長い間浮世に漂い続けた二代目の言葉には、しなやかな力強さが兼ね備わっていた。


「二代目も不思議なことを言う」


「浮世生活が長くなればお主もそのうち分かる」


「そんなことなら分かりたくもない」


 その時ドアが蹴破れたかのような重い音が部屋に鳴り響く、甲高い声で「せがれぇ」とはっきり聞こえた。


「おう買い出しご苦労」


「ちっ、米なんて頼みやがってさ」


 あからさまな舌打ちの後、眼鏡をかけた長髪の女が部屋にいる我々を訝しみながら一通り見渡し、セラの姿を視認すると買い物バックを畳に落とし顔を引きつらせた。


「なっどうして貴様がここにいるっさ」


「そ、それは私のセリフです。どうしてあなたがここに」


 二人はお互いに硬直し瞬きもせずに警戒している。私にはその意味が分からなかったが、そそくさと近づいてきた二代目が、「手前の同居人悪魔なのだ」そう言った。  


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