第4話 バンドガール



「あー、学校ダルい〜。行きたくないよー、達也〜」


だるそうに愚痴ってくる俺の彼女。


ボブの黒髪をアッシュブルーに染めて、耳には大量のピアス。制服の上から大きめの黒のモヘアニットを着て、首にはピンクゴールドのヴィヴィアンのオーブネックレス。

靴は俺とお揃いで色違いのマーチン。彼女はターコイズブルー、俺は無難に黒にしてる。


ネックレスは去年のクリスマスに俺が贈ったヤツだ。二ヶ月分のアルバイト代全部持っていかれた。まぁ・・・気に入ってくれてるみたいだからいいけど。



「柚月、そういう事言うな〜ww俺はお前と一緒に卒業したいぞ。」


「知ってるよー♪だから一緒に学校行ってるんじゃん。」


彼女は小学生の頃からの幼馴染で・・・

音楽が大好きで中学からガールズバンドをやってる。


俺とは見た目も性格も正反対だ。

じゃあなんで付き合ってるかといったら、答えは単純。俺が柚月を大好きだから。


俺には特に夢も無いし、そこまで熱くなれる何かも無かった。

だから音楽に夢中な彼女に惹かれたし、応援してやりたかった。

中1からギターを始めた彼女の練習に付き合うために俺もドラムを始めて、それが俺の唯一の趣味になった。



「ふふふ〜ん♪わたしの彼はドラマー♪たいこったたきっ〜♪」


古い歌を歌いながら、柚月はご機嫌に歩き出す。俺はそんな柚月を後ろからを見守るようについていくのが2人の距離感だ。


「柚月はそのフレーズばっか繰り返すよなww」


「うっさい!だって達也はイカれてないし、その次はまだだから恥ずかしいし///そういえば、来週のライブは来てくれるんでしょ?」


「当たり前だろ。ちゃんと予定開けてあるよ。」


「しししっ、達也はえらいな〜♪勉強も頑張ってるのに〜。」


「いいんだよ。俺が好きでやってるんだから。」


「じゃあ今日も練習付き合ってね〜。ふっふっふ〜ww」


「オリジナル曲頑張って作ったんだもんなー」


「一曲だけだけどねーwwわたし達もコレでバズっちゃうかなー」


「はい、はいwwそう言えば次のライブは結構売れ始めたバンドも一緒なんだっけ?」


「そうそう、一緒っていうかウチらが何故か声かけられたんだよねー」


「そうだったんだ?」


「そーそー、わたしはあんまり興味無い人達だったんだけどさ。業界の人も観に来るから出てみない?って。」


ん・・・なんか嫌な予感するけど・・・

まぁ、俺も行くからな。



「じゃあ今日も一緒に練習頑張るかー。とりあえず柚月の部活終わるまではまた教室で勉強して待ってるよ。」


「本当わたしの彼がわたしのコト、大好き過ぎて困るわーww」


「大好きだし。」


「恥ずいからっ!やめっww」


そんな会話をしながら学校に着いて、教室の前で別れる。

基本学校では俺はあんまり柚月に関わらない。柚月は学校でも目立つキャラだから友達も多い。いつも誰かに囲まれてる


逆に俺は地味な優等生。マジに国立大狙ってるから休み時間とか全部勉強に回してる。


パッと見にまったく真逆な2人だけど、でも俺達はお似合いの2人だと思ってる。



*******


「今日のライブは何時から出るんだっけ」


「ウチらは5時からだよー。来るのはギリギリ?」


「うーん、4時には行くよ。」


「そっか、ありがと。なんかさ打ち上げに出ろ出ろってうるさくてさー、来たら最後打ち上げまで付き合って欲しいんだけど・・・ダメ?」


「行く。それで一緒に帰るぞ。」


「さす〜!じゃあ待ってるねー」


「おー、頑張れよ〜!」




とりあえず到着時間調べてギリギリまで勉強して、親父のバイクでライブハウスに向かう。


シルバーのアルミタンクにセパハン、タックロールのシート、効きの悪いドラムブレーキ、パンパンうるさいキャブトンマフラー。


柚月のヘルメットをぶら下げて、クマのお守りがぶら下がったキーを回して、キック1発でエンジンに火を付ける。


「要は〜♪突き抜ける〜あの感じ〜♪気付かなくちゃ〜♪かけがえのないことに〜♪」


鼻歌を歌いながらライブハウスに向かう。



タッタッタッ   ガチャ



階段を降りてドアを開ける。チケットを渡して中に入る。

薄暗い照明の中、柚月の姿を探す。

会場の端の方で男達に囲まれてる女の子4人組の姿が目に入った。

あー失敗した。やっぱり最初からいなきゃダメだなぁ。反省しなきゃ。



「おーい、柚月?お待たせ。」


男達に割り込んで柚月に声をかける。


「達也、遅いっ!」


柚月がイライラした声で返事をしてくれる。


「悪い!待たせてごめん。そろそろ出番だろ?みんなも準備しなきゃだよね。行こっか?」


「あー、お前誰だよ?」


「ウチらが先に声掛けてたんだから、アッチ行ってろよ。」


ちょっとガラの悪そうな男達が俺に声をかけてくる。


「あー僕、柚月の彼氏です。そろそろ出番なんで、すみませんけど行きますねー」


柚月とそのバンドメンバー達をとりあえずその場から立ち去らせてから、ペコリと頭を下げた。


「チッ」


後ろから舌打ちが聞こえてきたけど。でもこっちから先に頭を下げておけば、まぁトラブルになることは殆ど無いから安いモンだよな。



「達也君、ありがとねー。」


「助かったよー」


「サンクス」


柚月のバンドメンバー達がお礼を言ってくれた。柚月の彼氏としては鼻が高い。ふふん。


「いや、そもそも達也が来るのが遅いのが悪いし。」


柚月が腹を突いてくる。


「いや、スミマセンした。反省します。」


「なら許したげる。じゃあわたし達のステージ楽しみにしててね〜♪」




今やってるバンドの演奏が終わって、10分くらいしてから柚月達のバンドが登場した。


一曲目は柚月のコダワリで・・・少しメロコアアレンジしたアニソン。このアニメがキッカケで音楽にハマったらしい。


「スイー♪スイート♪ラリキュア〜♪」


ちょっと場違いな感じもあるけど・・・俺も柚月の影響でこのシリーズ日曜から見てるし。

なんなら柚月と一緒に朝から見ることあるし。


それから30分くらいでステージが終わった。

一緒に練習したオリジナル曲も良かったし。

うん、良い感じだったと思う。


終わって15分くらいするとギターケースを抱えて柚月達が戻ってきた。


「達也〜、どうだったー?」


「おー良かったぞ!」


「だろっ!なんか打ち上げでギョーカイの人が話したいみたいなコト言われてさー。売れたら達也、養ってやるからなーww」


「おーすごいじゃん!そしたらじゃあ宜しくお願いします。ww」


「あははっ、任せとけよーww」


トリのバンドが終わって、近くの打ち上げ会場に向かう。


「あれ?他のバンドメンバーは?」


「あー、みんなは家が厳しいからさ、打ち上げには参加しないで先に帰るって。」


「そっか。俺は柚月と一緒に帰るからな。」


「うん。ギョーカイの人って何話すんだろうねー?」


「なんだろな?まー気負わないでいいんじゃないか?」


「だよね。ありがと。」


なんとなく柚月が緊張しているんだろうなーっていうのが伝わってくる。



打ち上げ会場の居酒屋に入ると店員さんに奥の座敷に案内された。



「おー。柚月ちゃん、いらっしゃい!みんな待ってたよー。あれっ?隣りの男の子は誰かなぁ?」


「あっ、はじめまして。僕は柚月の彼氏の下村達也って言います。柚月の付き添いで参加させて頂きます。」


「あ〜・・・そうなんだ。彼氏君ヨロシクね。」


それから俺達以外の人達はお酒飲んで、ワイワイガヤガヤ。俺達2人だけはまだ18だから酒は飲めない。


「ねー、柚月ちゃんも飲んじゃえば良いじゃん?俺達がちゃんと面倒みてあげるよー」


「そっ、そっ。これからこのギョーカイでやっていくんならノリも大事だよーww」



クソうぜぇ。柚月はずっと「あははー」と苦笑いで躱してる。こういう勘違いのノリとか、マジでダリぃなと思う。クソダセーんだよ。


本当は柚月にはこういうの向いてない。気が効いちまうから余計に辛いんだよな。

柚月が心配で小便にも行けない。


「ねっ、達也。オシッコ行きたいんでしょ?行ってきていいよ。それで戻ってきたら帰ろ?」


柚月が耳元で囁いてきた。


「えっ、いいよ。大丈夫だよ。」


「いいからっ。っていうかごめんね。大丈夫だから早く行ってきて。」


「ああ、分かった。じゃあちょっと待っててな。戻ったタイミングで帰ろう。」


急いでトイレに行って、戻ろうとしたらあの席に居た若い男2人に声をかけられた。


「すみません。僕急いで戻りたいんで、離してもらえませんか?」


「いやいや、そんなに急いで戻るコトないじゃん。」


「そーそー。柚月ちゃんだって彼氏君が居たら話せないコトもあるだろうしさーww」


すげーイライラする。コイツら何言ってんだ?

分かったような口聞いてんじゃねーよ。


もうコイツ等を殴り飛ばしてでも柚月の元に戻ろうと考え始めた時、座敷から柚月の怒鳴り声が聞こえた。




「もうっ!クソウザいっ!何が有名にしてあげるだっ!バッカッ〜!あ゛〜もうヤダッ!ぐすっ」


「柚月っ?」


男2人の手を振り払って、座敷に走った。


「人の夢を゛っバカにすん゛よ゛っ!何がセックス、ドラッグ、ロックンロールだっ?ひっぐぅ、バッカっ!バカっ!バッカっ〜〜〜!!」


「柚月っ?大丈夫かっ!」


柚月が立ち上がって、顔をぐしゃぐしゃにして泣いてた。


「達也を゛っ、裏切る訳ないだろ゛っ!比べるモンじゃな゛いっんだよっ!!今はっ、イチャラブ、エナドリ、ロックンロールなんだよ゛っ!!死ね゛っ!!」


「柚月さんっ?」


「達也゛〜、帰ろ゛う゛。ぐすっ・・・」


「あー、うん。柚月、一緒に帰ろうな。」


柚月の靴を靴箱から出して柚月に履かせる。


座敷の席は完全に沈黙してた。俺は黙って財布から2万取り出して、バンッとテーブルに叩きつけてから・・・柚月の肩を抱き締めながら店を出た。


バイクまで2人で歩いて帰る。


「ね゛ー、達也゛?」


「うん。どうした?」


「養ってあげられなぐっでぇ、ごめん゛・・・」


「あー俺さ、大学入ったらさ、お前らのバンドのマネージャーやるから。それでさ、それでも売れなかったら・・・俺がお前をちゃんと養うから大丈夫だよっww」


「ん゛っん・・・/// 達也゛っ、大好きっ゛。」


「知ってる。でも俺の方が好きだねっww」


「バカっ。ねっ、今日バイクなんでしょ・・・」


「ああ。」


「明日・・・日曜日だから゛。本当はっ゛・・・結婚して゛がら゛って思ってだけどっ。今の言葉っプロポーズだかんね゛っ!先払い゛っする゛っ!」


「えっ・・・」


「2度言わせたら゛っ、バカっなんだかんね゛っ!」


「了解。じゃあ行くか。」


「ゔんっ。」




*******



「ふふふ〜ん♪わたしの彼はドラマー♪たいこったたきっ〜♪わたしにイカれてるけど〜♪アレのリズムはっ最高っ♪」


「ちょっ、柚月?登校してる時にそれはダメだと思うんだけどなー?」


「いいじゃん。本当のコトなんだからっ。ふっふふーん♪」


ご機嫌な柚月の後ろを付いて行きながら、俺はこのかけがえのない彼女との日常を大事にしていこうって心に誓った。


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