最終話
◇少し前 三多視点
百合の母親は僕の顔を見て、扉を開けてくれた。
「少しは良い顔になったじゃない」
「今まで、ご迷惑をおかけしました」
「はいはい。どうぞ。今の君なら信用できる」
それだけ言って、おばさんは家の奥へ行ってしまった。
百合の部屋まで歩いた。臆病な自分が顔を出しかけたが、引っ込める。
「ユリ」
同意を得ずに部屋に入ろうとしたが、ドアが開かない。
「ラブレター、読んだよ」
ドアが開く。
「……入って」
「どうも」
部屋は暗い。電気こそついているが、カーテンを締め切っていて光が入っていない。百合の顔は部屋よりもずっと暗い。僕は今から、最愛の人と親友のために、悪役になる。
「俺が知ってること、今から全部話すね」
「……」
返事がなくても構わない。
「まず、君はケンジのことが好きだ」
「……」
「黙ったって無駄だと思うけどね。まあいいや。それで君は、小学校の卒業式の日に彼に告白しようとした」
昨日の夜、家で手紙を読み込んだことでわかった。一番古そうな手紙に、出会ってから3年くらい、と書かれていたことから推測した。
「でも、君は怖気付いてしまった。ケンジがずっと友達だよね、って言ったから。君は他の人の気持ちを考えすぎるところがある」
彼女はもう半泣きだ。それでも続ける。
「でも、俺は違った。俺は中1になってすぐ君に告白した。君と俺は仲のいい友人だった。君はその関係を壊したくなかった。だから、ボクの告白を受けた」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
もう話すのが辛くなって来た。本当にボクは弱い。
「彼はモテる。それもすごく。だから、ボクと付き合ってることが彼にバレたら、君からケンジは離れてしまう、そう考えた。だから、他の子が彼に告白するのを阻止した。君は人気者だったから、その地位を利用してね」
もう見てられないほどに彼女の顔は歪んでいる。泣いていないのが奇跡というほどに。
「ボクと恋人らしいことを一つもしなかったのも、ケンジにバレないため。でも、そんなことを1人で抱え込んだら、つらい。だからその気持ちをラブレターを書くことで消化した」
もうすぐ、もうすぐ終わる。
「五年間はそれで上手く行ってた。でも、君は失敗した。佐野朱莉のラブレターを盗んだ時、彼女にバレた」
「もう、やめてよぉ……」
「学校生活もこれで終わりだ、そう思って、君は引きこもった。真実はこうだ」
彼女は、虚空を見つめていた。
「誰にも……言わないで」
「言わないさ。ただし条件がある」
「……なに」
「ユリ、別れてくれ。それで、また学校に戻って来てくれ」
「それだけで、いいの?」
「時間はかかってもいいから。じゃあ、俺は帰る」
「待って、待ってよ!」
待たない。この後に、ケンジが絶対にくるから。彼なら彼女を救える。良いところは彼が持っていけばいい。これが僕の解決編。
そして、これが僕にできる、百合と賢治への究極の愛だ。
◇少し後、賢治視点
「そっか。話してくれてありがと」
「けんじ、ごめんなさい。本当に」
「僕に謝らないでくれ。確かに君は悪いことをしたのかもしれない。けれど、原因は僕とサンタにあるんだから」
ゆりは、自分の過去のことを全て話した。
「じゃあ僕らがやることは決まったね」
「へ?」
「これで解決したとか思ってるバカに、本当の解決編を教えてやらないと」
僕は、僕の信念を貫く。
「ゆり、走るよ。外に出て」
「へ、いきなり?で、でも佐野さんがいたら……」
「アカリはそんなことしないよ」
「そ、そうなんだ……。って、アカリ⁈なんで下の名前」
「いいから行くよ!」
ユリがやけに焦っているが、気にしない。僕の親友は、強がりが苦手だ。いるところなんて大体わかる。
公園だ。
そこまで走ると、やはりいた。
「サンター!お前ちょっとそこで待ってろ!」
「言うだけ言って逃げるなんて卑怯よ!」
やべ、という顔をして、逃げかける。逃がすわけないだろ。本来僕はサンタより走るのが圧倒的に早いのだから。
ダッシュをして、一瞬で追いつく。
「サンタくーん、つーかまーえたー!」
僕がニッと笑うと、三多は泣きそうな顔で叫んだ。
「なんで、なんで君はこうやっていつもいつもボクの邪魔をするんだ!なんで素直に2人でいずに、僕のところに来るんだ!」
「そりゃ、愛してるからだよ」
三多はポカンと口を開けた。
僕は気づいた。恋愛も親愛も、同じ愛なんだと。サンタを三多と呼ぶ自分に気づいた。ユリを百合とか、ゆりとか呼ぶ自分に気づいた。僕は、2人とも大切なんだ、と。
全てを愛すこと。これが僕にとっての究極の愛だ。
「な、なんで今そんな話になるんだよ」
彼は若干僕に引いている。
「それくらい、お前は僕の親友なんだってことだよ」
「私も同じだよ。私がサンタのこといつ嫌いって言ったの?それと、今まで本当にごめん。許してとは言えないけど、その……、いや許して欲しい!」
彼は空いたままの口をようやく塞いで、大笑いした。
「そっか。じゃあ、俺らはしばらく友達だ」
その場にいる全員で笑った。
多分、もっといい解決方法もあったかもしれない。けれども、過去ばかり見ていては進まない。
今、僕らは通じ合えた。とりあえず、それだけでいいや。
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ボクの女友達が引きこもったら、究極の愛に気づきました Yoshi @superYOSHIman
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