王子、魔女、悪魔
@Owl-0811
覚醒
第1話 異世界の目覚め
全身を包む奇妙な違和感とともに目を覚ました。空気には金属のような冷たさが混じり、地面からは湿気と石の硬い感触が伝わってくる。肌を刺すような冷たさ。土埃と湿気が鼻腔を満たし、まるで薄暗い夢の中にいる感覚だった。
ひんやりと湿った空気、鼻を刺激する土の匂い、それに混じる汗臭さ――どれも彼の知る世界とは違う。
「何だ、この場所……?」
目を開けると、そこには馴染み深いオフィスの天井も、見慣れた蛍光灯もなかった。
代わりに視界に入ったのは、くすんだ青空と紫がかった不思議な雲、そして異様な威圧感を放つ尖塔の連なる街並みだった。どこまでも広がる青空と、中世風の建物がひしめき合う景色に、程岩は言葉を失った。
「これ、夢だよな……」
ぼんやりとつぶやきながら、彼は上体を起こそうとした。動くたびに腰に硬い感触が伝わる。見下ろすと、装飾が施された石造りの椅子に座っていた。周囲を見回すと、その椅子が高台に据えられており、広場全体を見渡せる位置にあることが分かった。
広場には大勢の人々が集まり、ざわめきには聞き慣れない異国の言葉が混じっていた。呪詛のようにも祈りのようにも聞こえる中に、怒声や不満の叫びも混じっていた。
まるで渦巻く嵐の中にいるようだった。誰かが何かを叫び、別の誰かが拳を振り上げる。人々の顔には期待と興奮、そしてどこか恐れを含んだ奇妙な表情が浮かんでいた。
低いレンガ造りの家々が不規則に並び、その中心にそびえるのは異形の装飾が施された巨大な絞首台だった。荒々しく削られた木材には、何かの呪文のような文字が刻まれている。
「おいおい、何だこれ。時代劇のセットか?」
私は自分の胸を押さえた。確か、最後に覚えているのは徹夜明けの疲れ果てた姿だった。設計図の修正作業に追われ、机に突っ伏した瞬間――そこまでは記憶がある。
「殿下、お目覚めですか!」
突然耳元で声がして、まるで雷に打たれたように肩を跳ねさせた。振り返ると、そこには白髪の混じった壮年の男が立っていた。シワの刻まれた顔に深刻そうな表情を浮かべ、彼は恭しく一礼する。
「殿下……?」
混乱のまま問い返す程岩をよそに、その男は一歩前に進み出た。そして声を潜めるようにしながら切迫した調子で言った。
「どうか、ご裁定をお急ぎください。群衆が待ちかねております。」
私の胸中に不安が広がる。裁定? 自分がそんな重要な決定を下す立場なのか?反論する術もなく、彼は混乱と恐怖に飲み込まれそうだった。誰もが彼を注視しているその状況が、彼の心に重圧となってのしかかる。
「裁定? 何の話だ?」
疑問は尽きないが、男の視線を追うと、彼らが注目しているのは広場中央の絞首台だと分かった。木製の柱に横梁、そしてぶら下がる太い縄。これが現実であれば、何ともおぞましい光景だった。
さらに目を凝らすと、絞首台の下には一人の女性が立たされていた。痩せこけた体を覆う粗末な服装、そのフードの奥からは怯えた気配が伝わってくる。
彼は無意識に拳を握り締めた。その感触は、手のひらに刻まれた緊張と汗の証だった。「これが俺の決断にかかっているのか?」心の中で繰り返されるその問いが、まるで警鐘のように胸の奥を打つ。これほど重大な場面で、自分が何かを決めるなんて――彼は息苦しさを感じ、胸の奥からこみ上げる不安を必死で飲み込んだ。 心臓が早鐘のように打つ。自分はただの設計士だった。こんな状況に直面する訓練なんて受けたことがない。
「待て待て、これはどういう状況だ?」
程岩の心は完全に混乱していた。だが、その場の緊張感は無視できないほど強烈だった。周囲の人々が彼に注目し、何かを期待している視線を送ってくる。その期待が、重たい鎖のように彼を縛り付けているようだった。
「裁定を」と男が再び促す。程岩はその言葉に反応するように息を深く吸った。
「……どうやらただの夢じゃないみたいだな」
彼は頭を振り、何とか冷静さを保とうとした。
「まずは状況を把握するしかない」と自分に言い聞かせ、広場全体を観察し始める。しかし、この異世界が何を意味し、これから自分が何をすべきなのか――その答えはまだ見つかっていなかった。
だが、一つだけ確信できることがあった。この異世界では、自分の一言が多くの人々の運命を決定づける力を持っている。目の前の絞首台や、群衆の熱気に満ちた視線がその事実を物語っていた。この状況を変えることができるのは自分だけ――その重圧に胸が押し潰されそうになった。しかし、同時に心の奥底に微かな興奮が生まれていた。これまで他人の指示に従い、細かな図面を描くことしかできなかった自分が、ここでは一国の王子として、誰かの命運を左右する力を持っているのだ。それは恐怖と共に、得体の知れない高揚感をもたらしていた。
王子、魔女、悪魔 @Owl-0811
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