第20話 共存の息吹

探査艇が遺跡を離れ、海面へ向かう中、船内には複雑な感情が渦巻いていた。アヤは窓越しに遺跡の輝きを見つめながら、言葉にできない思いを抱えていた。遺跡が残した最後のメッセージ、「未来を切り拓け」という言葉が胸に響いていた。


「遺跡が未来を託した……でも、本当に私たちにそれを守る力があるのかしら。」


アヤが呟くように言うと、隣で村上がふざけた調子で答えた。


「いや、ないかもしれないけどさ。それを言ったら、俺たちがここに来たこと自体、奇跡みたいなもんじゃない?」


「確かにね。でも、奇跡が続く保証はないのよ。」


アヤは苦笑いを浮かべた。


高橋がシートから顔を上げ、静かに口を開いた。


「奇跡は続かない。だが、奇跡を起こしたのはお前たち自身だ。人間と人魚が手を取り合ったのは、おそらくこの遺跡が見たかった未来の形だろう。」


---


数ヶ月後、遺跡の存在が公になり、人類は共存の道を模索し始めた。環境回復プロジェクトが各国で進められ、人魚たちが提供する技術は海洋環境の改善に革命をもたらしていた。


その日、アヤは再び深海へ向かう準備をしていた。


「まだ課題は山積みだけど……私たちは進んでいるわ。」


そう呟きながら探査艇に乗り込むと、村上が笑いながら言った。


「まぁ、地上じゃまだ騒いでるけどな。でも、未来の騒ぎってやつだろ?」


「その騒ぎが収まる日を作るのが私たちの役目よ。」


アヤは窓越しに深海の静けさを見つめた。


---


深海の世界へ降り立ったアヤは、遺跡の淡い輝きを捉える。


「今日もまた、私はあなたに会いに行く。」


窓越しに青緑の光を感じながら、彼女は目を閉じて深呼吸をした。そこには、初めてカイと出会った時の記憶が蘇る。そして、今もその光の先で、遺跡と共にある人魚たちの姿を思い描いていた。


「いつか本当に、地上と海が手を取り合える日が来る。その未来の始まりを見届けるまで、私たちは歩き続ける。」


アヤの瞳には、確かな意志と希望が宿っていた。探査艇が静かに動き出すと、彼女はその輝きに向けて微笑む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アクア・ノヴァ:深海からの訪問者 すずね @Suzueru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画