第19話 遺跡の目覚め
遺跡の中心にある球体が輝きを増し、青緑の光が壁面を伝う。それはまるで脈動する生命のようで、遺跡全体がその力を蓄えているのを感じさせた。探査艇のモニターに文字が浮かび上がる。
「『未来を選びし者たちへ』」
アヤがその文字を見つめながら呟いた。
「遺跡が……私たちに未来を託している。」
高橋が腕を組み、深い息を吐いた。
「未来か……。地上では今頃、これだけの発見があるってだけで、国も企業も一触即発だろうな。まともな話し合いなんてできる状況じゃない。」
村上が軽く肩をすくめた。
「地上が混乱してるのは日常茶飯事ですよ。それより、遺跡が動き出して地球が回復するなんて、SF映画も真っ青な展開じゃないですか。」
篠原教授が通信越しに応じる。
「映画だろうが何だろうが、我々はその結末を書き換えられる立場にいる。それが怖いなら、研究者を辞めて魚屋にでもなればいい。」
村上が笑いながら返した。
「魚屋もいいですね。今なら『人魚監修のおすすめ』とか看板を出せるかも。」
高橋が一瞬吹き出しそうになったが、すぐに真剣な表情に戻った。
「冗談言ってる場合じゃない。遺跡の意図を間違えれば、それこそ地上も深海も終わりだ。だが……やらなければならない。」
アヤが小さく頷いた。
「やらなければいけない、か……。そうよね。未来を手放すわけにはいかないもの。」
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球体の輝きがさらに強まり、空間全体に映像が広がる。汚染された海が透明度を取り戻し、荒れ果てた土地に緑が芽吹いていく。その光景に探査チームは息を呑んだ。
「これが……遺跡の力なのか。」
高橋の声には驚きと期待が滲んでいた。
村上がモニターを指差す。
「でも見てください。このシステム、単純なエネルギー再生じゃないですよ。地球全体を循環する仕組みになってる。これ、完全に未知の技術です。」
篠原教授が声を震わせながら応じる。
「人類の科学技術なんて、これに比べたら子供の積み木だ。だが、この積み木でここまで来た。私たちなら、この技術を正しく使えるはずだ。」
カイが遺跡の光を見上げ、低い音を響かせる。
「だが、過去の争いが遺跡を壊した。それを忘れてはならない。共存が鍵だ。」
アヤがカイに視線を向け、静かに頷いた。
「だからこそ、力を合わせる必要があるのね。未来を守るために。」
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さらに映像が切り替わり、人魚たちが遺跡を構築する過程が映し出される。その中には人間の技術では考えられないエネルギーシステムが存在していた。
村上が目を丸くする。
「え、ちょっと待って。この構造、どうやって動かしてるんだ?燃料も見当たらないし、完全に謎だぞ。」
篠原教授がモニター越しにため息をついた。
「謎で済ませていいなら、研究者はいらん。解き明かすのが我々の仕事だ。」
村上が苦笑いする。
「教授、真面目な顔でそんな怖いこと言わないでくださいよ。」
カイが映像に目を向けながら言った。
「これが我々の技術だ。だが、乱用すれば災いを呼ぶ。共存とは、互いに理解し、尊重することだ。」
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遺跡の光が徐々に落ち着き始め、探査艇のモニターに新たなメッセージが浮かぶ。
「『調和はなされた。未来は手に託された。』」
アヤがその言葉を見つめ、拳を握りしめる。
「絶対に守る。この遺跡も、人魚たちも、地球も……私たちの未来も。」
高橋が深く息を吐き、力強く頷いた。
「人類がどれだけ混乱してても、やるべきことをやる。それだけだ。」
篠原教授が静かに締めくくる。
「未来の足音は、いつだって混沌の中で始まるものさ。」
遺跡の光が静かに深海に溶け込むように収束していく。その輝きは、共存の未来への希望を静かに示していた。
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