現代に甦る!爆笑?川中島!

武田伸玄

1話完結

 (うぅ、喉が痛い。風邪でもひいたか)


 朝になって喉の痛さで目が覚めた彼の名は長尾輝ながおひかる

かの戦国武将上杉謙信の子孫と伝わる新潟県の名家の生まれだ


 今年で25歳になる彼。先祖上杉謙信をこよなく愛し、また上杉謙信の子孫であることに誇りをもって生きている。

 新潟育ちだが今は就職先の関係で新潟を出て長野県内のアパートに住んでいる

長野市内の立地のいいアパートだが、大家の真田さんの好意により割安で住まわせてもらっていた


 (喉痛ぇ。今日は日曜。医者もほとんど休みだし、ドラックストアで風邪薬を買うかぁ)


 彼は近所のドラックストアに入店した

しかし、昨今の薬不足。さらに季節の変わり目ということもあって店内の風邪薬の棚はスカスカである


 (参ったなぁ)


 彼は店を出ようとしたが、その時だった


 「風邪薬入荷でーす」


 店員さんがそう掛け声をして、大量の風邪薬が入荷した


 (おお!なんたる幸運。これは偉大なる先祖のご加護であろうか!)


 と訳の分からないことを考えながら、彼は棚の前に急行する


 (な、なんだこの風邪薬は・・・)


 薬品名:風邪薬風林火山

 製薬会社:甲州薬品

 

 彼はその名前に嫌気がさす

甲州という地名。さらに風林火山と来れば赤備えの軍団で知られる武田信玄。上杉謙信の天敵ではないか


 そして薬のパッケージにはこのような文言が


 治りはやきこと風邪のごとく

 しずか1日に過ごすこと林のごとく

 薬がウイルスを侵掠しんりゃくすること火のごとく

 風邪薬におけるその地位が動かざること山のごとし


 (なんか怪しい)


 彼はその怪しさもあって迷った

しかし、その間にも体が熱を帯びてきたので猶予はないと判断


 (買ってしまった)


 彼はその怪しげな薬を服用し、布団に入った

だが、薬が効く様子はいっこうになく、むしろ病状が悪化


 激しい頭痛や吐き気、高熱にうなされた


 (これは変だ・・・あの薬に毒でも入っていたに違いない。うう信玄めぇ、現代に及んでも上杉一族に害をなすかぁ・・・!)


 彼の病状は時が過ぎるほどに悪化したため救急車を呼ぶことに


 少ししてサイレンの音が聞こえてきたが・・・


 (むむ、赤い光か。窓から赤い色が見える・・・赤備えかっ)


 彼は何かが憑依したようにおかしくなっていた

駆け付けた救急隊をぶっ飛ばして玄関の外に飛び出すと、


 「信玄・・・信玄はどこじゃーっ」


 道路の真ん中で絶叫する


 「震源はここじゃよ」


 おかしくなっていた彼にそう声を掛けたのは近所に住む金持ちのじいさんだ

彼は気づいていなかったが、この直前に長野県を震源とする地震があったらしい


 だが、彼はじいさんの言葉を聞くとハッとしてじいさんを睨む


 (そうだ、近所のじいさん、名前を武田だと言っていたな。髪の毛を剃っているのは薄毛に悩んでいたからだと思っていたが、信玄坊主であったとは。一生の不覚っ!!)


 彼が睨みつけると、じいさんにも何かが憑依していたようで、


 「ぶはははは!そうじゃよ、やっと気づいたか。越後のはなたれ小僧よ。ここ、信濃はわしが頂く。上杉の輩はおとなしく帰るがよろしい」


 と信玄になりきっている


 さらにじいさんは手提げバッグから団扇を取り出して


 「かかってこい、わしがこの軍配で全てを受け止めて見せるからな」


 と団扇を掲げた


 (おのれ信玄許すまじ!)


 彼はさらに激しく憤るが、刀になりうるものがない


 と、その時である。通りがかりの買い物帰りのおばさんが長ネギを落として、それに気づかず去っていった


 (おお、何たる幸運!これは長ネギではない、刀だ!再び信玄坊主を討ち果たす好機が訪れたり!)


 彼は刀(長ネギ)を持ってじいさんに襲い掛かるが、相手の軍配(団扇)も中々丈夫であり、それを受け入れて弾き続けた


 そのうち騒ぎを聞きつけて警察がやってきたため、遂に彼は勝利できず引き上げる


 

 その翌朝、目が覚めると熱もすっかり冷めて体も心も元通りになっていた


 (自分は・・・昨日なんてことをしていたのだろう)


 まるで昨日の自分が自分でないようだった

月曜日ということでいつも通り出勤し、仕事からアパートに帰ってくると大家の真田おばさんが玄関前に待っていた


 「あ、大家さん。昨日はお騒がせしまして・・・」


 「長尾さん、ちょっと話したいことがあって待ってたのよ。私の部屋に来てもらえる?」


 大家さんが申し訳なさそうに告げたのは、このアパートを取り壊すことになったという話だった


 「ええっ、それは本当ですか!?」


 「そうなの。実はこの前、近所の武田さんから話があってね。あのおじいさんって大手建設会社の社長さんと繋がりがあって、その会社さんがこの辺を再開発したいって言ってるらしいのよ。私も歳だしこの建物も古いし、潮時かなって。でも、安心して。少し職場から遠くなっちゃうだろうけど新潟県の妙高市にある新築住居を立ち退き対象者に無償で提供できるみたいなの。妙高市なら長野市からも遠くはないから悪くない話だと思うけどね」


 アパート暮らしの人にも無償で住居を提供する。これは普通に考えて破格の対応であるが、彼の心に再び上杉謙信が甦る


 (おのれ信玄坊主!このわしに信濃から立ち去って越後に帰れと言うのだな!)


 しかし、彼が怒っても何をもがいても仕方のないことであった

武田と真田はつるんでいるのだ


 (確かにこれが信玄坊主のやり方であった!戦国の世でも戦いでは負けなかったが気づけば信濃の大半を奪われていた。また同じ手に引っかかるとはっ!)


 こうして彼―長尾輝は越後こと新潟に帰るのであった・・・

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