第32話 依頼選択

 

 

 思わぬタイミングで冒険者ランクがひとまずの目標だったFにランクアップしてしまった。とは言え元より考えていた移動だ。さっそく北へ向かうのに適したクエストを探す。移動の準備もしなければいけないけど、探したからとすぐに丁度いいクエストを受けられるとは限らないからね。

 

 私が今いるサザン領はネイヴァル王国の最も南にある領だ。ここから北東にある王都セタンへ行くためには、リュノール領、タルブ領、ペリグレット領と通過してようやく王都のある王領に辿り着く。

 

 移動しながら行うクエストとしてすぐに思いつくのは、要人護衛、隊商護衛、配達だ。

 

 要人護衛は、上流階級に属する人物や裕福な平民等が自身の身を守るために出す依頼で、単に街中で警護をする場合もあるが、街から街へ移動する場合もある。

 

 隊商護衛は、フォートンで見かけた護衛を雇った商人の拡大版だ。

 

 仮に比較的安全な場所では二人でよかった護衛が、そうでない場所や高額商品の輸送となると十人必要になるとする。その時五倍の護衛費用を払うとなるとかなりの痛手だ。ならば五人の商人が集まれば護衛も十人となるという発想でできたのが隊商だ。集まって規模を大きくすることで安全性を高め、費用負担を軽減する。

 

 大商会は単独で隊商を組むこともあるが、それ以外の商会や商人はその時々で集まって行うことが多い。

 

 配達は言わずと知れた、定期便がない村への荷物の配達だ。上のランクになっていくと定期便に任せられないような貴重品や、急ぎの荷物を運ぶこともあるようだけど、そういう類はまだ受けられない。

 

 これから領都間を結ぶ主要街道を通って王都を目指すため、小さな村への配達の際は脇道にそれることになる。またクエストの完了報告は近隣の冒険者ギルドならどこでも受け付けているため、依頼を受けた街へ戻ってくる必要はないものの、配達先の村から冒険者ギルドのある次の街までは仕事外での移動となる。

 

 配達クエストならば、いつも通り納品クエスト等と組み合わせるのもいいだろう。

 

 

 これらの中で考えると、要人護衛は少数精鋭を必要とされることが多く、信頼も求められることから、もう少しランクを上げないとすぐに受けることは難しいだろう。Fランクでも受けられないことはないのだが、何日も依頼を待ってクエストボードに張り付くような真似はしたくない。よって、隊商護衛か配達か。可能なら今まで受けたことのない前者を探したい。

 

 また目的地としてどこまでの依頼を探すのかでも、クエストを見つける難易度が変わってくる。

 

 以前王都までの隊商護衛を見かけたことがあるけれど、あれは全国各都市に出店しているという大店のクエストだった。あのようなクエストはそうそうあるものじゃない。比較的見つかりやすいのは近距離を移動するクエストだが、あまり距離を稼げないクエストだと、何度も何度も受けないと王都まで辿り着かない。

 

 まだ感触もつかめていないし、ひとまず次の領の領都リュノールまで行く隊商を探してみよう。

 

 

 そうして見つけた三日後に出発するという依頼者のクエストを受けようとしたところ、これまでなかった事前の面接があり、あっけなく落ちてしまった。タイミングが良くてすぐに面接を受けられたから、時間的なロスが少なかった点は良かったのだけど、こういうこともあるんだね。

 

 依頼者には会った瞬間から嫌な顔をされていたため、面接での受け答えがどうこうではなく、容姿や年齢の問題なのだろう。条件があるのなら、あらかじめ明文化しておいてくれるとどちらにとっても時間や手間が省けて良いと思うのだけど、何かそうし難い理由があるのだろうか。

 

 確かに対魔物ならともかく対人間を想定するならば、いかつい体格や容貌をしていた方が相手に警戒感を持たせることができるはずだ。また見た目で強そうな印象を与えることは、依頼者に安心感をもたらすのだろう。

 

 そう考えると、クエスト内での立ち振る舞いも考えなければいけないか。

 

 例えば私は仮に馬車に乗り込んで寝ているだけでも、ある程度までの魔物を視界に入るより前に追い払うことで護衛を完遂できると思う。では依頼者の前で護衛がそのように振舞った場合、どのように評価されるか。

 

 もちろんそれは最悪の評価になるだろう。

 

 依頼者から見た場合、魔物は近寄ってこなかったことになり、その理由は分からない。察しの良い者ならば私のおかげと思ってくれるかもしれないが、単に運が良かったと捉えるかもしれない。

 

 また魔物を追い払うたびに報告をしたとして、依頼者が気づきもしなかったそれを信じてもらえるかは疑問だ。そうして、私は仕事をしなかった護衛失格の冒険者となるわけだ。

 

 すると全く危険を寄せ付けないという最高の仕事をしているのに、評価されないという相反する事態が生まれる。

 

 つまり護衛として評価されるためには、ある程度敵を近寄らせて依頼者に危機感を抱かせた上で、その危機から無事に脱出させる必要があるということだ。それまでに面識のある相手の場合はまた違うだろうが、少なくとも初見の相手であればそうせざるを得ない。

 

 何というか本末転倒というか、矛盾を感じるが、人間社会で生きるということはこういうことなのだろうか。

 

 後気になったのは、こういう面接を事前にやるようなクエストでもジョブを聞かれなかったことだろうか。話に聞いていた通り、自分から名乗るならともかく、他人のジョブを聞き出すことはマナー違反とされているようだ。

 

 しっかりとした理由はよく分かっていない。ジョブを名乗れば端的に実力を表現できるから自分から言う者もいる。しかしそれをリスクと考えて隠す者もいる。

 

 複雑な条件で解放されるジョブの方が強いらしいという考えがあり、その条件を探している者は多いそうだ。そうした者に嗅ぎつけられたり、ジョブ名からヒントを与えることを避けるために明かさなかった人がいて、そこから無理に聞き出すのは良くないという雰囲気が広まったとする説もある。

 

 遠征から帰還した直後で既に夕方だったから、結局その日はそれで時間切れとなり、クエストは見つけられなかった。

 

 

 そして翌日。今日はいくつでも受かるまでトライしようと意気込んで冒険者ギルドへ向かった。しかし、次の日に出発するという依頼者からのクエストに応募したところ、今度はあっさりと通ってしまった。

 

 昨日の依頼者ほどではなかったものの、訝しげに見られていたので、出発まで時間がなかったため仕方なくという感じだろうか。ある程度こうであれば護衛として雇われやすいという法則はあるのだろうけど、最終的には依頼者の状況と好み次第のようだ。

 

 

◆◆◆

 

 

 一日準備期間があったので、しっかり食べ物を仕入れてきた。これから長期間自然の中でサバイバルを始めるというわけでもないのだし、いつも外に出かける仕事なので必要なものは揃っており、その他特別に準備しなければいけないものもない。

 

 いよいよ今日でサザンとはお別れだ。ここが私の初めて長期滞在した街となった。何もかもが初めてだったから、滞在したのは遠征期間を含めても三十日に満たない日数なのに、とてつもない情報量だった。

 

 また、この街はたぶん住みよい場所なのだろうと思った。人が多い場所では治安が悪いところもあると聞いていたものの、サザンではあまりそういうところはない。街中で仕事をするのに身の安全を第一に考えなければならないという状況は、多くの人にとって能率を下げる結果になるだろうからね。

 

 緊急依頼の時のように人と深くかかわらない限り、私が不快に思うことも多くなかった。良い意味で、忘れられない街になりそうだ。これからこの街を基準として、いろんな場所を見ていくことになるだろう。

 

 日が昇り出す早朝、サザンの北門前で依頼人を待ち、合流する。

 

 どうやら六組の商人が集まっているようで、六台の荷馬車が並んでいる。走竜が引く竜車で行くのかと思ったけれど、これまでよく見かけた馬車だった。

 

 走竜の巨体を見れば、馬よりも購入費や維持費がかさむだろうということは明らかだ。そこまでの資金力はないのだろう。いつか竜車の旅も経験してみたいな。

 

 護衛はEランクパーティーが一つ、Fランクパーティーが二つ、そしてソロの私だ。ある程度規模のある商会は専属で冒険者を雇っている場合もあるが、今回のメンバーは全てサザンで集められた臨時雇いのようだ。

 

 護衛部隊のリーダーはかって出てくれたEランクの冒険者に任せ、軽く打ち合わせをした。

 

「私はアリシア。Fランク冒険者。火と水の魔法が使える。後剣も少し使えるから後衛か遊撃で使ってほしい」

 

「おう、よろしくな」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 後書き

 

 このお話で第二章は終了です。ここまで読んでいただきありがとうございます。世界観を深堀しつつ、アリシアが冒険を始める章でした。

 

 第三章はもう少し書き溜めて、ある程度目途が立ってから投稿を始めようと思います。しばらくお時間をいただきます。投稿予定などは今後も近況ノートに書いていきますので、気になる方はそちらも確認してみてください。

 

 できる限り続けていきたいと思いますので、モチベーション維持のためによろしければ、コメント、★やフォロー等での応援よろしくお願いします。

 

 ではまた次回( ´∀` )ノ

 

 

 

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異端の少女は世界を旅する 音夢井こまる @nemui_komaru

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