第31話 Fランク昇格
休日が終わり心機一転、再びクエストをまとめてこなすために遠征に出た。
今回のメインは討伐クエストであり、とある村の農地に出没するようになった一角ウサギを討伐するというものだ。以前受けたことのあるHランククエスト、害獣駆除の延長線上にあるクエストだ。
一角ウサギは通常のウサギから一回り大きくなり、角が生えたような外見だ。魔物である分力は強く、小型の動物用の罠で捕まえようとすると、罠の方が壊れてしまう。また小さくて動きは同様に動物より素早いため、追いかけようと思うと、心得のあるものでなければなかなか追いつけない。
通常のウサギとの一番の違いは角によって生まれる攻撃力だ。通常のウサギに体当たりされたところで体勢を崩す位だが、一角ウサギの体当たりは怪我を負う危険性がある。
ゴブリンはしばらく見たくないなと目新しい魔物と出会えるようなクエストを探していて、これが目に入ったのだ。配達クエスト等とまとめて受けられるものだと、選択肢が限られることもあり、このクエストを受けることにした。
サザンを出てからステータス補正の上がった体を慣らすように少しずつ動きを速め、村までの道中を駆け続けた。自身のジョブをちょくちょく入れ替えていることから、身体能力が乱高下することには慣れている。今回はこれまでにない位の補正値だけど……うん、問題なく思い通りに体を動かせる。前よりさらに速く移動できるようになった。
そうして自身の能力を一つ一つ確認していると、あっという間にクエストは終わった。
移動に時間はかかるものの、討伐は楽なものだった。もうこの類のクエストで困ることはなさそうだ。魔法を使えるようになった五歳頃から日々繰り返した熟練の仕事だからな。小動物が魔物になったからといって、何も変わらない。私はこの道のプロと言っても差し支えないだろう。……決してそんな風には名乗らないけれど。
次はサザンから少し離れてしまうが、植物系の魔物討伐でも受けようかな。
なるべく多くの場所を目にするため、行きとは違うルートでぐるっと回ってサザンまで戻り、冒険者ギルドへ。ギルドでメルを見かけたので、まとめてクエストの完了を受理してもらい、報酬を受け取る。
「アリシアさん、こちら今回の報酬になります」
「ん」
「それと、Fランクへの昇格が認められています。ランクアップなさいますか?」
え……、これには少し虚を突かれた思いだ。Gランクに上がってからの期間が昇格するには短すぎる。それにGランクになってからまだ消化したクエストは三十四だ。数はそれなりに聞こえるが、これは合同パーティーで消化したものも入っていれば、自身のランクより低いHランクのクエストも含めた数だ。
緊急依頼の件で討伐したオークの納品で、E・Fランクの依頼を複数達成できたことが認められたのだろうか。だがあれは合同パーティーでの成果とみなされ、主に一パーティーだけランクが抜けていた【森の守り手】の功績として加点されているはず。
「早すぎない?」
「主に実力が評価されているようですね。特に緊急依頼の件で、他に参加された冒険者たちからも経緯は報告されていますので。アリシアさんの力で壊滅を免れたと、感謝されていましたよ?」
「そう、分かった。昇格をお願い」
「ええ、じゃあ少しお待ちください」
緊急依頼の件でその実力を評価されたようだが、昇格はそのタイミングではなく、今回の遠征後だった。これは単純にクエストの消化数が足りなかったのかもしれない。
あまり昇格に時間がかかるようなら、Fランクになる前に王都へ移動することも考えていた。その場合、配達クエスト位は受けられるだろうが、そのまま単独での移動となっただろう。Gランクのままだと護衛依頼はなかなか受けられないから。
緊急依頼の時にも感じたが、やはり人と一緒に仕事をすることで得られる知見は多いのだ。
単独での旅と比べてどうしても移動速度は下がり期間は伸びる。いろいろと面倒ごとだってあるだろう。しかし移動しながら新しい種類のクエストが消化できて、知見も得られるのなら十分に見合うだろう。
「アリシアさん、手続きが終わりました。これで今からFランクとなります。こちら新しい身分証です。ちなみに、アリシアさんが最年少でのFランク昇格だそうですよ?」
戻ってきたメルからこれまでと違う色の、銀の身分証を受け取る。私が最年少の昇格か。
「そうなの?」
「ええ。まあ考えてみれば簡単な話ですが、アリシアさんより下の年齢で冒険者として働かなければいけない子たちというのは、食べるのに困るような子たちですので」
「なるほど」
私のような例もあるのだし困窮する子供でも、必ずしも弱いということにはならないのではと思ったが、すぐに気がついた。私より幼いということは、普通の環境だとジョブ設定を受けられないんだ。
ステータス補正を受けられず、かつ体が幼く貧弱な状態でGランクの魔物を倒すと考えると、確かにハードルは高い。それでも私のように魔法の適性が高ければ可能ではとも思うが。
Gランクへの昇格時はこの話を聞かなかったので、そこでは最年少ではなかったのだろう。
おそらくHからGランクへの昇格は、クエストの消化を積み重ねるだけで認められるのだ。ランク外クエストなら街中で受けられるからほとんど危険はない。だから私より年齢が低くとも昇格できる子がいた。
そしてGからFへの昇格は多少なりとも腕を見られる傾向にあって、その子たちはなかなか昇格できなかったということではないだろうか。
「アリシアさんは、やはりこれからサザンを離れられますか?」
「ん? うん。準備をして、いいクエストがあれば次でたぶん」
微妙な表情をしたメルが突然こんな質問をしてきた。さすが多くの冒険者を見てきただけのことはある。見抜かれていたんだな。
Fランクになると、ネイヴァル王国内は通行税が免除される。それにサザンだと高難易度のクエストは受けにくく、遠征が必要になることも多い。それなら滞在する場所を移動した方が話は早く、ここに留まる理由はなくなるのだ。
だから上を目指すような者はこのタイミングで旅立つ人が多いのだろう。
「腕の立つ冒険者はサザンから旅立っていく方が多いですからね。アリシアさんのように積極的にクエストを受けられる方なんかは、分かりやすいですよ。なのでいつかその日が来るとは思っていましたが、思っていた以上に早かったです。寂しくなりますが、アリシアさんの冒険が満足できるようなものになるよう祈っています」
「ありがとう、メル。ばいばい」
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