第30話 休日

 

 

 緊急依頼を終えた次の日。前回はクエストで中止となってしまったため、改めてお休みを取ることとした。いつもより遅く宿を出て、街をうろつく。

 

 先日は冒険者ギルドに行って休日が取りやめとなってしまったため、今日はギルドには入らないことにする。

 

 街へ出ると今日も多くの人が行き交っており、賑わっている様子が見てとれる。通りを歩いていると、荷車を引いた走竜が横を通過した。先日のオークよりも大きくて、結構な迫力だ。人と接触事故を起こしたら大怪我を負わせてしまうだろうし、人通りの多い日中の街中では移動にも気を使いそうな乗り物である。

 

 走竜は体長四~五メトルほどの雑食の動物だ。名前に竜とついているものの、その実態はトカゲと動物の合いの子のような感じの四足歩行の動物で、魔物の一種である竜ではない。だがそう名付けたくなるように鱗や爪を持っており、ある程度の魔物には自力で対処することも可能だ。

 

 速さとしては同じように荷を引いた状態の馬と比較して少し勝っている程度だが、力が強くスタミナもあることから、重い荷物を長時間連続で運ぶことができる。そのため、また単純にそのサイズや重量から、王都や主要な領の領都間を結ぶような、整備された大きな街道で使用されているようだ。

 

 つまり、物の流れとしては王都から領都までが竜車、領都から地方都市までが馬車、地方都市から街道を外れた村までが徒歩という感じだろう。もちろん全部が全部そうなのではなく、その場所や個々人の事情にもよるのだろうが。私もクエスト以外では、基本的には常に自力で移動するつもりでいるしね。

 

 そのまま歩みを進め、いつもは行かない服屋に入ってみる。

 

 まだ私がダルア村を出てから三十日もたっていない。元から質が悪く、さらに走り回るせいか上に羽織っているクロークやズボンの裾が若干摩耗しているものの、まだまだ買い替えるには早すぎる。多くの時間魔力鎧で保護していることも、劣化の軽減に役立っていただろう。

 

 ただ、どんなものが売られているのかは確認しておきたかった。

 

 既に私の中で王都行きは決定していて、後はいつ頃向かうのかという段階にある。旅人がそれほど流行を気にするものでもないと思うが、悪目立ちしない程度には知っておきたい。

 

 店内を歩き回り、商品を見せてもらう。

 

 ふむ。やっぱり領都の服屋だと、服以前にそもそも布の品質が村とは段違いだ。服も下着も私の物は全体的にゴワゴワしているが、売り物の方は随分着心地がよさそうだ。

 

 現在私の着ている服は自分で縫ったものだが、さすがに自身で糸を紡いだり布を織ったわけではない。物々交換で布地を手に入れて、それを加工したものだ。布地の品質については私にはどうしようもなかった。

 

 冒険者ランクがGランクに上がって街の外に出るようになってから、お金が少しずつたまるようになってきている。次買うときは少しいい物を買ってみようかな。

 

 今日はひとまず、旅に出る前から使用していた分の手拭や下着の替えだけを買うことにした。

 

 

◆◆◆

 

 

 昼になり以前行けなかった喫茶店に入る。喫茶店の店内は石の色が目立つ冒険者ギルドと違い、木の色が目立ち、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 

 以前商人たちが話しているのを聞いて私はこの場所を知ったのだが、このお店はそれなりに値段が張る。それが理由なのか、お客さんが行列になっているなんてことはなく、ぽつぽつと店内にいる程度だ。

 

 テーブルに置いてあるメニューを見ると、お菓子やお茶の類がいくつも並んでいるようだ。ただ名前からはどんなものを指しているのか分からない。私は適当に選んで、クッキーと紅茶というものを注文した。

 

 喫茶店は元々隣国の文化だ。この国では食事と言えばパンに肉、スープとサラダのように割と決まったものばかりを食べているのだが、隣国は食文化がかなり豊かなのかもしれないな。

 

 

 注文を待つ間、少し考え事をする。

 

 それは先日の緊急依頼で魔物の群れとの戦闘が終わってしばらくしたときのこと。体に魔力が満ちるような、制御力が向上したような高揚感があった。初めそれを戦闘後の精神的なものだと考えたのだが、すぐに実際に扱える魔力が増えていることに気がついた。

 

 私は自身の体を寸分違うことなくイメージ通りにコントロールできるよう訓練しているため、体を動かそうとしている時にそのような差異は絶対に見逃さない。つまりこれは戦闘中に起こったことではない。戦闘が終わって、どこかのタイミングだったのだと思う。

 

 今の私のステータスを見れば一目瞭然だろう。

 

 ――――――――――人物情報――――――――――

 名前   アリシア

 種族   ヒューマン

 年齢   9

 ジョブ  風魔法使いLv.4 斥候Lv.18 剣士Lv.15

 

 ステータス補正

  筋力  D-

  持久  D

  敏捷  C+

  器用  B

  魔力  E-

  氣力  D-

 

 天賦スキル

  学習Lv.3

 スキル

  魔力感知 魔力操作 無属性魔法 風属性魔法

  気配察知 隠密 罠察知 氣力感知

  氣力操作 危険察知 剣術

 ――――――――――――――――――――――――

 

 ――――――――――――――――――――――――

 学習 Lv.3

  Lv.1:観察眼、ジョブ設定

  Lv.2:成長速度上昇、第二ジョブ設定

  Lv.3:魔力上昇、第三ジョブ設定

 ――――――――――――――――――――――――

 

 前回から約二年ぶりに天賦スキル【学習】のレベルが上がり、レベル三となった。

 

 ステータス上でいう魔力とは、保有できる魔力量や魔力の制御能力等魔法を使用する際に必要となる力を総合したものとなっている。これは氣力も同様だ。よって、【学習】のレベル三で解放された魔力上昇が私の察知した変化の原因だ。

 

 また三つ目のジョブが設定可能になったことで、ステータス補正がジョブ三つ分加算されるようになり、さらに増大した。身体強化を自在に扱える私は、別に現状でも今のレベルの仕事では身体能力に困っていなかったが、それがさらに強化されたのだ。

 

 これも次の行き先を王都に決めた要因となる。私が順調に成長している以上、早めに進路の情報を得ておきたい。

 

 思えば私は隣国だけでなく、このネイヴァル王国についてもどんな場所があるのかまるで知らない。もちろん今目標としている隣国への移動は変えるつもりはないが、その前にこの国で見ておくべきもの等はないだろうか。精神的な面からもあまり長居することは考えていないが、隣国への道中に立ち寄れるくらいの場所なら考えなくもない。

 

 サザンはこの国の南端に位置するらしく、そういった情報があまり入ってこないんだよね。一方王都はサザンから見て北東にあるようで、この国の中央に位置するらしいし、ここより物理的に隣国へ近い。王都というのだから物や情報も集まってくる場所だろう。

 

 もし移動までにFランクに上がれなかった場合、他領で通行税を取られてしまうのは痛いけどね……。

 

 

 そしてジョブについて。【剣士】は【見習い戦士】から続く戦士系統の推定ジョブランク二にあたる。

 

 その【剣士】と【斥候】はもうすぐレベル上限に到達するだろう。魔法使い系統はジョブランク三の解放に難航しているので、こちらに期待している。

 

 私としては農民系だけジョブランク三に達しているという現状は、過去を思い出して嫌な気分になるので早く解消したいのだ。

 

 魔法使い系統では初めに【火魔法使い】でレベル上限を達成したが、ジョブランク三となる上位ジョブは解放されなかった。魔法使い系統は属性ごとにジョブが分かれているため複数のジョブをマスターする必要があるのかと考えたが、【水魔法使い】をマスターした今でも解放されていない。

 

 属性が足りないのか、何らかの条件を満たしていないのか。

 

 ちなみに【火魔法使い】【水魔法使い】がジョブレベル二十で上限となったため、【見習い魔法使い】の上位である属性特化のこれらジョブの並びがジョブランク二であることが確定している。

 

 

 先日クエストを共にした魔法使いのエルミーユには魔法の基本属性は七つあり、光・闇・無・火・水・土・風だと教わった。

 

 この内無属性魔法はジョブランク一の【見習い魔法使い】で取得したため、おそらく残り六属性がジョブランク二で現れる魔法使い系統のジョブと対応しているのだと思う。まだ使用することができない闇属性も含めて、全属性の魔法使い系ジョブをマスターするつもりでじっくり取り組む予定だ。

 

 

 そんなことを考えていると、私の注文した紅茶とクッキーがテーブルへ運ばれてくる。少し離れていたのにいい香りが漂ってきていた。今は何も考えずにこれを楽しもう。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 後書き

 

 新年、明けましておめでとうございます。

 

 昨年は十二月からの投稿でしたが、一ヶ月で多くの反応をいただき大変励みになりました。今年もどうぞよろしくお願いします。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る