静かな海

パソたん

しづかな海

水平線が広がる海。テトラポットの上に乗る僕は遠くを見つめている。海よりもはるかに小さい白鳥が海を見下している。魚は海の底から僕を見ている気がする。昨晩見たサメに喰われた夢とか太陽とかも、全部深海に沈んでいるのかも。本当は僕はあの水平線に手が届くのに。海に月が反射している。海の底では怪物が泳ぐ。僕の心の底には凶暴なサメがいつも泳いでいる。僕はいつも月に手が届かない。潮風が大きな音を立てているその様は、まるで怪物の声。海底に潜む怪物が唸り声を上げている。月は僕を笑った。怪物の唸り声に怯えて逃げた僕を笑った。


人は見返りを求めるからいつも上手くいかない。だからいつも渇望している。人は皆喉が乾いている。僕はこの大きな海に何一つ見返りを求めていない。海の幸なんて食べなくたっていい。太陽で煌びやかになった海も、オレンジ色に焼けた空の下に波風を立てている郷愁的な海も、月に照らされる怪しげな海も僕は全部好きだから。でも僕は時折考える。その海から何か見返りを無意識下で求めていたらどうしようと考えてしまう。ずっと見てるから僕の事を見守って欲しいだとか。そんな自分勝手にも程があるような欲求があったなら僕は僕に失望してしまう。海を見て心を落ち着かせる。海は時に荒れ、静かだ。人と一緒だ。僕と一緒だ。僕はいつからか海と自分を重ねていた。月は今日も光り輝いている。怪物はいない。静かな海だ。


その場しのぎの人間にならないように、生活の為だけに生を消費しないように僕は気を張る。漠然とだが何か間違っている気がしてならない。他人の肌に触れて、これ以上知る気になれないようなあの感覚。もう知らなくていいな、全部知ってしまったかも、相手がモノクロになっていくあの感覚。独りなってよかったかな。夢で死んで、生まれ変わった気がする朝。二度寝をして僕はヨダレを垂らす。無理をしているのに気づく。僕に触れないで、壊れしまうから触れないで。頭がおかしくなりそうな時、耳を通る鶯の鳴き声。広がる自然。月。そうだ海を見に行こう。海はこの自然をまとめている。僕は居場所を探すといつも海に行き着く。足場の悪い砂浜で、僕は言葉を吐き出している。月が僕を笑わなくなった。波は静かに押し寄せている。僕はいつか海になりたい。しづかな海になりたい。青い光が広がっている。なんだか手が届きそう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

静かな海 パソたん @kamigod_paso

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ