ねがいごとが集まる場所で、願うことは

海坂依里

「今日も野良猫は散歩する」

「○○大学に合格できますように」


 ふむふむ。

 頑張れ、君の努力は必ず実る!


「○○くんと幸せになれますように」


 うんうん。

 末長くお幸せに。


「家族が病気にならず、健康な日々を送ることができますように」


 健康は大事!

 微力ながら、一緒に神様へ願います。


(今日も人間の願いごと観察は楽しい)


 ペタペタ。

 神社を徘徊……こほん。

 神社を巡回することが日課となりつつある今日この頃。

 飼い猫という人生を歩むことはできなかったけれど、神社に奉納されている絵馬を通して飼い猫の気分を味わう。


「立ち上げた事業が成功しますように」


 どんな事業を立ち上げたんだい?

 うまくいくことを願っているよ!


「○○くんと両思い、両思い、両思い!」


 おお……。

 これは、今は片思いということなのか……?

 うぅ……話を聞いてみたい。


(両思い……)


 のら猫には、両思いという感覚がよく分からない。

 友達も知り合いもいない日々。

 むしろ、絵馬を奉納しに神社を訪れる人間の方に親しみを感じる毎日。


(人間と両思いになれなかった猫……)


 両思いになることができたら、飼い猫というものになれたのかな。


(なんだか足の裏が冷えたきたような気がする)


 もうすぐで雪が降るのかもしれない。

 そろそろ今日の寝床を探しに行こう。


「○○さんの毎日が、笑顔で溢れた日々になりますように」


 神社を去る際に、目に入った絵馬。


「……にゃ」


 ああ、こんな人間と出会ってみたかった。

 こんな風に、相手の幸せを願うことのできる優しいご主人と出会ってみたかった。


「にゃーーー」


 神様。

 絵馬に願いを書けない猫は、お賽銭を投げられない猫は、神様に願いごとを叶えてもらえませんか?


「にゃーーーーー」


 大きな声で、鳴く。


「にゃーーーーー!!!!!」


 大きな声で、泣き叫ぶ。


「にゃ……」


 足が冷たく感じるなんて、多分気のせい。


「今日は、冷えますね」


 のちに。


「にゃ?」


 神社は、願いを叶えてもらう場所じゃないんだよって教えてもらう。

 日頃の努力を報告したり、神様に見守ってもらいたいことがあるとき訪れる場所だと知ることになる。


「また会いましたね、猫さん」


 そして。

 字を書けない猫が絵馬にねがいごとを書けるようになる日が、もうすぐ訪れる。

 それはまた、別の日のお話。

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