監視カメラ

榊巴

運転手

私は交通事故が起きた時にビルに設置された防犯カメラの映像を確認する警備員の仕事をしていた。

 ある日のこと、ビル付近で、トレーラーと乗用車の衝突事故が起きた。

被害者は車に乗っていた親子三人がなくなったことがきっかけでその近くの防犯カメラで事故の詳細を調べるように依頼された。

映像を確認して私はゾッとした。

 乗用車を運転していた母親がトレーラーと衝突する瞬間笑っていたのだ。



私はとあるビルの派遣の警備員として、

些細な日常を監視カメラ越しで缶コーヒー飲みがてら見ている。

 人の日常を覗き込むというある種の背徳感というものは数年経てば消えるというもの。

 程好ほどよい退屈に程好ほどよい給料が私の生きる糧としては十分な潤いを施していた。


 そんなある日のこと、ビルの中でも聞こえる程の爆発音に何かがひしゃげたような...何か・・を連想させてしまう鳥肌が立つ音が辺りに轟いた。

 私の日常ではあり得ないことが起こってしまったため、慌てて監視カメラではなく部屋から出て、がなった場所へと状況確認をしようとした。


現場では集まった人だかりでここでは見えない。

 近くまで人を避けながら事故現場目的地へとたどり着くとそこには乗用車とトレーラーが横たわっていた。


.....恐らく正面衝突をしたんだろう。


乗用車は元の形が想像出来ないほど、圧力機に押し込まれた車のようになっており、

トレーラーの方は周りの建造物に傷痕を残したりをしているが原型は残っている。

隣で経っていた社会人二人がさも他人事かのようにカメラを撮りつつ、

「ありゃ死んでるな」とそう呟いた。


なんと不謹慎なことか...

だがそう言わざるとしか言えない状況は車から滴る赤い水溜まりを見れば明らかだった。


すぐに警察が駆けつけた。

警察は「はいはいここは撮影現場じゃないので、お下がりください」と手慣れた仕草で人だかりを押し退けていった。


私も人だかりに押されていく。

見えた最後の景色は

傷だらけのトレーラーの運転手が警察に事情聴取を受けている姿だけだった。


ビルに戻ったとしてもまだガヤガヤと喧騒は絶えなかった。

ガチャリとドアノブを捻り、警備室へと戻る。

静かな警備室では喧騒は止み、なにかどっと疲れたように椅子に倒れる。

 自分としてもそういうことを間近で経験をしたことがなかったのだろう、名すらない薄氷のような疑問が胸のしこりとして残った。


そういえばと思い出すように、監視カメラの映像を見ることになった。

 ちょうど事故現場は監視カメラが見える位置での出来事だったため、記録が残っていると考えた。

記録を確認すると確かに衝突前の状況が確認出来た。

【何か得体のしれないもの】を見た気分のまま、ごくりと唾を飲み映像を閲覧することとなった。


トレーラーがカメラの左側からのそりとやって来て、そのすぐに右側から乗用車がトレーラー目掛けて突っ込む映像が見えた。

一瞬の出来事だったが、ふと疑問に思ったのは対向車線に乗用車が走っていないというものだった。


普通運転する際、

二車線、三車線などは二車線の場合、対向車線と左右どちらかが向かう合う運転へとなるが、三車線の場合は対向車線を含み3と3で隔てられた車線となっている。

だがこの車、乗用車は普段三車線の向かう方向とは全く違う運転をして、そのまま正面衝突をしたということになる。


私は気付いてはいけない疑問にたどり着いてしまったのではないか?...

そう口を塞ぐような気持ちになりつつ、映像を巻き戻し再度再生することにした。


次はスローでの再生、

するとなんとはっきりとは見えないが女性と子供が二人見えるではないか 

背筋が冷える感覚をはっきりと感じた。

 自分でもどうかとは思うが、頭の中で危険信号を発していたのだがどうも正義感ではない好奇心が勝ってしまっていた。


一旦再生をやめ、ズームして確認し、車内を確認しようとした。

するりと自分の好奇心は恐怖へと裏返った。

車内の状況は泣きじゃくる子供達と不気味に目を開いて笑う母親らしき女性の姿だった。


鳥肌が立った。

【見てはいけないモノ】を見た気分となった。

自分の背徳感は一生の後悔となり、体が冷え周りの静寂が怖さを際立たせた。


誤って、再生を始めた。

カチリカチリと映像がゆっくり流れる。

爆竹のように割れるガラスにそこに突っ込む母親、バンパーはひゃしげた姿をしていた。

ピクリピクリと母親は動いていた。

まだ生きていた。

だがその母親・・が向いていた方向は監視カメラがある方向であり、笑っていたのだ。

私に向けて笑っていたのだ。


わたしはそのえがおに、  をかんじた。


警備室の静寂が別のもの・・・・に感じる。


こんこんとノックの音が聞こえた。

私は驚き、後ろにあるドアに振り返る。

「すみません、警察のものなんですけど」

そう男の声がドアの奥から聞こえた。


私は安堵からか映像の恐怖から逃げてドアを開けた。

「付近で交通事故が起こりましたので証拠として確認させてもらってもいいでしょうか?」

とそう丁寧な口調で言われた。


「はい、その事故の映像はあります」とそう不気味なものを忌避するかのように私は言った。

ほどなく警察に確認してもらい、証拠として現場の映像を渡し、去っていった。


私はせいせいした。

もうあの不気味なものを見なくて済むと

そう胸を撫で下ろした。

 警察は何か不気味なものを見たような印象を受けておらず、そのまま受け取り去っていったことに関して違和感・・・を覚えたが、さっきのはなんだったのか そう胸に疑問が残ることはそう難しくなかった。


時は過ぎ、

事故の傷痕がなくなりつつある中で、あの事故・・の噂は絶えずにいた。


やれ前方不注意での事故や

やれ意図的な事件であるなど様々なが飛び交っている。


真実は分からない、


これからも分かることはないだろう


ただ言えることはあれは狂気・・から出来た事故であるのは確かなんだろうとそう私は思った。

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監視カメラ 榊巴 @SAKAKITOMOE

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