魔界のidolaをファンサが越えて

@puppet4480

魔界は大アイドル時代!!

 魔王の死後、魔界は分裂した。

 全ての魔物にとって唯一の共通したアイデンティティであった「魔王国の民」という肩書が、これほどまでに重要だとは誰も思っていなかった。

 魔物たちは互いに殺し合い、領地を奪い合い、心の溝を深めていった。

 誰もが共通して崇拝できる神を、信頼し合える繋がりを求めていた。

 しかし、どんなに力を誇示するリーダーが現れても、先の魔王のそれには遠く及ばなかった。

 力で魔界を統一した魔王ですら、勇者という更なる力に敗れたのだ。

 魔王が死んで以来、魔物たちは自分達の拠り所がなくなる不安を抱き続けていた。


「推し」という神が現れるまでは。


 疲弊した魔物たちの心を癒し、再び彼らを統一したのは人間の国から伝わって来た異文化 ”アイドル” だった。


 アイドルは種族を越えて魔界の文化に取り込まれていった。

 あるハーピーはアイドルになり、華麗に宙を舞って視線を釘付けにした。

 あるワーキャットはアイドルになり、その愛らしさで見るものを魅了した。

 あるセイレーンはアイドルになり、その歌声は魔界に木霊した。


 ファンも種族を越えた。

 サイクロプスの咆哮が場をブチあげ、

 ネクロマンサーの呼び起こした死者の軍勢が、一糸乱れぬコールを披露し、

 デュラハン隊は両手のサイリウムソードを一心不乱に振った。


 もはや、音楽で心を1つにするのは人間だけではない。

 分裂した魔界を華麗なパフォーマンスで治めていった新時代の「魔王」は、いつしかdivaと呼ばれ、魔界投票戦でその座を継承していくことになった。

 魔界は今、大アイドル時代を迎えていた!

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