最終話 情熱の継承
「……俺は1000年以上、ずっと怒りに囚われ続けていたが……」
俺の身体で、古代の魔法王国の魔術師サレオは
「俺が欲しかったのはお前のような者からの言葉だったんだと今、気づいた……」
安らぎに満ちた声で、そんなことを口にして……
その言葉と共に。
俺の身体から、何かが抜けていく。
同時に、俺の身体の主導権が、俺に戻って来た。
そして
ありがとう……そして悪かった……
申し訳なかった……
その言葉が、何だか直接頭の中に響いた気がした。
「……成仏した?」
「多分。……ありがとうアキラ」
突然お前に襲い掛かって来た俺を信じて、会話をしようとしてくれて。
恐怖で逃げ惑って、会話にならないのが自然じゃ無いのか?
俺はそう思うんだけど。
そう、彼女に伝えようとしたら
「シンがいきなり私を殺そうとはするはずがないし。何かあると思うのが自然でしょ」
そして仲間なんだから、助けるのが当たり前。
相手が窮地に陥ったときに、見捨てて逃げて、助けないのは仲間じゃないよ。
そう、なんでも無いふうに言って来た。
……嬉しかった。
「まあ、宝物庫を確認しよう。魔術師サレオの私物って、何が入ってるのかな?」
だけど彼女はそんな俺を放置して。
扉のチェックに戻ろうとして
そこでふと、振り返り
「……言い忘れてたけど、ありがとう。ギリギリで耐えてくれて」
そんなことを言って来た。
俺は
「耐えれてないじゃん」
最終的にお前を襲ったんだし。
そう、言おうとしたら
「耐えたじゃん。ちょっとだけ。そして、値千金のヒントをくれた」
そこはお礼を言わなきゃ。
……とのこと。
……そっか。
宝物庫の扉を開くと。
中は狭いながらも書庫の様になってて。
壁に本棚が並んでた。
ただ、中身はガラガラだったけど。
その本棚には数冊、本が入ってる。
その他は予想通りで。
金銀財宝は……無い。
彼女はその本棚に収められた数冊の本を手に取り、中を確認する。
「何の本?」
「……多分、蟲の本かなぁ」
うん、それはこれまでの流れで予想通りかも。
サレオの妻が焼き払ったって話だけど、それとは別の本なのか。
それとも……
サレオが頭に残っていた、30年以上の研究データを書き記した結果なのか……
彼女はその本を全部、背負い袋に仕舞い込む。
「それ、どうするの?」
まさか自分で研究を引き継ぐつもり?
そう思い、訊ねた。
彼女は笑いながら
「大学院に寄付しに行くよ。……同じことで疑問を持って研究している人が、そこにいるかもしれないし」
こういうのは、情熱が無いと駄目だからね。
情熱を継承できる人に渡すのが最適解だよ。
そう言う彼女の笑顔は、本当に輝いていたように思えた。
<了>
古代の魔術師の個人的な遺跡を荒らしてみた XX @yamakawauminosuke
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