雛たちのお祭り ~だって貴方はみんなのスターなんだもの!
エモリモエ
◼◼◼
ここは神さまが住まう処。
幼い鳥たちのために天使が雲で作ったふわふわな巣の中で、今年これから生まれる雛たちがピイチクピイチクおしゃべりをしています。
雛たちはここで天使の指導を受けて様々なことを学びながら、生まれる時を待っているのです。
その日は目前。
雛たちも興奮を隠せません。
「いよいよぼくたち、生まれるんだね」
「そうさ。もうすぐ命ってやつをもらって、卵の中に入るんだ。それから殻を破って生まれるんだよ」
「本当に素敵なことだね」
「ぼくたちに命をくれる神さまに感謝しなくっちゃ」
「そうだ、神さまに感謝しよう」
「そうしよう」
「そうしよう」
なんて良いことを思いついたのでしょう。
けれど感謝ってどうやればいいのでしょうか。
「そういえば」とフクロウが言いました。「こういうとき、人間たちはお祭りっていうのをするらしいよ」
「へえ、フクロウくんは物知りだなあ」
「けど、お祭りって何をやるの?」
「それはぼくも知らないや」
「なあんだ」
みんなはピチピチピチと笑いました。
「だったら」とカラスが言いました。「人間の真似をすることないよ。ぼくたちはぼくたちのお祭りを考えよう」
「それがいい」
「それがいい」
拍手喝采。みんなカラスの意見に大賛成です。
「じゃあ、なにをやったらいいか思いついたら発表しよう」
そういうことになりました。
はじめに発表したのはスズメでした。
「なにかプレゼントをあげるのはどうかな」
なるほど、それは良い案です。感謝の気持ちも伝わるでしょう。
「プレゼントかあ」
「何をさしあげたら神さまに喜んでもらるんだろ」
「なんだろうね。きれいな物がいいのかな」
「ぼくの羽をあげるっていうのは?」とクジャク。「ほら、すごくきれいだろ」
「だったら、ぼくが機を織るよ」とツル。「ぼくの羽で織るのさ」
ところが、クジャクとツルがどっちの羽がきれいかで揉め始めてしまったので、キジがあわてて止めました。
実のところキジだって、自分の羽はまんざらでもないと思っていますし。きれいな羽を持った鳥は他にもいます。
カワセミも美しいですし、コンゴウインコやケツァルコアトルのような極彩色の鳥もいます。
プレゼントを羽に決めたら、喧嘩はもっと大規模になってしまいそう。
そんなことは神さまだって望んでいないはずです。
「もっと別の何かはないかなあ」
「どっかで油揚げ盗んできて神さまにあげるってのはどうだろう」
「うーん、トンビくん。盗みはさすがに良くないんじゃないかな」
「じゃあウサギでも殺して持ってこようか」
「いや、タカくん。殺害もやめておこうよ」
さすがは兄弟疑惑もあるトンビとタカ(タカのお父さんはトンビだという風評アリ。ただし真偽は不明)。両者、言うことがバイオレンスです。
「ダンスなら、ぼく、得意だよ」アオシギが言いました。「神さまにダンスを見てもらうっていうのはどうかな?」
「あっ、ダンスだったらぼくたちもできるよ」コチドリやツグミも言いました。
「ふふん。でも一番はぼくさ」
「いや、ぼくだね」
おっと、こちらは会議をそっちのけでダンスバトルが始まってしまいました。
「いっそ、空を飛びながらマスゲームっていうのは?」
というカリの意見には。
「え。なに?」即座にペンギンから抗議の声があがりました。「飛べないぼくらにケンカ売ってるわけ?」
ペンギンの後ろにはキウイやらエミューやらダチョウやら……。凶暴な顔でカリのことをにらみつけています。
「いや、その、そういうつもりでは」早く謝ってしまえばいいものを、チーム・飛べないの迫力に押され。気の弱いカリ、しどろもどろです。
「どうなのさ。飛べないトリはただのトリって言いたいわけ?」しつこく因縁をつけるペンギン。
それをそばで聞いていたフラミンゴが、「はあ? 意味わかんないんだけど。飛べるトリはトリじゃないってこと?」売られてもない喧嘩をアグレッシブに買っています。
どうしましょう。他にもあちこちで口論が勃発しているもよう。雛たち、喧嘩っぱや過ぎます。
なかには悪口にさえなっていない発言も飛び交って。
「てっぺん禿げたらホーイのホイ」
「鳴かぬなら鐘が鳴るなりホウホケキョウ」
「どやさ」
「どやさ」
もう収集がつきません。
そのとき。
空からビカーッと一条のひかり。
愛らしい翼をはためかせ。
ようこそおいでやす、神々しきお方。
「トリの降臨!?」
「いや、天使だ!」
「神さまもいらっしゃるぞ!」
「ぅおおおおおー!!」
「神さま!」
「神さま!」
「神さま!」
「神さま!」
憧れの方の登場に喜びはあふれ。
感動の嵐。
興奮の坩堝。
歓声をあげて。
雛たちは互いに肩を組み合い、体を揺らせてウェーブを作る。
「ジーぃ、サス! ジーぃ、サス! ジーぃ、サス! ジーぃ、サス!」
一丸となっての
大歓迎の雛たちに向かって、スーパースターの貫禄で気安く片手をお上げになり、
「あい、あい。アタシが神さまだよー」
神さまが声を響かせれば。
「ぅわあああああぁ!!」
「ジーぃ、サス! ジーぃ、サス! ジーぃ、サス! ジーぃ、サス!」
熱狂はまさに頂点。
喜びのあまり失神する雛、続出。(救護班の天使さーん、こっちにも担架お願いしまーす)
興奮した雛たちは、それぞれに敬愛と感謝を叫びたてて。
「ぴよぴよ!」
「カアカア!」
「チュンチュン!」
「ケェーン!」
「チチチチチッ!」
もはや、なにがなにやら分かりません。
あまりの混沌に神さまは、
「チミたち、静かに!」
一喝なさいました。
「チミたちね、さっきからうるさいから。も、さっさと生まれちゃいなさい」
「えええーっ、ぼくたちお祭りしたかったのにぃぃー」
雛たちのお祭りはまさかの
指導役の天使によって、雛たちにはすみやかに命が授けられることになりました。
するすると全ての魂が命を抱えて卵に納まれば、ようやく天国に静寂が戻ります。
雛たちを無事に送り終えると、神さまと天使は顔を見合わせ、にっこりとなさいました。
「神さま、ご足労おかけしました」
「あい、お疲れ様。今年の雛たちも元気そうだねえ」
「ええ。今年もにぎやかでございました」
どうりで天使も慣れたもの。
雛たちの騒ぎ、年中行事なのでした。
さて。
天国が静かになった代わりに、にぎやかになるのが地上です。
雛たちは卵の殻を蹴破って、この世界に生まれ出ると、やりそびれたお祭りを取り戻そうとばかり、それぞれの方法で空に向かって歌うのです。
生まれて嬉しい。
神さま、ありがとう。
神さま、大好き。
……私たちには雛たちが何を歌っているのかは分からないですけど。
春がにぎやかなのは、きっと雛たちが天国でやりそびれたお祭りの続きをしているからなのかもしれませんね。
雛たちのお祭り ~だって貴方はみんなのスターなんだもの! エモリモエ @emorimoe
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