自称天才魔法使い、勇者パーティーを追放されるがマイペースに生きる
永久保セツナ
自称天才魔法使い、勇者パーティーを追放されるがマイペースに生きる(1話読切)
「ヴィクター。本当に申し訳ないんだが、パーティーから外れてほしい」
勇者レオン・ブレイブハートは断腸の思いで、魔法使いヴィクター・ロックウェルをパーティーから追放を決定した。
「なぜだ!? ワガハイは天才魔法使いとして、このパーティーのために力を尽くしてきたのだぞ!?」
ヴィクターは納得がいかないと酒場のテーブルを両手で叩く。
弱冠17歳の彼に酒場の雰囲気は似つかわしくなく、165cmという男性にしては低身長のため、テーブルを叩いても子どもがワガママを言っているようにしか見えない。
「何が天才魔法使いだ。お前はいつも杖を振り回して魔物の群れに突っ込んでいって! 後衛職なんだから大人しく後ろに控えていてくれよ頼むから!」
勇者パーティーの仲間たちは、ヴィクターのやらかしを懇切丁寧にひとつずつ挙げていく。
「ゴブリン討伐のときに、ゴブリンの群れに向かってファイアボールを唱えたのに、大きく狙いが外れて村の干し草小屋に直撃しただろう。お前のせいでパーティー全員、村人に激怒されて頭を下げる羽目になった」
「洞窟を探索したときなんか、『ここはワガハイの腕前を見せるチャンスなのだ!』つって前にしゃしゃり出て罠を発動させただろう。あのときはパーティー全員死にかけたんだからな、忘れたとは言わせねえぞ!」
ヴィクターはうんうんとうなずいた。
「そんなこともあったな。懐かしい思い出だ」
「これ全部、ここ1ヶ月で起こった出来事なんだが!? 勝手に思い出にしてるんじゃねえ!」
――そういう経緯があり、限界を迎えた勇者パーティーは彼の追放を決定したのである。
「ごめんな、ヴィクター。俺は最後まで反対したんだけど、多数決で圧倒的に追放の意見が多かったし、俺達も命は惜しい。パーティーとしても危険も顧みず突っ込んでいくお前の面倒をこれ以上見きれない」
勇者レオンは眉尻を下げて、申し訳無さそうにしていた。
「多分、お前は誰かとパーティー組むのに向いてないんだと思う。しばらくひとりで頑張ってみて、誰かお前の素質を引き出せるやつに出会えればいいんだけど」
「レオンはヴィクターに甘すぎるんだよ。こんなやつと1ヶ月一緒にいて五体満足でいられたのが奇跡のようなものだ」
「そういうわけだ、ヴィクター。お前はクビ。二度と俺達の前にツラ見せんな」
要するに、彼は本当に問題児のため、パーティーを追放されたのである。
こうして見捨てられたヴィクターであったが、まったくへこたれていないし、大して気にしていない。
「ならば、ワガハイが新たなパーティーを立ち上げて、そのリーダーになってやろうではないか!」
彼は街のギルドにやってきて、パーティーメンバーを募集することにした。
しかし、彼が問題児であることはギルドでも評判になっており、すぐには人は集まりそうにない。
「ふむ、仕方あるまいな。それでは、しばらくはおひとり様冒険者としてひとりの時間を満喫しよう」
そして、ソロプレイでギルドの依頼を受け始めたヴィクター。
しかし、後衛職である魔法使いの彼がひとりで冒険するのは無理がある。
彼がダンジョンでモンスターを倒そうにも呪文の詠唱に時間がかかり、満足に魔法も発動できない。
「ふぅむ、せめて盾役を買ってくれる仲間がいてくれればよいのだが……」
結局地味な薬草採集や街での魔法を使った大道芸で日銭を稼ぐしかなかった。
しかも、彼の大道芸を見た他の魔法使いは、通り過ぎざまにクスクスと笑う。
「見ろよ、あれが自称天才魔法使い様の末路だぜ」
「魔法を見世物に使うなんて、魔法使いの風上にも置けないな」
ヴィクターは魔法使いの家系とはまったく無縁の家で生まれた、突然変異のような子どもだった。魔法の素質はあったが、魔法使いとしての家柄も歴史もない。そのため、同じ魔法使いからよく軽蔑されていた。
家でも魔法の研究に勤しむ彼を理解できる家族はおらず、疎外感を抱いた彼は15歳のときに家を出て、今は酒場の二階に下宿している。酒場の女将さんの手伝いをしてお駄賃をもらったりもしていた。
「せめて、ワガハイが研究の末に完成した最強の呪文さえ使えればよかったのだがなあ」
「それって、たしか1回も成功させたことがないんでしょ」
酒場の看板娘がヴィクターと一緒に料理を運んでいる。
「うむ。ワガハイはとうとうその秘術を完成させ、我が物にしたのだ」
「じゃあ、なんで発動できないの?」
「まあ、端的に言えば魔力不足だな。ワガハイの今の魔力量では呪文を唱えても魔法が形を成さないのだ」
その会話を聞いていた酒場の客が勢いよくビールを噴き出した。
「ぶはは! なんだそりゃ! ヴィクター、天才魔法使い様には魔力が足りねえって?」
「だいたいその最強の呪文とやらが実在するかどうかも怪しいもんだぜ」
「はいはい、ご注文の骨付き肉。あんまりヴィクターを馬鹿にしちゃダメよ」
看板娘は料理の皿を置くと、ヴィクターと一緒に厨房に下がる。
「ヴィクター、大丈夫? あんな奴らの言うこと気にしなくていいわよ」
「別にワガハイは平気だ。こんなの、昔からしょっちゅうだからな」
「それ、平気とは言わない。なんか悩みとかあったら聞くからさ。今日はもう部屋に戻って寝な」
ヴィクターはベッドを仰向けになると、真っ暗な部屋の天井をじっと見つめていた。
――どうしたら、最強の呪文を発動するためのピースが揃うのだろう?
そんな日々を過ごしていた、ある日のこと。
ギルドから連絡が入った。
「なんと、パーティーに入りたい者がいると?」
「はい。ただ、皆さん、一癖も二癖もあると申しますか……。まずは、面談をしたほうがよろしいかと」
ギルドの受付嬢に勧められるがまま、応募者を集めて面談を行う。
パーティーに入りたいと志願してきたものは3名。
「オレっちはゼノン・バズウィング様だァ~! よろしく頼むぜェ~!」
「ナディア・ネクロスです……。足は引っ張りませんので、なにとぞ……」
「ボクはシリウス・ヴェノムスカーだ。お手柔らかに頼むよ」
「ふんふん、ゼノンにナディアにシリウスか。パーティーなら4人で組めればちょうど良さそうだな!」
ヴィクターは新たな仲間が来てくれたことを純粋に喜んだ。
「それじゃまずは、そなたたちのジョブから聞かせてほしい!」
しかし、3人は一斉に目をそらす。
ヴィクターは「ん?」と首を傾げた。
「あー……っと、オレっちはその……蟲使いです……」
先ほどまでテンション高めだったゼノンは、急にスンッとしている。
「蟲使い? 虫を操るのか」
「あ、はい……蜂とか毒虫とか、そういうのを……」
ヴィクターは「ふんふん」とうなずきながら、ゼノンの話をメモしていった。
次に、ナディアのほうを向く。
「ナディアはどんなジョブで、どんな技を使うのだ? ワガハイに教えてほしい!」
「えっと……ジョブは……」
彼女は言いづらそうにためらっていた。
「正直に言ってほしいのだ。ワガハイはそなたの話が聞きたい!」
それでもナディアはしばらく沈黙を続け、5分ほど間をおいて、やっと白状する。
「……ぞ、ゾンビマスター、です……」
「ゾンビマスター? 聞いたことがないのだ。それはどういうジョブなのだ?」
ヴィクターに質問され、ナディアはじわっと涙を浮かべた。
「その……ゾンビを使役して、戦います……」
うつむく彼女を気にすることなく、ヴィクターはメモを取る。
「ふむふむ、ネクロマンサーのゾンビ特化ジョブといった感じなのだな。最後はシリウスの話を聞きたいのだが……」
シリウスの姿を再確認したヴィクターは、きょとんと首を傾げた。
「シリウス、そなたは本当に人間なのか? 実はモンスターとか魔族とかではなく?」
「不躾な質問だが、まあ気持ちはわかるよ」
なぜなら、彼はパンプキンヘッドを被っており、見た目だけでいえば人間よりも魔族寄りだったのである。
「ボクはちょっとワケアリでね。顔を隠さなければいけな事情があるのさ。まあ、ボクの見た目に関しては気にしないでもらえると嬉しいな」
「わかった、気にしないのだ!」
ヴィクターはあっさりと承諾し、「それで、そなたのジョブは?」と話を進めた。
「ボクのジョブは腐敗師。なんでも腐らせてしまう、はた迷惑な魔術さ」
「自分ではた迷惑というのは潔いな! しかしやはり聞いたことのない、珍しいジョブなのだ。なんでそなたたちはワガハイのパーティーに入りたいと思ったのだ?」
ヴィクターの疑問に、3人は「ンッ……」と言葉を詰まらせる。
しばらく気まずい沈黙が流れたあと、3人は一様に同じ理由を話した。
いわく、「以前所属していたパーティーに『ジョブがキモい』と言われて追放されたのだ」、と。
「ジョブが、キモい……? どういうことなのだ?」
「いや、そりゃそうでしょ……オレっちの蟲使いなんて、虫嫌いの奴らからゴミを見るような目で見られたし……」
「私のゾンビマスターもそうです……。ゾンビを操るという見た目が不衛生でえげつない、と……」
「ボクの腐敗師も言うまでもないねェ。ものを腐らせる魔術なんてそう需要は多くない」
「ふーん、そういうものなのか」
ヴィクターは一通り話を聞いて、メモ帳を閉じる。
「よし、それじゃ、早速クエストを受けてみるのだ! みんなの連携を確認してどういう戦術がいいのか、みんなで考えよう!」
「えっ」
3人は目を丸くしていた。
「あの、ヴィクター様……。私たちを全員、パーティーに採用する、ということですか?」
ナディアは恐る恐る彼に尋ねる。
「うん。ワガハイもパーティーを追われて困ってたところだったからな。力を貸してくれるなら大歓迎なのだ」
「で、でも……オレっち、キモいって言われてるのに……」
「ん? そなたたち、パーティーに加入したいからワガハイのもとに来たのではないのか?」
「いや、それはそうなんだけど……」
新人3人は動揺していた。
こんなにあっさりと自分たちを受け入れてくれた人物を、他に知らないのだ。
「それじゃ、これからよろしくな、3人とも!」
ヴィクターはまぶしいほど満面の笑みを浮かべていた。
天才魔法使いが新しい仲間たちと過ごして、わかったことがある。
まず、蟲使いのゼノン。
彼は代々蟲使いの家系で、小さい頃から山の中で虫に囲まれて育った。
両親の教えを受けて蟲使いとして成長したが、王国の首都に降りてきた彼は自分が異端であることに初めて気づく。
せめて性格は明るく見せようと、無理やりテンションを上げていたが、どちらかというとヒャッハー野郎に見えてしまうため、逆に人々から敬遠されていたという。
「パーティーの奴らにもキモいって言われて、蟲使いにどうしろっていうんだよぅ……」
メソメソと泣き出してしまうゼノンの背中を、話をじっと聞いていたヴィクターがさする。
「つらい目にあっていたのだな。もう大丈夫なのだ。これから、その才能をどう活かせるか一緒に考えよう」
次に、ゾンビマスターのナディア。
彼女の家系は墓守で、突然変異的にナディアだけがゾンビマスターのジョブに覚醒してしまったという。
しかし、死者を眠らせなければいけないという墓守の使命と、死者を無理やり起こし、ゾンビというおぞましい姿で戦わせるゾンビマスターの特性、その矛盾する能力に悩んだ末に、家を出奔して王国の首都へ逃げるようにやってきたそうだ。
だが、そこでも彼女を受け入れてくれる場所は、今までなかった。
「私、手料理を食べてもらったこともないんです。ゾンビを扱うジョブのせいで、いつも衛生面を疑われて……」
目深にフードをかぶり、顔を伏せるナディア。
ヴィクターは肩に優しく手を置く。
「自分に自信が持ててからでいいから、一度ワガハイに料理を作ってほしいのだ。ナディアは自分の能力が嫌いかもしれないけど、ワガハイは別に嫌じゃないのだ」
最後に腐敗師のシリウス。
彼は自分の生い立ちを話したがらない。聞き出そうとしてもテキトーなことを言ってのらりくらりとかわしてしまう。腐敗術という聞いたこともない謎の魔術を操る彼は、そのパンプキンヘッドもあり、ギルドに登録はしているものの、やはり魔王の手先なのでは? と怪しまれて監視対象に指定されていた。
「シリウスはなんでパンプキンヘッドをかぶっているのだ?」
「ボクはあまりにもイケメンすぎるからね。これを外すとみんな見とれてしまうから、顔を隠すようにしているのさ」
飄々とした態度でそんなことをうそぶく彼は、本気なのか冗談なのかわからない。
ただ、彼が人々を魔物から救いたいという意志だけは本物だと、ヴィクターは確信している。
そういったことが確認できる程度には、4人は一緒に依頼をこなし、冒険を繰り広げた。
彼らは連携を確認し、いよいよクエストの中でも難関と言われる『ドラゴン退治』に挑戦することになったのである。
山奥の洞窟で宝を守っているドラゴンの討伐。
ドラゴンが守護している宝の中には魔王を倒すための手がかりがあるのではないかとされ、王国の中でも、このドラゴンの討伐は最重要の任務とされた。
しかし、これまでに、このドラゴンを倒せた者はいない。
「オレっちたちに倒せると思うか? ヴィクター」
「ダメだったら三十六計逃げるに如かず、なのだ。命さえあれば何度でも再挑戦できるからな」
ヴィクターは内心、他の3人よりも自分のほうに課題がある、と感じている。
あの『最強の呪文』さえ使えればドラゴンは倒せるはずだ。だが、どれだけ経験を積んでも、一向に魔力が足りる気がしない。
ならば、途中で逃げるとしても、ドラゴン級の難関に挑んだほうが経験値は稼げるはずだ。
彼は他の仲間に気付かれないように、ぎゅっと拳を固く握りしめた。
洞窟の奥に潜り込んだヴィクターたちは、ドラゴンの巣が騒がしいことに気付く。
「どうやら、先にドラゴン退治に来てる奴らがいるみたいだぜ」
ゼノンの操る虫が先回りしたところ、すでにドラゴンと激しい死闘を繰り広げているという。
「ワガハイたちも助太刀するのだ!」
お互いにうなずきあった4人は、ドラゴンの巣へまっしぐらに向かった。
そこにいたのは、久しぶりに見る顔。
「レオン!」
「ヴィクター!? 何しに来たんだ、危ないぞ!」
ヴィクターを追放した勇者レオン一行が、ドラゴンと戦っているではないか。
「ワガハイも仲間を連れて助太刀に来たのだ!」
「ああ、くそっ……。悪いけど、お前をかばう余裕はないぞ! 自分の身は自分で守ってくれ!」
レオンはヴィクターを未だにパーティーのお荷物だと思っている。
そこへ、ヴィクターたちも参戦したのであった。
「ドラゴンの鱗は硬い。オレっちの虫じゃあ、傷一つつかないだろうな」
「なら、ドラゴンの腹の中にでも入れてやればいいのだ!」
「ヒャッハー! そりゃあいい考えだぜヴィクター! 最高にイカしてるな!」
ゼノンはありったけの毒虫を召喚し、ドラゴンの口の中に向かわせる。
虫を飲み込んだドラゴンは、内臓を食い破る虫の群れに悶え苦しんでいた。
苦悶で暴れるドラゴンの攻撃を、ナディアが「させない!」とゾンビの群れを喚び出して盾にし、仲間を無傷で守る。
「ボクも少しは役に立たなくちゃね」
シリウスは『汚染の霧』という腐敗術で、ドラゴンの頭周辺に集中して毒の霧を発生させ、デバフを与えていった。
怒り狂ったドラゴンが火を吹こうとしたところで、「おっと、させないよ。少し目くらましをさせていただこう」と、さらに己のパンプキンヘッドを外す。
そこには輝くほどの美貌があり……というか顔が物理的に光を放っており、洞窟の暗さに慣れていたドラゴンの目をくらませた。
「シリウス! そなた、本当にイケメンだったのか!」
「前にそう話しただろう? 実は魔王にちょっと呪われてしまってね。ボクは嘘はつかないとも」
シリウスは光の中でウィンクしている。
「さあ、ヴィクター。トドメはキミの呪文だ!」
「わかってる。しかし、やはり魔力が足りない」
ヴィクターはふがいないと歯噛みする。
仲間がここまで善戦しているのに、自分は何もできていない。
そこへ、レオンが声をかけた。
「ヴィクター、君は本当に『最強の呪文』が使えるのか? あの、毎回使おうとしても不発だったやつか?」
「ああ。ワガハイが編み出した秘術、最終魔法『デストラクション・ノヴァ』。あれさえ使えれば、ドラゴンにトドメが刺せる」
それは、天才魔法使いの彼だけが使えるとっておきの魔法。
しかし、それが使えないと、今の戦力ではドラゴンを仕留めるだけの決め手がない。
「……わかった。俺の魔力を受け取ってくれ」
レオンはヴィクターの手に魔石のネックレスを握らせた。
「これは……?」
「何かあったときのために、俺がいつも身につけて、少しずつ魔力を貯めていったものだ。今までお前の言う最終魔法とやらが信用できなかったが……それが本当に使えるというのなら、ここで証明してみせてくれ」
「――ああ! 天才魔法使いのワガハイに任せるのだ!」
ヴィクターが魔石を掲げると、魔力が身体の中に流れ込んでくるのを感じる。
勇者と呼ばれる男の魔力は、最終魔法を発動するには充分だった。
「――最終魔法、展開。破壊せよ、新星の如き爆発を――『デストラクション・ノヴァ』!」
ヴィクターの構えた杖から、星のように輝く巨大な魔力の塊がほとばしる。
それが杖を離れ、ドラゴンに向かって流れ星のごとく一直線に放たれた。
モンスターは火を吹いて対抗しようとするが、その炎すら飲み込んで、魔力はますます膨れ上がる。
それがドラゴンに直撃すると――激しい爆発とともに、ドラゴンは塵になって消えた。
「……やりやがった……。本当にドラゴンをやっつけちまった!」
「ヴィクター様! 大丈夫ですか!?」
ナディアが心配そうに、仰向けになった魔法使いに駆け寄る。
「平気なのだ……。でも、魔力が空っぽになって動けないのだ……」
「ふふ、ゾンビに運んでもらったらどうだね?」
いつの間にかパンプキンヘッドをかぶり直していたシリウスが含み笑いをしていた。
こうしてドラゴンを打倒したヴィクターのパーティーはギルドや王国から褒賞を受ける。
レオンとその仲間たちも感謝と謝罪を述べた。
「ヴィクター、君がこんなに強いなんて思わなかった。よかったら、また一緒に冒険しないか?」
レオンの申し出に、ヴィクターはふるふると首を横に振る。
「ありがとう、レオン。でもワガハイは、今のパーティーが心地よいのだ。あぶれ者同士で集まったほうが気が楽だしな」
あぶれ者、とはいえ、ドラゴンを倒した功績は国中に知れ渡り、ヴィクターたち4人は注目のルーキーとなっているのだが、誰もパーティーを抜けたいとは言わない。
であれば、そのリーダーであるヴィクターが真っ先に抜けるわけにはいかないだろう。
「ゼノン、ナディア、シリウス! 次の冒険に出かけるのだ!」
天才魔法使いは、さわやかな春風のように、3人を連れて軽やかに駆け出すのであった。
〈了〉
自称天才魔法使い、勇者パーティーを追放されるがマイペースに生きる 永久保セツナ @0922
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