第4話 凸凹コンビはやっぱり最後まで喧嘩する

 あれからどうなったのやらさっぱり分からないが、目を開けて周囲を確認する。まだ、意識が戻っていない奴もいるようだが、ボス部屋近くのセーブポイントまで戻ってきたらしい。既に意識が戻った華南と北斗、織部が何やら立ち話をしているので、寄ってみる。

 

「あぁ、起きたかイノ」

「何の話してるんだ?」

「あー、ボスの弱点と攻略法について話してるところやで」

「今のところ、やはりあの天蓋を先に撃ち落とさない限り攻略は不可能だろうという話になっていてな。お前は何か気づいたこととかあるか?」

 

 華南に問われ、ついさっきまでの戦闘を振り返ってみる。確か、菩薩像を片っ端から倒すために走ってて、壁際に着いたからもう1回スキルを発動させようとした時に――。

 

「あ、天蓋が緑に光ってボスのHPが全快して、それでまた光が発射されて最後に阿弥陀如来の白毫が光ってるのが見えたな」

「白毫……ってなんだっけ?」

 

 華南が首を傾げてそう言った。仮にも観文省の職員だろうに。なんで、忘れてるんだよ……。

 

「白毫っていうんは悟りの証みたいなもんでな。仏様にはみんなついてんねん」

「ってことは、その白毫が弱点かもしれんな」

 

 と、俺たちが話している間に全員意識を取り戻したようだ。華南は分かったことを皆に共有。別のギルドに先を越される前にボス部屋へ急ぐことになった。

 

 再びボス部屋への扉が開かれ、中に入ると先ほどと同じように阿弥陀如来が出現。取り巻きである菩薩像が出現する前に一気に天蓋を落とすことになった。天蓋を撃ち落とすには二丁拳銃では射程が足りないため、織部はライフルに持ちかえる。彼女の左人差し指には鳳凰討伐で手に入れた指輪が嵌められていた。織部が天蓋に向けて炎を纏わせた銃弾を発射すると同時に、天蓋に向けて数多の攻撃がなされる。

 その隙に俺は弱点である白毫を討ち取るためにありったけのバフポーションを飲んでいく。3本目を飲み終えたところで、菩薩像が出現。5本目を飲み終えた俺は、肩慣らしにはちょうどいいと菩薩像の群れに突っ込んでいく。バフポーションに重ねてスキルを発動させているので、先ほどよりも数倍速い速度で敵を蹂躙。刀で突いて、斬って、体術を駆使しながら、襲い掛かってくる菩薩像を撃破。他のメンツも先ほどよりも手慣れたように100体にも及ぶ菩薩像を討ち取っていく。

 そうしているうちに天蓋の方から爆発音が聞こえ、思わずそっちを見る。すると、織部の発射した弾丸が天蓋にクリーンヒット。そのまま天蓋が地面に落下した。

 

「後は頼んだで!」

「あぁ。任せろ!」

 

 俺は再度、スキルを発動させる。天蓋が落とされ、菩薩像が全て撃破され、残る攻撃は戟矟のみ。他のメンツが絶え間なく攻撃をして、意識をそっちに向かせている隙に俺は北斗の元へ全速力で走りだす。俺のスキル・俊足で出せる跳躍力は最大でも10メートルが限界。対して阿弥陀如来の全長は15メートル。いくらバフがかかっていても13メートルが限界だろう。そこで、北斗の持っている盾を利用する。彼の盾まで目算で50メートル。俺はどんどん速度を上げ、スタンバっている北斗との距離を詰める。

 その間にも阿弥陀如来のHPは2本目のイエローゾーンに到達していた。残り数メートルまで来たところで、北斗が盾を斜めに傾けた。その瞬間、俺は右足で盾を踏むと同時に方向転換。盾がへこむような音が響くも、北斗が盾ごと俺を上へ押し上げる。瞬間、阿弥陀如来目掛けて大きく跳躍。空中で体勢を作り、抜刀すると同時に指輪の効力を発動する。途中、戟矟に阻まれそうになるが横から高火力の魔法攻撃を当てられ、阿弥陀如来が体勢を崩した。もう遮るものはない。これで決めてやる。そう思い、刀を持つ腕を後ろに振る。

 

「はああああー!!」

 

 刀に炎を纏わせた状態で一気に白毫目掛けて渾身の突きを入れる。すると、阿弥陀如来のHPバーがみるみる減少。完全にHPがなくなった瞬間、阿弥陀如来が消滅した。俺はそのまま重力に従って地面に着地。その時、ボス部屋内に歓喜の声が渦巻いた。その様子を眺めながら刀を仕舞っていると、探索者ランクが一気に60から62まで上がった。ボス討伐の経験値はやはり美味い。そう思っていたら、後ろから北斗に突っかかられる。

 

「よくやったぞ! イノ!」

「ありがとな。でも、クリアできたのもみんなのおかげだ。ラストの援護がなかったら今頃1人だけセーブポイント行きだっての。にしても、あの援護って一体誰が……」

「そんなんあたしに決まっとるやろ。あんな状況下であんなピンポイントに当てられるん自分しかおらんわ」

 

 後ろから来た織部がそう言ってきた。彼女の手には何故かランチャーが。おいおい、そんなもんいつの間に持ってたんだよ。多分あれか。こいつのことだから誰かからぶんどって来ただろ。さっきのライフルと言い。てか、あの攻撃は魔法じゃなくてランチャーだったのかよ。

 

「後で返しとけよ」

「分かっとる分かっとる。それより、今回の報酬が現れたみたいやで」

 

 後ろを振り返ると大きな宝箱があった。かなりの大きさなので、織部にも開けるのを手伝ってもらう。蓋を開け終わると同時に再度歓声が上がった。なんだなんだと中を見てみると大量の小判が。宝箱の上に1万両――現在の価格で1500万円と表示されている。流石の俺や織部もこれには目を見開かざるおえない。

 だが、1万両全てをメンバーたちで山分けできるわけではない。このボス討伐を成功できたのはギルドメンバーたちだけのおかげではなく、アイテムや武器を作っている人たちのおかげなのだ。そのことも考えると、1万両の3分の2は政府が。その残りはこのボス攻略に参加した人たちの間で山分けされる。全部が全部貰えるという訳ではないのだ。この制度は最初のダンジョン攻略の時からあるため、何とも世知辛いなと毎回思ってしまう。

 と、俺の手のひらに鍵が出現した。今回は紫の玉が埋め込まれた鍵らしい。この鍵をダンジョンの入り口である扉の鍵穴に差し込めば今回の任務は完了だ。俺は鍵をポーチの中に仕舞う。そうしている間にも、小判を報酬袋に詰め終わったようだ。するとその直後、部屋全体が揺れ始めた。

 

「もう崩落か。早いな」

「まぁ、小判の方は回収できたからな。とっととずらかるぞ」

「あぁ」


 

 あの後、俺と織部は手分けしてダンジョン内にいた全ての人たちを出口まで誘導し、無事に脱出することに成功。本堂の扉が閉まると、そこの鍵穴に先ほど入手した鍵を差し込んで回す。カチャリという音と共に、平等院全体の空気が晴れた。これで、今回の任務も完了だ。俺は鍵をポーチに仕舞い、グッと伸びをする。

 

「久々に動いたからお腹減ったわ。一仕事終えたしこの後、ご飯でも行かへん?」

「その前に報告が先だろう」

「真面目やな~。ちょっとぐらい息抜きしようや」

「報告し終わってからな」

「ケチやな~。ほんなら、先行ってるで~」

「あ、おい待て!」

 

 織部はそういうと駅の方に向かって歩き出した。また迷子にでもなられたら困る。俺は、北斗と華南に後処理を任せて、織部の後を追いかけるのだった。




☆あとがき

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遺産迷宮攻略課~極楽浄土と伝説の霊鳥~ 桜月零歌 @samedare

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