第3話 凸凹コンビと最前線ギルド

「おー、やっと来たか。待ちくたびれたぞ」


 ギリギリ間に合ったようで、遅れてやってきた俺たちに気づいたのか、大きな盾と鉄斧を持ち、大柄な体躯を鎧で包んだ坊主頭の男――北斗ほくとが話しかけてきた。


「すまんな。途中で道に迷ったり罠に引っかかったりしてたら遅くなった」

「それはご苦労さん。その様子じゃ鳳凰にでも遭遇したか?」

「そりゃもうバッチリとな。何回火傷負わされたことやら」

 

 北斗は最前線ギルドの副リーダーで、攻略課のメンバー。職種はタンクで主に敵からの攻撃を防ぐ役目を担っており、彼が持っている大きな盾は前回の攻略の際、手に入れたものだ。

 探索者ランクは61。スキルは硬化で、文字通り己の武器を固くすることができる。防戦を得意とする北斗にとってはぴったりのスキルだろう。

 

「紗奈も久しぶりだな」

「せやね。元気にしとった?」

「まぁな。うちのリーダーもピンピンしてるぜ」

 

 北斗が全体に指揮を執っている勝気そうな赤毛蒼眼の女性の方に視線をやると、俺たちに気づいたようで軽く手を振ってくれた。

 彼女は華南かなん。最前線ギルドきっての凄腕剣士でリーダー。そして北斗と同じく攻略課のメンバーでもある。華南のスキルは剣に炎を纏わせる炎舞。

 探索者ランクは最高ランクの62。もし、探索者同士で戦うようなことがあれば彼女が1位に躍り出るのは間違いないだろう。

 

「さて、準備も整ったし、メンバーも全員揃った。今まで入念に準備してきたんだ。私たちなら必ず攻略できる! ま、1回ぐらい死んでも大丈夫なように体制は整えてあるから、まずは様子見といこう。それでは、今からボス討伐を開始する!」

 

 華南がそう言うと、ギルドメンバーたちは雄叫びを上げた。と同時に時計の針が15時になり、ボス部屋への大扉が開かれる。リーダーを先頭にギルドメンバーたちは続々と中へ入っていく。最後尾の俺と織部もそれに続いて中に入る。

 その途端、自動的にボス部屋への扉が閉まり始めた。この扉はボスを攻略するか、俺たちが全滅しない限り再度開かれることはない。扉の閉まった音が部屋に響き渡り、真っ暗だった部屋に明かりが徐々に灯り始める。

 どうやら最終決戦は極楽浄土をイメージした金の部屋で行われるらしい。隙間なく壁や床、天井一面に金箔が施されている。


 現実でこれをやろうと思ったら、1億はかかるだろうな……。


 呑気なことを考えていたら明かりが全て灯ったようで、部屋の中心にボスが出現。


 今回のボスは、全長15メートルはあろう阿弥陀如来。例えるなら大体、奈良の大仏の大きさだ。阿弥陀如来の頭上には大きな金の天蓋が設置されており、手には同じく金色の等身大の大きさの戟矟――簡単に言うなら矛を持っている。

 仮にも仏の最高位が人間に攻撃して良いものなのかとツッコみたくなるが、ここは異空間のダンジョンだ。そういうのがあっても何らおかしくはない。2本のHPバーが表示されると、皆どこから攻撃が来ても良いように武器に手をかける。

 すると、天蓋が一瞬光ったかと思えば、そこから無数の光が俺たちに向けて発射された。ボスの正面に固まっていた俺を含めたメンバーは一瞬のうちに散り散りになる。初手からおっかない攻撃を繰り出してくるものだと思っていたら、第2射、第3射と光が放たれた。

 光の合間合間をすり抜けてボスへ近づこうと試みる。だが、斜め前から大きな戟矟が降りかかり、慌てて後退。その後も何とか接近しようとするも、攻撃に阻まれてしまう。そして、敵は阿弥陀如来だけではなく、ボスを守るようにして100体の菩薩像まで出現し始めた。

 

「このままじゃいずれ全滅するぞ! 何か策は⁉」


 接近してくる菩薩像を次々と斬り伏せながら、後ろで敵の攻撃を押し返している北斗に向かって言い放つ。


「取り敢えず……! こいつらをどうにかしないことにはボスを倒すことは厳しいだろう。一応、中・遠距離攻撃のできるやつらがボスのHPを削ってるが、これじゃあいつ燃料切れになってもおかしくない」

 

 北斗は襲い掛かって来た菩薩像の脇腹に向かって、強烈な蹴りを入れながら答える。取り敢えず、ボスに近づけない以上、ボスは中・遠距離攻撃のできる織部たちに任せるしかない。となると、自分のやるべきことは目の前の敵を片っ端から倒していくことだけだ。

 俺はスキルを発動させ、足にできる限りの力を込め、蹴り上げる。そして、視界に入る全ての菩薩像たちを一掃しにかかる。徐々にHPを削られていくが、そんなこと構っている暇はない。残りHPが3分の1に減少した辺りで壁際に到達。

 切り返して、また先に進もうとした瞬間。ボスの1本目のHPバーが消滅したかと思えば、天蓋が緑に光り、ボスのHPがみるみるうちに回復していく。

 

「嘘だろおい……」

「そんなことあって良いのか……」

 

 ボス部屋にいるギルドメンバーの口から絶望の声が漏れる。戦意喪失しかけている面々に「まだだ!」と華南が声を荒げるが、時すでに遅し。

 天蓋から無数の光が発射され、呆然と立ち尽くしたギルドメンバーたちは次々と攻撃を受け、消滅。かくなる俺も、光と菩薩像たちの持つ剣や矛に身体を貫かれ、HPがレッドゾーンまで減少。キラッと阿弥陀如来の紫の白毫が光ったのを最後に視界が真っ白に染まった。

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