第26話 配信コラボⅢー① お前呼び助かる (みどり×天の川レイン)
「とどけレインの想い! 今日のみどり様!!」
『!?』
『!?』
『ファッ!?』
「今日はいつもとアジェンダを変えてこのコーナーからスタートですわ~」
生放送開始早々、いつもの挨拶と違う挨拶にリスナー達は困惑する。
レインの放送は自作小説の音読から始まり、みどりへの愛を自由な形で叫ぶコーナーで締めるのが定番の流れだ。
しかし、今日は事情があって末尾のコーナーを冒頭へ持ってきた。
『マジキチコーナーからスタートってマ?』
『いきなりお腹いっぱいになりそう』
『初手ホールケーキを食わされる方の気持ちも考えて』
「驚かせて申し訳ありません。でも大丈夫。今日のレインはお淑やかに参りますわ」
『そう……』
『そうか……』
『ん……』
「無理だと思ってますわね!?」
『うん』
『限界ファンが大人しくできるわけがない』
『俺達はいつものきもいレインを見てきてるんだ 無理しなくていいんだよ』
「無理じゃありませんわ! 今日はお淑やかにしなければいけない理由があるのです」
麗は一つ咳払いを挟み、微笑みながらスタンドマイクを指さした。
どうぞ喋っていいですわ、と無言で合図をする。
「初めまして。みどりです! こちらの放送では初めましてですね! レインさんに呼ばれてお邪魔しちゃいました!」
『ファー!?』
『本物!?』
『みどりニキだ!』
『え なんで?』
『急にコラボ始まったのだが』
『超展開で草』
「はい。というわけで改めて! 『とどけレインの想い 今日のみどり様! 本人に届けちゃいますスペシャル』ですわ~!」
「届けられちゃいます」
『届けられちゃうのかww』
『なんで冷静なんだよw』
『届けられて大丈夫? 重いよ? この子の愛』
『死ぬなよみどりニキ』
「愛で死ぬようなことはないと思いますけど……え? 死ぬの? 自分」
『これはビギナー』
『骨は拾ってやるから……まあがんばれ』
なぜか恐々としているリスナーの言葉。
みどりの背中に冷や汗が垂れる。
もっと考えてからコラボすべきだったのかもしれない。
現に放送が始まってから麗の瞳が妙に妖艶だ。
獲物をどう調理してやろうか、そんなことを考えている獣の瞳に見えた。
「さてみどり様。改めて今日はよろしくお願い致します」
「あ、はい。よろしくです」
差し出された手を握り返し、軽く挨拶を交わす——
軽い……挨拶程度の……握手——
手が離れない。
「皆様! やりましたわ! レインは……レインは今、みどり様に強く手を握りしめられておりますわ!」
「手を握りしめられているのはこっちだよ!? なんで離してくれないの!?」
「みどり様のしなやかな繊指がレインの指に絡みつき、強く、強く締め付けていく。彼の表情は狡猾で私の苦しみに悶える表情を見ながら愉悦に浸っており——」
「地の文みたいな描写で嘘つくのやめて!? みんな信じてくれ! 手を捕捉されているの自分の方ですからね!?」
『わかってるからww』
『大丈夫 誰もお前を疑ってないよ』
『レインはただお前と手を繋ぎ続けたいだけだ 受け入れろ』
「受け入れないといけないの!?」
「……みどり様は私と手を繋ぐの……お嫌なのですか?」
「飛び上がるくらい嬉しいけど! 美人と手を繋げて舞い上がり気味だけども! でも離してくれないかな!? 何をされるかわからない恐怖の感情が勝っているから!」
「……むぅ。わかりました。手をお離します。名残惜しいですが。名残惜しいですが。名残惜しいですが」
「本当に名残惜しそうだ!?」
「……みどり様。手を離す前にちょっとだけ小指を舐めさせてもらっても?」
「上目遣いでなんつーお願いするんだ!? そういう発言が怖いって言っているですからね!?」
「無念ですわ」
怖がられていると知り、レインは唇を尖らせながら静かに手を離す。
同時に翠斗は少しだけ麗から距離を取った。
「なんでちょっと離れるんですの!?」
「なんでだと思う!? その理由はたぶんここにいる全員知っているよ!?」
『レイン! ステイ!』
『漫才見てるみたい』
『漫才というよりはラブコメだわな』
『実写で見たいわw』
『オープニングトークでこんなに面白いってマジ?』
『レイみど てぇてぇ』
翠斗は改めて思った。
限界化ガチ恋勢の恐ろしさを。
そしてコラボ相手はよく考えて選ぶべきであると。
「みどり様。お願いですから、お願いですから近寄ってください。もう変なことしませんから!」
「……本当ですね?」
「もちろんですわ! レインはお淑やかな女の子。はしたない真似などするはずありませんわ」
「それなら、まぁ」
離れていては翠斗の声が放送に届きづらい。
リスナーには迷惑を掛けたくないという思いで翠斗はレインに近づいた。
同時にレインがぐぃっと肩をぶつけてくる。
「あっ、肩がぶつかってしまいましたけどお構いなく。レインの頭が翠斗様の肩に乗っちゃったこともどうぞおかまいなく。頭を撫でたい欲に駆られたらどうぞレインの頭をご利用ください」
フワッと香るレインのシャンプーの良い匂いが翠斗の鼻孔を刺激する。
「うわぁぁぁぁぁっ!!?」
「うわぁってなんですか!? そんなにご不快でしたか!?」
「ビックリしたんだよ! お前はもっと自分を大切にしろ!?」
「は、はい……えへへ」
小さな声で『お前呼びされちゃった』とつぶやくレインの声は配信マイクがガッチリ拾い、リスナー達の耳にも届く。
『少女漫画かな?』
『お前呼び助かる』
『なんでこいつら配信でラブコメしてるんだ?』
『急に距離近くなったな 物理的にも心の距離的にも』
『なんかレインを応援したくなってきた てぇてぇが過ぎる』
「れ、レインさん。オープニングトークはこの辺にしてアジェンダを進めましょう!」
ラブコメしてると言われて気恥ずかしくなってしまい、翠斗は誤魔化すように進行を促した。
「承知致しましたわ。それでは次のコーナー! 『みどり様に亀甲縛りされてみた』のコーナーへ移りたいと思います」
「何を言っとるんだ!? お前は!?」
「ど、どうぞ……」
「縄を出してきやがった!? しないよ!? 縛ったりなんかしないからね!?」
力いっぱい拒絶する翠斗に対し、レインは今までにないほど真剣な表情で翠斗の目を見つめてきた。
「みどり様一生のお願いです。これで……レインを縛ってくださいませ」
「一生のお願いの使いどころそれでいいの!? いや断るけどな!」
ズビシッと翠斗のチョップが麗のコメカミにヒットする。
つい女の子を叩いてしまったという後悔が脳裏を霞めるが、にへらと嬉しそうなニヤケるレインを見て戦慄が奔った。
「皆様―! やりましたわ! ついに……ついにみどり様に叩いてもらえましたわーー!!」
『www』
『よかったねw』
『レインのHPが100回復した』
『みどりニキ気を付けろよ 目の前に居るのは叩けば叩くほど悦びを覚えるモンスターだぞ』
正直舐めていた。
天の川レインの変態性を。
そしてこの後も嫌というほど思い知ることになるのであった。
次の更新予定
2025年1月11日 07:00
壁に穴が開いている部屋で隣人の美少女VTuberが今日も配信をしています にぃ @niy2222
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