第2話

3年前──


とある山の麓にある小さな道場での出来事。 


「うぅ、まだ…まだ俺のほうが…」


「お父さん、無理しないで。もう息が上がってるよ?」


今よりも少し少女の面影を残すアイリスは優しくそう言いながら、ほぼ無傷のまま父の攻撃をかわしていた。


「な、何を言う!俺はまだ全然…」


父は必死に攻撃を続けるが、アイリスが避けるたびに息が上がり、体力の限界に達しようとしていた。


「こ、これは年のせいなんだ!年齢には限界があるんだ!お前は、まだわからないだろうが…。」


アイリスは冷静に一歩下がると、優雅に木の剣を構え直す。その余裕の表情を見た父は、顔を真っ赤にして言葉を続ける。


「俺が全盛期の時なら…今の十倍、いや二十倍は強かった!〇〇の時は△△を倒したし、今だって本気になれば、□□くらい……」


それから3分。

父はまだ言い訳をしようとしたが、その時、アイリスがふと真顔のまま口を開く。


「ねぇ、お父さん。実は私、冒険者になりたいんだけど。」


突然の娘の言葉に、一瞬父はポカンと驚き、何度も息を吸い込みながらアイリスを見た。


「冒険者…だと?なぜ急に?」


息切れをしながらも、父は目を見開いてアイリスに尋ねる。


「うん。お父さん以外に強い人を見てみたし、モンスターとも戦ってみたいし、もっといろんな世界を見てみたいから。」


アイリスを淡々と理由を答える。

一方で彼女の父は言葉を失っていたが、やがてため息をつきながら静かに言った。


「わかった…お前なら大丈夫だろう。」


父は疲れた表情をしながらも、どこか満足げにそう言った。


「でも、気をつけろよ。俺が守ってやることはできないからな。」


父の言葉に、アイリスは微笑して深く頷いた。


「うん、ありがとう。お父さん。」


◇ ◇ ◇


私は、リーフ村でロリコンオークを倒した帰り道にふと昔の記憶を思い出していた。


思えばあれから3年が経つ…

物心ついた時からお父さんと一緒に修行して、誰にも負けない力を身に着けた。

なりたかった冒険者になれたはずだった。


でも、なぜだろう。

こんなにも心が満たされないのは…。


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冒険者アイリス、無自覚なまま最強へと至る シロト @icebox1919

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