冒険者アイリス、無自覚なまま最強へと至る
シロト
第1話
アイリスはいつものように自宅でくつろいでいた。古びた木造の家だが、必要なものは揃っており、彼女にとっては十分な空間だ。壁にかけられた剣を眺めながら、次の依頼について考えるでもなく、ただぼんやりとしていた。
突然、遠くから甲高い警報音が鳴り響いた。
「――緊急警報! リーフ村付近で大規模な爆発を確認! 冒険者は直ちにギルドに集合してください!」
ギルドの警報システムが町中に響き渡る。緊急時には冒険者に危険を知らせるため、町全体に放送が流れる仕組みだ。
アイリスはその内容を聞くと、眉を僅かに動かし、窓の外を見た。空に立ち昇る黒煙が、はるか遠くからでも確認できる。
「リーフ村…ね。」
彼女はそう呟くと、壁にかけてあった剣を手に取り、腰に装着した。その動きは慣れたもので、迷いが一切ない。
「よし、行くか。」
そう言うと、彼女はすぐに家を出た。
◇ ◇ ◇
リーフ村に到着したアイリスは、荒れ果てた光景を目の当たりにした。村の家々は破壊され、黒煙が立ち昇る。地面には住民の持ち物が散乱し、あちこちから悲鳴や叫び声が聞こえてくる。
「いやっ! 来ないで!」
アイリスが視線を向けると、そこには一匹の異形の魔物がいた。その姿は豚のような顔に巨体、鋭い牙を持つオーク。その全身から漂う異様な空気が、ただのオークではないことを物語っていた。
「ヒヒヒ、可愛い子じゃねぇか……。俺様の物にしてやる!」
オークの手が少女に迫る。少女は恐怖で動けず、ただその場で縮こまっていた。
その瞬間――
「……そこまで。」
冷たい声が響いたかと思うと、オークの腕は空を掴むことなく止まった。いつの間にか少女の体はアイリスに抱きかかえられていた。
「えっ……?」
少女は目を開け、金髪の女性が自分を抱き上げているのを見た。涼しげな碧眼が一瞬だけ少女を見つめたが、すぐにオークへと向けられた。
「お前は誰だ!」
オークが颯爽と現れたアイリスに怒鳴る。
「ただの通りすがりの冒険者。まあ、用事が終わったら帰るけど。」
少女をそっと地面に下ろし、後ろへ避難するよう促すと、アイリスは剣を抜き、オークの前に立った。
「おい、女! この俺様を誰だと思ってる? よく聞け! 俺様はただのオークじゃねぇ! この世で最も尊い存在――そう、純真無垢な少女を狙い愛する者、ロリコンオークだ!
お前が邪魔に入らなければ、俺様は今頃あの子を巣に連れ帰って初めての…」
オークは声を荒げ言葉を続けようとするが、そこでアイリスの小さな呟きが割り込む。
「なんだ、ロリコンオークじゃなくて、童貞オークだったのか。」
「き、貴様!誰が童貞オークだぁぁあああ!」
アイリスの童貞という指摘に対して異常な反応を見せるロリコンオークは実際のところ童貞だった。
「もういい、話は終わりだ!お前のような通りすがりの冒険者など、この爪で切り刻んでくれる!」
そう言いロリコンオークがアイリスに襲いかかろうとした次の瞬間──
スパァン
アイリスによって放たれた剣撃がロリコンオークを捉え、一瞬にしてその巨体を真っ二つに切り裂く。
正に刹那の出来事だった。
(……また一撃か。)
アイリスは心の中でそう呟きながら剣を納め、何事もなかったかのように歩き出す。
空には黒煙が立ち込め、村の惨状は変わらない。しかし、そこに新たな恐怖が訪れることはもうなかった。助けられた少女は、呆然とその場に立ち尽くしている。
「次は、もう少し手応えのある敵だといいな……」
その言葉は独り言のように小さく、やけに空虚に響いた。荒れ果てた村の中を、彼女の軽やかな足音だけが静かに消えていった。
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