第10話
わかっていた。マシロは私の作りだした幻想だった。父から暴力を受けていたのは、罵倒されていたのは紛れもない私だった。
自分の心を守るためにマシロという人格を作り出し、辛いことを全て押付けた。
じゃぶじゃぶと沖に向かって歩みを進める。もう腰ほどまで水に漬かっている。怖くは無い。マシロがいるから。見えずとも近くに、私の心の中にいるから。だから何も怖くなんてない。
次の1歩を踏み出した時、底がなかった。ドボンと音を立て私は水中へ沈んでいく。ふとマシロとお揃いで買ったブレスレットが目に入る。私は幸せだった。マシロがいたから。全て引き受けてくれたから。今まで生きてこられた。
あぁ、なんて幸せなのだろうか。水面が遠のき、意識が薄れていく。ごぼりと息を吐き出した。
私は確かに幸せだったのだ。誰になんと言われようとも幸せであったのだ。
夜明けの彼方 緑町坂白 @ynanknyn0718
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