第9話
一先ずまた電車に乗った。遠くへ行くためだ。この路線に乗っていれば海につく。海なら人気もないしあまり干渉してくる人は居ないだろうと踏んだ。
警察は私たちを探しているらしい。ただの保護のためなのか、容疑者としてなのか。
……マシロは捕まってしまうのだろうか。そしたらひとりぼっちになってしまうんだろう。それは嫌だ。
「ミツキ、海に行こう」
「うん、そのつもりだった」
「そっか、良かった」
会話が途切れまた睡魔に襲われる。どうして電車というものはこんなにも眠気を誘うのだろうか……。
今度は夢だとわかった。出ていったはずの母がいるから。昔のように3人でテーブルを囲んで料理を食べる。美味しかったはずだ。今は砂を噛んだように味がしない。夢の中だからだろうか。父と母が何かを話している。よく聞こえない。
ふと辺りを見渡す。マシロはどこにいるのだろうか。いつも隣にいてくれたのに。テーブルを立ち、各部屋へ探しに行く。父の部屋、母の部屋、私の部屋、洗面所にお風呂、キッチン、ベランダ。そのどこにもマシロの姿はなかった。
居間から母の呼び声がする。マシロのことを聞いてみよう。
「どうしたの、お母さん」
「今お父さんと話してたんだけどね、〜〜〜、〜〜するの。だからねミツキはどうしたいかなって」
「よく聞こえなかったところがあるから、もう1回聞いてもいい?」
「あ、ごめんね。あのね私たち離婚しようと思うの。ミツキはお父さんとお母さん、どっちについていきたい?」
「3人で暮らすのはできないの?」
「それは残念だけど無理だね」
「ならお父さんに着いてく」
「……そっか、うんわかったよ」
そんなやり取りをした次の日に、母は家を出ていった。
あれ?おかしい。マシロがどうするかを聞いていない。なんでマシロに聞かなかったんだろう。私と同じようにするって分かってたのかな。そういえば、お母さんは恋人を作って出ていったんじゃなかったっけ?まぁ、これは夢だから、整合性が取れていなくたって構わない。だってこれは夢だから。夢なのだから。
ふと目を覚ました。また眠っていたらしい。目の前に海が見える。ちょうど降りる駅だ。マシロの手を取り、足早におりる。ちょうど夕日の沈むタイミングでとても綺麗だ。
「海着いたね〜」
「結構近かったんだね」
「まず遊ぼ!」
「え?え、ちょっと待って!」
マシロの手を引いて海へ飛び込んでいく。ひんやりとした水が心地よい。服が濡れることなんて気にせずに、水を掛け合い、じゃれ合い、疲れ果てるまで遊んだ。
「つっかれたぁ〜!」
「そりゃ当然でしょ……。いきなり飛び込んでいくなんて何考えてるのさ」
「1回くらいやってみたいじゃない?だからやったの!」
楽しかった。海で遊ぶのなんて初めてだったから。この2日で色んなことがあった。父が死んで、マシロと遊んで、警察に追われているらしい。濃い一日だったのは確かだろう。
「ね、ミツキ」
「なぁにマシロ」
「もう1人でも大丈夫?」
「マシロどっか行くの?」
「うーん、そろそろね。遠くに行かなきゃいけなくてさ」
「ずっと一緒には居られないの?」
「無理だね」
「……何があっても?」
「何があっても」
マシロは私を置いていく。私はまたひとりぼっちに戻るだけ。
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