第52話 陰キャ先輩と野球部員兼文芸部員
先輩に諸々の報告をする必要が会ったから、今日は文芸部としての活動を行う事になっている。
野球部としての活動は明日から。
此処からの比率は8:2か9:1とか、そういう事になると思う。
だけど今日は全力全開で文芸部だ。
「ああ、そういえばこの前買った新刊読み終わったんですけど、先輩読みます?」
「う、うん……読む。借りてく」
例の一件があった日に購入していたラノベを鞄から取り出し先輩に手渡す。
「あ、ありがとう……」
言いながら受け取った先輩は言う。
「……良かった、あれからまた探しに行かないで」
「ええ」
諸々の事が拗れたままだったら、この本を先輩に手渡す事は無かったかもしれない。
そういう意味でも、ちゃんと渡せて良かったと思う。
「あとそれ読み終わってからでいいんですけど、昨日新作をヨムカクに投稿したんで見てもらっていいですか?」
「い、今全何話?」
「三話です。一応何日分かはストック作ってあるんで、しばらくは毎日投稿しますよ」
「と、とりあえず先にそっちから見る」
そう言いながら先輩はスマホを触り始める。
そして俺の小説を探しながら、問いかけてくる。
「……た、大変じゃなかったか?」
「というと?」
「た、多分圭一郎君……野球の自主練とか、もう始めてるだろ……それやりながらなんて」
「ああ、その辺なら大丈夫ですよ」
うん、大丈夫だ。
「半端な形になる分、どっちも全力でやるって決めてるんで」
どちらも可能な限り手は抜いたりしない。
「そ、それ半端って、い、言わなくないか?」
「いやーどうですかね」
そうは言うが少なくとも。
……本当に惰性でしかやっていなかった時の方がよっぽど半端だったかもしれない。
それだけ今は……離れていた事で野球の事にもう少しだけ真摯に向き合えていると思うしそれに。
こんな半端な形になってもそれでも。
否、半端になったからこそ、負けるわけにはいかないんだ。
「と、とにかく無理しないように……WEB小説の方はともかく……部誌とか、他にやらなきゃいけない事とか……そういうのとかはウチがフォローするから」
「ありがとうございます。でも俺のやれることはやれるだけやりますよ」
この全力で半端な状態で、勝たなければならない。
だってそうだ。
俺が不甲斐ない結果を残せば、この人はきっと責任を感じてしまう。
この人は自分の使っていた催眠アプリが本物だと分かった時、俺の人生を滅茶苦茶にしたとまで考えていたんだ。
そして俺がこういう形で戻ってきても……どれだけ言葉で伝えても。
きっとその考えが完全に払拭される事は無い。
そんな中でもしその考えを払拭させる手段があるとすれば。
この人を傷付けないやり方があるとすれば。
それはきっと実際に証明する事なんだと思う。
俺の人生は白井先輩に滅茶苦茶になんてされていない。
この五ヶ月も。
これからも。
俺にとっては大切な物なんだって。
彩りを与えてくれるものなんだって。
そう、証明したい。
だからこそ、半端な形でも勝たなくちゃいけないんだ。
まずは野球部でベンチ入り。
できればレギュラーになる。
……期間的に難しいのは分かっているけど、可能なら秋季大会。
やれるだけの事はやる。
やれるだけの事をやれば可能性があると、田山先輩は言ってくれたから。
……可能性はあると。
夏休みの終わりに武藤経由で連絡した際、田山先輩は言っていた。
「ウチのチームは実力重視だから。赤羽君が皆を納得させられるだけの実力を見せられたら、入部したてでもベンチ入り……いや、エースになれる資格はある。そういう方針でやって来ているから皆も納得する。納得させる……だけど皆も春より強くなっているし……キミのやり方じゃ差が有っても縮まっていく。自分なら大丈夫だなんて舐めた事は考えないでよ」
……舐めてなんかいないさ。
文芸部の部室でこうして文芸部員として活動している今、説得力は無いかもしれないけれど。
勝てるように最善は尽くす。
俺なりのやり方を認めてくれるなら、俺なりのやり方で手を抜かず全力で。
そして勝って。
勝ち続けて。
先輩に大丈夫だって言ってやるんだ。
陰キャ先輩の催眠アプリで友達になる訳が無い 山外大河 @yamasototaiga
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