第3話 復活!?動き出す魔王と仲間達!!

「――――貴様らも無事、復活を為していたようで何よりだ」


陽の光すら遮断する森の奥に放置されていた廃屋。

その一室に、魔王は居た。

頭の両側に小さき角を二本生やし、褐色の肌をした魔王が。


「祝福の言葉を申し上げる前に先ずは謝罪を。側近の分際でありながら陛下よりも先に復活してしまい申し訳ありません。それと同時に、復活を果たせたようで何よりです」


背中に尻尾を生やし、片眼鏡を右目につけ、黒いタキシードを着こなした180cm程の身長をした細身の男が、深々と一礼をし告げる。


「よい。おもてを上げろヴァルニアス。して、あれから幾年が経った?」

「この時代は、神代しんだいより推定2000年以上が経過した時代だと思われます。断定できないのは、この時代は人間以外の我々を含む他種族が消え、人類史と呼ばれる時代が始まったときからカウントしているものと推測しており、確実な数字が出せないのです」


淡々と、この時代についての自身が持つ憶測を告げるヴァルニアスと呼ばれた男。

そんな彼から告げられた情報に、魔王は呟くように口を開く。


「そうか……フム、まぁよい。しかし、時を経て復活出来た事は快く思うが、力が全く無いというのは不快だな」


自身の持つ力が、全盛期とは遠くかけ離れているという事実に、少しの不快感を表しながら、手のひらを見つめる魔王。


「あらあら。魔王様には今、力が全く無いのですね。可哀想に~」


朗らかで上品な女性の声が、とてもじゃないが似つかわしくないこの暗闇の廃屋の中から、蠢くように響くのと同時。

翠色の艶やかな長髪を靡かせた女性が現れた。


「不敬な……!!」


ヴァルニアスは女性に向かい、剣を抜こうとする。

彼は、魔王唯一の側近にして、右腕として認められた絶対無二の存在。


その忠誠心は高く、他の魔族からは時折異常だとも言われていた。

その為、魔王に対する無礼は例え仲間であろうと見過ごさない。


「やめろヴァルニアス。オレの前で仲間に牙を向けるなど、いくらお前とて看過できぬ」

「…………私とした事が。失礼をお詫び申し上げます」


一言謝罪をすると、ヴァルニアスは剣から手を離し冷静さを取り戻す。


「それよりも……だ。貴様も居たのか、ルディ」

「ええ。ずっと居ましたよ。何せ暇ですから」


上品な笑顔を覗かせながら、魔王の問いに答えるルディ。

そんな彼女の返答に、魔王は立ち上がりながら告げる。


「…………では、仕事をやろう」


魔王は手のひらを開くと、黒く淀む粒子を集約させる。

そうして手のひらに形成されたのは、禍々しく光る卓球の玉程度のサイズをしたドス黒い水晶。


「これを用い、人間が持つ意思の力を奪い――そして、オレの元まで持ってくるがいい。さすれば、オレはそれをこの身に取り込み、全盛期の頃へと復活を果たそう。そして、世界のバランスを高め、消えた神々をこの地に再臨させ、あの大戦のリベンジをしようではないか」

「……残念ですが陛下。それは出来ません」

「…………何?」

「この人類だけが繁栄した時代に、陛下程のお方が急激に全盛期の力を取り戻してしまえば、世界のバランスが高まるどころか陛下の存在が消えてしまうかと思われます。よって、全盛期から7割――いえ、6割程度の力で留めておくのが無難かと」


それは、当然の摂理。

ここが、神々や魔族が生きた時代――“神代しんだい”と同じ環境下であったと言うのなら、問題はない。


しかし、この時代はそれとはまったく違う異世界のようなもの。

何の超常的な力も持たない人間が、知恵だけで文明を発展させている世界。

そんな世界で、魔王が完全に力を取り戻せば――世界に消されるのは当然の事であった。


「ハッ。意思の力を奪って持ってこい?大戦のリベンジをしようではないか?オイ、笑わせんなよ、魔王サマ」


その時。

ずっとドラム缶の上に座り黙って話を聞いていた女性が、口を開く。


「今のテメェがオレ達に指図できる立場にあるか?あの5人の神々に直にトドメを刺されたせい、そして復活直後のせいで、今のテメェには戦えるような力は何も残っちゃいない。要するに、先に復活して力がある程度復活しているオレ達の方が力関係は上なんだよ」


キリっとした目つきと、ドスの効いた声色で、彼女は告げる。

そんな彼女の態度に、ヴァルニアスは頭に血が上り沸騰しそうだったが――魔王が居る手前、なんとか落ち着かせようと必死に自制心を保つ。


「それに加え、テメェにはもう戦う理由なんて無い筈だ。この時代の人間は、神々の力に頼らずに自分達だけの力だけで生きている」


その言葉を受けて、魔王は声高らかに笑う。

その笑い声は、心の底から何かに対して喜んでいるかのような――そんな、嬉しさが混じった声。


「成長したな、レイダー。この余に対しそのような不遜な態度を晒すか。だがいいだろう、その方が活気がある」


流石は王の器と言うべきか。

配下の悪態ですら、彼は許し肯定した。


「それで、戦う理由が何かと言ったか。何、単純な話よ」


そうして一拍を置いて、魔王はハイになったかのようなテンションで告げる。


「あの熾烈な戦いで得た高揚――!!屍達で形成された死屍累々!!生涯無敗だった余に与えた敗北と言う屈辱!!そのどれもをまた味わいたい、晴らしたい、今度こそ勝ちたい!!――それだけだ」

「流石は陛下。向上心を忘れぬお方です」


そんな演説のようなものに、ヴァルニアスは一秒間に5回はしているんじゃないかと思えるような高速拍手をしながら称賛する。


「ハッ、くだらねぇ」

「全く、レイちゃんは相変わらずですね。でも私、知ってますよ~?レイちゃん、最近暴れたでしょ?本当は、戦いたいんじゃないですか~?」

「…………少なくとも、それはちげぇ」


舌打ちをしながら、レイダーは後ろを向き廃屋の出口に向かって歩を進める。

そんな彼女の背中に向かって、魔王は言葉を投げる。


「もしこの余に力が戻った暁には――レイダー。貴様が望む願いを叶えてやろう。無論、それはみなも同様の話だ。働いた者にはそれ相応の対価をやる。それが上の者の務めよ」

「…………それは本当か?」

「いいのですか?陛下」

「あら~。その提案は魅力的すぎて、喉から手が出てきちゃうわね~」


魔王から告げられた言葉に、皆が多種多様な反応を返す。


「あぁ、無論だ。だが、仕事はキチンとこなしてもらわねばならん。さぁ、誰が最初にこの水晶を手に取り、余に貢献――」


魔王が言葉を言い終わる前に、レイダーが水晶を手に取った。

そして、それをしっかりと握ると――告げる。


「その言葉、忘れんなよ」


レイダーは、暗闇に消えていった。


「あらあら~。レイちゃんに取られちゃった。魔王様~、もう一個頂戴?」

「……今の余では、一日一個作るので精いっぱいだ」

「…………なんだか、ごめんなさいね~」

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