第7話 染まる景色

 冬がもうそこまで迫った季節。

 わたしは委員会の仕事で学校便りに載せる原稿を書き上げるために、放課後の教室に残っていた。


「終わった……」


 原稿を職員室で待つ先生のところへ届けるために、急いで教室を出た。

 夕方の薄暗い廊下に、窓から夕焼けのオレンジ色が差し込んでいる。


「やば……早く帰らないと真っ暗になりそう」


 薄暗くなった廊下を、足を速めて職員室がある別棟へ向かい、渡り廊下へ続く角を曲がった。

 渡り廊下の大きな窓が、教室前の廊下よりも夕日を取り込んで、オレンジと黒の影がクッキリと別れている。

 ふと、渡り廊下の向こうから誰かがやってきた。


――小林くんだ。


 向こう側から来るということは、職員室に用事でもあったんだろうか?

 濃い夕焼けが学ランの色を変えるほど鮮やかで、すれ違う直前までわたしは小林くんから目が離せなかった。


 話さなくなって数カ月、今さらなんて声を掛けたらいいかわからないまま、すれ違ったあと渡り廊下を曲がるまで、振り返って小林くんのうしろ姿を見つめていた。


・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


 翌日から小林くんは登校してこなくなった。

 翌週になっても席は空いたままで、さすがに心配になったわたしは、思いきって小林くんと同じ中学出身の田沼たぬまくんに聞いてみることにした。

 休み時間に一人でコソッと田沼くんの教室へ行き、廊下へ呼び出す。


「なに?」


「あのね、小林くん、ずっと休みでしょ? どうしたのかな、って思って」


「あー……アイツ、学校辞めたんだよ」


「え?」


「親の転勤で引っ越したらしいんだけど、アイツ、スマホの番号も変えちゃったみたいで連絡付かなくてさ。SNSもやってないし。オレらも詳しくわかんないんだよね」


「そうなんだ……急に変なこと聞いてごめんね。教えてくれてありがとう」


 田沼くんたちも知らないなら、ほかの誰に聞いてもきっとわからない。

 転校の届けは、委員会の仕事で残っていたあの日だったという。

 どうしてまだ隣の席だったときに、連絡先を交換しておかなかったんだろう?

 あ……でも、番号を変えてしまったなら、交換しても連絡は取れなくなっていたんだ。


「あっ、相葉ってオマエだよな?」


 仕方なく戻ろうとしたところを、田沼くんに呼び止められた。


「そうだけど?」


「小林、彼女と別れたってしってる?」


「うん……噂で聞いた」


「アイツ、引っ越すから別れたんじゃねぇから」


 それだけ言うと、田沼くんは教室に戻ってしまった。

 引っ越すから別れたわけじゃないと言われても、理由も聞いていないわたしには、どうすることもできないのに。

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2024年12月12日 15:08

淡い朱色と黄金色の名残り 釜瑪秋摩 @flyingaway24

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