第5話 少佐
先程まで帝国軍がいた領地に転移したネル。
やっと到着した王国軍を待ちつつ、先の戦闘を振り返る。
「く、クク……くははははっ!! なにも、カッコいいというのは強さだけではない! その余裕、人情、そしてド派手な演出……すべて、完璧……っ!」
自分に――
「しかし、あのリーダー格の作戦を実行させなかったのはなんというナンセンス……すべて出し尽くさせたあとにへし折るのがカッコいいというのに……」
ネルにとって戦闘の振り返りは大切。
今後どれだけカッコつけられるかが決まるからだ。
「一人で突っ走りやがって…………ネル、王がお前に用があるらしい」
反省会をしている間に追いついた王国軍の隊長に、国王のもとに行くように指示される。
◇ ◆ ◇
「……王国軍に配属?」
話された内容があまりにも想定外のもので、ネルは同じ内容を反芻した。
「無理にとは言わん。しかし聞いたぞ。最初に中佐を狙うというのは確かに軍事行動には向いていないかもしれぬが、敵を戦意喪失させるという戦い方はこちらの被害を抑えるという意味でも素晴らしいものだ」
そんなことは知らなかったが、言われて確かにと頷く。
「もちろんいきなり高い役職につけるわけにはいかないが、お前の戦力と知能を鑑みて少佐から始めてみてはどうだろうか?」
「しかし、俺は冒険者としての知識しかありません。王国の破滅に導くとも言えてしまいましょうぞ」
「その点は安心してくれ。優秀な補佐官をつけるつもりだ。ミーシャ、入ってこい」
宰相が王室の外に呼びかけると、軍服に身を包んだピンク頭の少女が礼儀正しく入ってくる。
年齢はかなり若く見える。ネルからしてもカッコいいと思う、黒を基調としところどころ赤の線が邪魔にならない程度に入れられた軍服があっても、まだどこか子供らしい雰囲気を感じてしまう。
細身の体、百五十程度の身長、童顔、クリクリで黄金色の瞳など、見た目的要素も大きいだろう。
「お初にお目にかかります! ミーシャ一等軍曹であります!」
ネルの前で、足を揃えてビシッと敬礼をする。
「成績優秀、知識のことなら彼女一人で事足りるであろう。
「こんなにも若い女性が一等軍曹にまで上り詰めているのでありますか」
「というより、戦闘能力が乏しくてこれより先に上がれないというのが正しい」
だからこそ、ネルのもとに連れてきたのだろう。
これで懸念点は消えた。あとはネルのやる気次第である。
「やらせていただきます」
「えっそんなにやる気?」
自分のカッコよさを他国にまで及ばせられるこの機会、逃す手はなかった。
◇ ◆ ◇
「こんなにデカい寮……俺がもらっていいのか」
「これから小隊長に決めてもらう人たちと一緒に住むんですからね?」
より強固なチームワークを築き上げるため、小隊~中隊ごとに寮が与えられる。
これからネルとミーシャで小隊に人を集めるので、しばらくは二人の家ということだ。
「では、人選も私にお任せください! ただ、同じ志を持った者で作り上げる方がよろしいと思いますので、僭越ながら小隊長の好みの方をお聞きしてもよろしいですか?」
その言葉に少し考える。
別に厨二病の人が欲しいわけではなかった。カッコいいのは自分一人で十分だからだ。
となると、隊長の指示をちゃんと聞く者であろうか? 否、自分に付き従わない人間がこの世に存在するとは思えなかった。
剣や魔法を熱心に取り組める者であろうか? 否、自分に感化されない人間がいるとは思えなかった。
「ド派手な戦闘ができるやつ、かな……」
派手であればあるほどカッコいいと未だに思っている二十五歳一般厨二病男性ネルは、ミーシャにそれだけ伝えた。
ミーシャは配属先を間違ったのではないか、と早くも後悔する。
厨二病転生 〜もらったチートスキルはカッコいい演出に使うため。気づいた頃には「やべぇ奴」として自国にも恐れられてた〜 もかの @shinomiyamokano
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