第1章

 引っ越してから数日経った頃,,,

 僕の転校先が決まった。名前は小浜市立小浜中学校――通称浜中だと聞いた

 明後日から夏休みが終わり学校が始まるらしい。

 僕はため息を吐いて

   「めんどくせぇ」と声を漏らした。

 この日もただ一日中ゲームをするだけで引っ越して以来外にもでたことがない。

 ネガティブなことを考えて海斗は布団に顔を埋め死んだように眠りについた 。


 今日は日曜日で朝ご飯を食べるには少し遅い時間に僕は起きてしまった。

 何をすることもなくぼーっとしていると母から連絡が来ていた。

 「お昼適当に食べといてね」

   嫌でも目に入る連絡を見て僕は渋々リビングでお昼ご飯を食べた。

 ご飯を食べたあと僕は念の為通学路をネットで確認をすることにした。

  ネットの画面に写っている橋は、歩道と車道で別れているが今窓から見える景色は、二つの道が

 同じ橋で通れるようになっていた。

 気がつけば二十二時 明日から始まる学校に嫌悪感を覚えながらゲームを深夜まで進めていた。


 夏ということもあり蒸し暑く朝から気分最悪。ベッドから起きる気力もなく僕はただ天井を眺めていた。

 朝になり海斗は朝ご飯をすませいつの間にか部屋においてあった制服を着て家をあとにした。

   引っ越しのときは夜景しか見ておらず扉を開けると目の前には濃い緑と青空が広がっていた。

  東京とは全くと言ってもいいほど違う景色がそこにはあった。

  通学路には多くの浜中生がおり全員がグループを作り登校していた。

   早く学校に着きたいという思いで歩いていると信号がない横断歩道に驚いた。

 東京でも稀にしか見ない信号がない横断歩道。

   「なんで信号ないんだよ」

 声を吐いていると前を歩くの二人組に見られ、

 僕は目を合わせないように二人組から顔を反らした。

 視界の端で何かが飛んだ、また飛んだ。

 なにかと思ったら魚が飛び跳ねたみたいだ。

 (ほんと何なんだよこの街…)

 橋を三つも超えてやっと校門までついた。

 海人からするとかなりの距離を歩き疲弊しきっている。

 都会に比べたら緑が多すぎる学校だった。

 途中、若い先生が生徒に向かって挨拶をしていたが海人は無視した。

 嫌そうな雰囲気を感じ足早に教室へ向かった。

 広い中庭をあとにして玄関に入ると空気が一瞬にして変わった。

 人の話し声や笑い声海人は耳を閉じながら自分の下駄箱を確認し靴を履き替えた。

「おはようございます!」

 また挨拶された。

 海人は少し睨みを聞かせ別の館にある職員室へ向かっていった。



 私の名前は山月やまつきなな。

 自然いっぱいの小浜が私は大好きだ。

 今日も朝の散歩を済ませ、ななは朝の支度を始めたところだった、スマホが振動し画面を見ると友人の川上秋花かわかみしゅうかからメッセージが来ていた。

 秋花『今日転校してくる人東京出身の人なんだってー』

「え――――――!?」

 私は、その場で固まってしまった。

 無意識に大声を出してたみたいでお母さんに「うるさい!」と言われた。

 なな『え!?まじで!!!!????』

 東京。ネットとかテレビでしか見たことない都。

 すぐ秋花から返信が来た。

 なな『なんで東京から!?』

 なな『えっすごくない!』

 なな『どんな子?』

 秋花『えー?そんな興味あるってことはもしかしてなな転校生狙ってるの〜?』

 なな『あるわけ無いじゃんあったことないんだし』

 秋花はすかさず攻撃してきた。

 秋花『絶対このメッセージ見て叫んでるでしょ』

 自分を理解しすぎる友人に少し後悔した。

 なな『もう学校行くよ!』

 ななと秋花は、ともに浜中へ向かうのであった。


 始業式が始まった。

 僕は先生と一緒に体育館隅で校長先生のつまらない話を聞き流していた。

 転校生が来ることを知らされているのか知らないが、時々生徒の何人かが品定めをするかのようにチラチラとこちらを見てくる。

(……不快だ)

 始業式が終わったあとは担任に連れられて自分のクラスに行くらしい。

 開放的な廊下を歩き先生は

「心配しなくて大丈夫だよ」

 と声を掛けてきた。

 気がつけば自分のクラスについていた。

 入った瞬間背中にゾクッと悪寒が走った。

 みんなが見ているだけで死にそうだった。

 始業式後の学活では自己紹介という地獄のイベントが待っていた。

 「皆さんにお知らせがあります」

 先生が言った

 「転校生を紹介します、東京の中学校から来た都海人みやこかいとくんです」

「………………」

 精一杯「普通の顔」を作ったがどうなっているのかわからない。

 小さい拍手とともに一礼し海人はため息を吐き着席した。


 始業式が終わり自分の机に顔を埋め疲れていたとき秋花が、

「は〜だりぃほんと長いよね」

「それな〜」

 話が長いのに床に一生体育座りなのがこの学校の式の形だった。

「あっあれもしかしてななお気に入りの転校生くんじゃないの?」

 そう言われ顔を上げると担任が見たことない男と一緒に歩いていた。

 髪はボサボサ、目の下にはクマ、制服のサイズはあっておらずだらしない

 「皆さんにお知らせです」

「転校生を紹介します、東京の中学校から来た都海人くんです」

 教室には沈黙が流れた。

(気まず…………)

 ななは転校生が気まずくならないように大きく拍手をした。

 何も喋ることなくその男の子は、私の席の左側を通って隣列の一番うしろに座った。

 一瞬目が合い気まずくなってすぐ目を逸らした。

(かいとくん目が怖い!けど東京のことめっちゃ気になるしなぁーどうしよう…)

 秋花にグッドサインを送られ口パクで「や・め・て・よ」と言いしっかりと自分と対話し話しかけることを決意した。


 下校の準備をしていた時急に女子に「ねぇ?」と話しかけられた。

 海人はもう一度睨みつけた。

「あれ?聞こえてる?もしもーし?」

 海人はその場から逃げた。完全に関わったことのない人種だったからだ。

 下校中、慣れない橋をわたっていると後ろで「あっ!」と声がした。

 小さな声で「帰る方向一緒なんだ」と聞こえた気がした。

 振り向けばさっきの女子が近づいていた。

 海人は足早にその場から去ろうとしたがそれのほうが早くすぐに追いつかれた。

 それは

「私の名前は山月なな!えーと海人くん明日からよろしくね!」

 と言い自転車に乗り過ぎ去っていった。

 ふと見上げれば皮肉なほどに空は青く、太陽が眩しく輝いていた。



 次の日の朝

 海人の目覚めは人生史上最悪と言っていいほど悪かった。

 昨日は疲れのあまりすぐ寝てしまったのだ。

 朝からシャワーを浴びて勝手に学校へ欠席の連絡をして1日中ゲームをしていた。

 親も諦めたのか自分の部屋に話しかけることもなくなった。

 学校が終わったのか学生の声が窓越しに聞こえてきた。

 海人はそんなことも気にせずゲームに打ち込んでいた。

 

 

 今日は、二学期が始まって二日目の朝だ。

 海人くんが学校を休んでいることを知り理由もわからずななは自分のせいだと思い込んでいた。

「は〜もうどうしよう〜」

 「どしたん?」

 秋花が言った。

「かいとくん休んでるの私のせいかもな〜って」

 「気にし過ぎじゃない」

「うるさい」と言いななは秋花に体当たりした。

「うわぁ〜やめてよ笑笑」

 「とにかく!海人くんに恋愛感情とか抱いてないから!わかった!?」

「へいへい」

 転校生が来ても私のクラスはいつもと変わらない一日を過ごしていた。

 終わりの会になり誰が海人に欠席連絡を渡しに行くのか決める事になった。

 「小浜方面に帰る人で欠席連絡を届けてくれる人いますか?」

「なながいいと思います」

 秋花が言った。

「まぁ誰もいないなら行きますよ」

 ななは、そう言い先生から欠席連絡を受け取った。

 海人の家は、川のすぐそこに位置したマンションに住んでいた。

 (なんかレトロだなぁ...)

 門をくぐり抜けななは、「うわぁ〜」と声を漏らした。

 庭の面積は広く大きな木や細長い石碑がおいてあった。

 海人の家は二階の右突き当たりにある。

 インターホンを鳴らし少しの間待つと母親らしき人物が現れた。

 「はーいあら海人の彼女?」

 「ちがいます!」

「海人くんのお便り持ってきました」

「わざわざありがとうねぇー」

 母親は一礼した。

「いえいえそんなただ届けに来ただけですよ」

「海人は昨日の学校大丈夫だった?」

「すごい無言で顔も恐ろしかったし無視されたけどまぁ大丈夫だと思いますよ?」

「あなたのこと無視したの!?」

 母親は少し怒っていたがななには優しく話掛けてくれた。

「海人叱らなくちゃね あなたお名前は?」

「山月ななです」

 そう言うと母親は、ポケットからスマホを取り出し

「連絡先交換しましょ」

 QRコードをななに見せた。

「えっ?いいんですか?」

「学校での海人の事も聞きたいしね」

 「わかりました」

 ななはカメラでQRコードを読み取りフレンドとして海人母が追加された。



 部屋に母親が入ってきた。

 開口一番「なんで学校いかなかったの!?」

 と説教を食らった。

 これまで同様母親の言うことは無視し続けた。

 それを狙っていたのか母親がここぞとばかりに話しを振った。

「あなた自己紹介の時なんも話さず終わったんだってね笑」

「コミュ障出すぎじゃない〜」

 海人は、耐えられず大きな声で

「黙れ!」と怒鳴った。

 母親は、びくともせず海人に語りかけた。

「東京のときもそうだったけどいい加減人と関わることに慣れなさい」

 強い口調で続けた。

「このままだと社会に出ても何もできないよ!」

 海人は、言い返すこともできず固まってしまった。

 母親は「ちゃんと考えなさい」と言い部屋をあとにした。

 何かが書かれた紙が床においてあったがそれを無視し海人は布団に身をうずめた。



 その頃ななは、友人の秋花とのメッセージのやり取りを楽しんでいた。

 秋花『今日は来なかったんだね都さん』

 なな『家には居たっぽいけど』

 秋花『おいおいマジかよもうそんなつながってんの笑』

 なな『ほんと一回黙ろうね』

 秋花 『………………』

 なな『秋花こそ気があるんじゃない?』

 秋花『私彼氏いるし』

 なな『えー!彼氏いたのー?マジ初耳』

 秋花『まつりのとき告られてオーケーしちゃった笑笑』

 なな『へー』

 秋花『でさ宿題のことなんだけど』

 なな『………………』

 これ以降ななからの返信はなかった。

 (こいつ寝たぞ)

 秋花は『おやすみ』と送信し画面を閉じた。

(あの二人はどうなるのかね〜)

 少し妄想をはかどらせながら秋花も眠りについた。


 次の日、海人はマウスの不調を感じていた。

 何回かポインターの調整を行ったがなかなか思い通りに動かなかった。

 通販サイトで新しいマウスを探しいると母親が部屋に入ってこう言った。

「今から買い物行くけどついてくる?」

「いかない」

「ちょうど家電量販店の近くまで行くからついてきたら?」

「いかない」

 母親が画面を見ながら海人を誘ってきた。

「試しに動かすこともできるしいいんじゃない?」

「まぁいいからついてきなさい」

 (外、出たくない……)

 海人は強引に引っ張られ車に乗った。

 今日も田舎は晴れておりとても眩しかった。

 海人は、車の中でもシューティングゲームに打ち込み時間を潰していた。

 「私達は、近くで買い物してるから終わったらそこの書店で待ってて」

 母親が言い海人は頷いた。

 それを確認した母親は、「じゃあね」と言い手前のスーパーへと歩いていった。

 家電量販店では、

 広いスペースに商品が並んでおり探すのも一苦労だった。

 店員に話しかけることすらできない海人は、さまよいながらもマウスのコーナへと足を運んだ。

 いつも使っている会社のマウスを購入し海人は、すぐさま店内を出た。

 少し歩いたところにある書店で漫画やラノベのコーナーをうろつき時間を潰していた。

 

 ふと聞いたことのある声が聞こえてきた。

 声の聞こえた方を見ると見知った顔があった。

 いつも何かと声を掛けてくる女子と初めて見る女子がいた。

「あっ海人くんじゃん!」

「なんでここいるの?外出れたんだね!ラノベとか読むの?」

 一気に飛んでくる質問に海人は耐えきれず逃げようとしたが知らない方が有無を言わさぬ顔で後ろに立っていた。

「ちゃんと話聞いてあげな?」

 引きつった笑顔に海人は逃げることができなくなっていた。

「今日は、本買いに来たの?」

「いっ、いや違う」

 初めての会話がようやく成立した。

 ななは、嬉しそうに質問を続けた。

「マウス買ったの?かっこいいね!」

「私はね今日発売の本を買いに来たんだよね〜」

「本田先生のマイストーリーっていう物語なんだけどねこれがまた……」

 あらすじを話す前に知らない方が、彼女の口を塞いでいた。

「はぁ~いもうおしまいうるさすぎて嫌われちゃうよ〜」

 「ちょっとやめれよ秋花〜〜」

 口を塞がれたななは、秋花になにか耳打ちしていた。

 それを聞きニヤついた秋花がこういった。

「なになに〜?海人くんにこの本読んでほしい〜?」

「なんで言っちゃうの!」

 ななは顔を赤くし秋花をポカスカと殴った。

 反対に海人の背中には、悪寒が走っていた。

 秋花は、『マイストーリー』を持ち上げ海人に「ニコッ」と効果音が付きそうな笑みを浮かべた。目の奥では決して笑っていなかったが。

 「読んであげて」

 半ば本を押し付けられて最悪そうな表情を浮かべたが秋花の圧には勝てず雰囲気で買ってしまった。

 別れ際、ななは「読んだ感想聞かせてね!」と海人に手を振りまた別のお店へと入っていった。

 買い物が終わった母親と合流した海人は車に乗った時、

「海人も暇だしお父さん連れて山行こっか!」

 母親が言った。

 「えっなんで?」

 とっさに声が出た。

「いいじゃないまだ小浜堪能してないし」

「ふーん」

 海人は知らん顔してゲームを始めた。

 OKサインと受け取り荷物を起きに家に帰った。

 


 父親が合流し車の中は引っ越しと同じ三人が乗り父母の会話が響いていた。

「今日行くところはどこにしたの?」

 母親が質問した。

「上司が話してたエンゼルラインってところにいくよ」

 父親があらかじめ計画していたらしく説明を始めたところで、

 海人はヘッドホンを付けゲームに打ち込んでいた。

 「小浜を一望できる展望台があるらしくて見ごたえあるらしいよ」

 「まぁいいわね!お父さんコーヒーちゃんと持ってきた?」

「その準備は抜かりないですよ」

 ゲーム画面の周りで動く景色は青が多くなんの邪魔にもならなかった。

 一向を乗せた車は山道に入り緑が多くなっていった。

 木の間からチラチラとのぞかせる光が海人には鬱陶しくゲームをするのを諦めた。

 ふと顔を上げると海と山の間に小さくまとまっている小浜が見えた。

 天気が晴れているのもありかなり美しい方だった。

 そこで車を止め親が写真を撮っていた。海人もつい外に出てシャッターボタンを押してしまった。

 日光に反射した建物たちの光もありとてもきれいに見えた。

 少し坂を上がると縄のついた岩を見つけた。かなりデカく説明もついていた。

「大神岩」は良縁、福徳円満と家内安全の意味があるらしい。

 また写真を撮ってしまった。これまでゲームの画面の写真しかなかった海人のフォルダに二枚ほど景色が追加された。

 これまできれいだと思っていたイラストとは、また違う美しさがあり海人は少しの間眺めていた。

 だが自分のしていることがアホらしく思いすぐ車に戻った。

 少し時間が経ち、

「すごいね!小浜ってこんなきれいなんだね!」

 と喜んで帰ってきた。

 両親の会話を適当に聞き流し外を眺めていると、「蘇洞門」 と書いた看板を見つけた。

 訳のわからない漢字は流し歩く場所というのはわかった。

 そこへ歩いてく人たちは皆リュックやストックを持ち集団で移動していた。

 気になった母親が、

 「すみません!どこに行くんですか?」

 と質問していた。

「今から儂ら”そとも”見に行くんよ」

「そとも?」

「あんた知らんのけぇ?変わった人じゃ」

「そともはのう、、、、なんじゃったかな」

「まぁ調べたらわかるわい、それじゃ」

 結局そともとは何かわからず疑問を抱えたまま歩く人達を見ていた。

「結局わからなかったわね」母親は少し悲しい顔をしていた。

「山頂についたら調べてみるよ」父親が母を慰めた。

 また車を再発進させるのであった。

 急勾配の坂を車で駆け上がりようやく第一展望台へついた。

 人はそれなりに居り中には自転車で来る人もいた。

 車から出ると何にも遮られない大きな青空が近くで見えた。

「おぉ」と思わず声が出てしまった。

 景色はいいのに上には何もなく少し寂しさも感じた。

 両親はとても楽しそうに写真を取っていた。

 自分も一枚だけ写真を撮り周りを散策した。

 別の場所に移動すると、奥まで続く島が見ることができた。

 車の中でも見た形だがとても複雑でとても面白かった。

 隣には、でっかいカメラを持ってなにかを撮る人もいた。

(寒い……)

 海人は、車に戻りSNSでゲームの最新情報を見ていた。

 コーヒーを飲み一息ついていた両親も戻ってきて今日はもう家へ帰ることになった。部屋につき机を見ると今日買わされた『マイストーリー』が置かれていた。読みたくないということはなかったので読書をしながらゲームをしていつもと少し違う一週間を過ごした。

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小浜の風に吹かれて OJH @OBJH2024

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